投稿日:2025年7月14日

各種高温装置における様々な要因と腐食事例防止対策エロージョンコロージョン酸露点腐食の基礎と対策

はじめに:高温装置と腐食リスクを見つめ直す

近年、製造業では省エネルギー化や生産効率向上を目指して高温プロセスの活用が進んでいます。

一方、そんな現場で常に立ちはだかるのが「腐食」という経年劣化の問題です。

腐食は配管や機器の健全性を損ない、生産停止や重大事故につながりかねません。

特に、エロージョン(摩耗)、コロージョン(腐食)、酸露点腐食といった、複雑な現象が絡み合う高温環境では、その対策が技術者の腕の見せ所になります。

今回は20年以上高温装置に携わった現場視点から、実際に起きやすい腐食事例と、現場で即活用できる現実的な防止策、そしてアナログ業界でなぜ“昭和のやり方”が根強いのかも掘り下げます。

高温装置で発生する腐食:基礎メカニズム

コロージョン(腐食)の基本

コロージョンとは、金属が化学的または電気化学的に環境と反応し、劣化・損傷する現象です。

空気中の酸素、水蒸気、排ガスの成分、さらには燃料中の硫黄分など、様々な要素が複雑に絡み合って進行します。

特にボイラー・熱交換器・反応炉など高温機器では、表面温度条件が通常より過酷になりやすく、短期間で機器トラブルに直結することが多々あります。

エロージョンコロージョンとは

エロージョンコロージョン(Erosion Corrosion)は、「流体による摩耗」と「腐食」が同時に進行する現象です。

たとえば高温蒸気やペレット(粉体)が高速で接触する配管内壁、ボイラーチューブ、サイクロンの曲管部でよく起こります。

機械的な摩耗と金属の腐食反応が互いに増幅し、従来の腐食より加速度的に進行するため、未然の対策が求められます。

酸露点腐食:特有のリスク

酸露点腐食(Acid Dew Point Corrosion)は、排ガスに含まれるSO2などが高温帯から冷却される過程で酸を生成し、装置の冷却壁や低温部品に酸性液滴が付着することで進行します。

特に石炭・重油・廃棄物燃焼ラインでは多く、油臭やわずかな温度低下でも激しい腐食穴が現れることがあります。

排ガスの化学分析だけでなく、露点温度を正確に把握し、その範囲で温度低下をいかに防ぐかがカギとなります。

現場で頻発する腐食事例と「見逃しやすい落とし穴」

配管内壁・湾曲部の急激な減肉

高温配管の曲がり部や絞り部では、流速の増大・乱流・粒子衝突などでエロージョンが起きやすく、短期間のうちに1ミリ以上減肉することもあります。

また、溶接や補修あとがピット点(小さな穴)の起点となり、腐食の拡大を招く場合も多く、工場停止時の内視鏡点検や超音波肉厚測定が重要です。

ボイラーチューブの“うろこ状スケール”と地味なトラブル

多くの現場で「ボイラー管にスケールが付着し熱伝導が下がった」と言われることがありますが、厄介なのは表層の“うろこ状スラグ”の下で進行するコロージョンです。

表面の異常だけで安心せず、スケール下の腐食が進んでいないか常に注意が必要です。

また、還元雰囲気(酸素が乏しくなる場所)では割れや破断が一気に進行することもあります。

酸露点腐食によるダクト・煙道の穴あき

低温部ダクトや空気予熱器では、排ガスの一部が想定より早く冷却され、SO3由来の硫酸ミストが生成されることがあります。

これが鉄やめっき鋼に付着し、短期間で貫通穴や大面積の減肉を起こすケースが多発しています。

特に冬場、起動・停止が多い現場で顕著です。

遠赤外・サーモカメラなど非接触の監視ツール導入も今や必須になりつつあります。

アナログ現場での“昭和的”課題:なぜ腐食対策が進まないのか

“現場合わせ”の工事文化と属人化

多くのベテラン工員や保全担当者は、長年の経験から「この温度なら大丈夫」「この厚みならもつはず」といった現場勘に頼りがちです。

しかし、急速な原材料・燃料の多様化、加えてデータ化されていない過去工事といった“昭和の積み重ね”が、現代の腐食トラブル増加の原因にもなっています。

属人的ノウハウに頼るだけでなく、定量的なチェック体制に変革していく必要があります。

見積・コスト意識偏重による材料ケチり

バイヤーやコスト管理部は、安全・耐久材料提案があっても「過剰品質」「今までと同じ材質で良い」と単純なコストミニマムを重視しがちです。

しかし安易なコストダウンが腐食リスクを招き、結果として大事故や長期停止による損失につながります。

サプライヤーも、本音ではリスク警告を出したいものの「バイヤーがコストしか見ず採用されない」という本質的矛盾を抱えています。

検査頻度の“思い込み”と計画停電の縛り

「年に1回検査しているから大丈夫」という定番フレーズも、腐食現象の進行ペースや部位ごとのリスク差を無視したものです。

日々の運用温度・使用条件によって腐食は劇的に進行することがあり、特にレアケースの異常が発生する時は“年1”検査など気休めにすぎません。

定期点検と随時点検のハイブリッド監視、IoTセンサなども活用していくべき時代に来ています。

腐食防止・被害軽減に向けた現場実践策

材質選定:コストと耐食性のバランス

最重要なのは、運用温度・流体の種類・露点コントロール温度など条件に合わせた材質選びです。

高温ならクロム・モリブデン鋼やステンレス、酸露点域ならは高Si鋼、ニッケル系、あるいはセラミックライニングなど、現場限定の特殊素材が威力を発揮します。

なお、安易なグレードアップはコストに響きやすいので、“どこまでなら経済的か”の見極めが肝心です。

バイヤー・サプライヤー双方で「なぜこの材質が必要なのか」を数値とシミュレーションに基づき合意形成することが大切です。

保守・点検サイクルの最適化

腐食が発生しやすい部位(配管カーブ、焚口、ボイラー水側溶接部など)は、重点的に超音波厚さ測定や内視鏡検査を行うべきです。

さらに、AIやIoTセンサで常時モニタリングする仕組みを入れることで、「兆候をつかみ、計画的に部品更新」へと進化できます。

アナログとデジタルを賢く併用することが、これからの製造業、バイヤーの新標準になります。

サプライヤーの立場でも、「なぜこの検査提案が合理的か」を丁寧に伝えることが信頼につながります。

運転条件の最適化と教育の重要性

酸露点部・エロージョン部など「危険部位」を特定し、操作員に簡単なチェックポイントを教育することも効果的です。

たとえば「急停止・急昇温を避ける(温度の緩和運転)」や、「異常時にはすぐに上長・専門業者と連携する」といった現場力の強化が、トラブル未然防止につながります。

現場ノウハウを若手や新規参入者にうまく共有することも、脱“昭和構造”への大事なステップです。

腐食対策の新機軸:製造現場の進化へ

腐食リスクの顕在化に向き合い、一過性のトラブル対応から抜け出すには、現場の“昭和的思考”と「コスト中心主義」から目を覚ますことが不可欠です。

バイヤーは、短期的なコストではなく総保持コスト(LCC)の観点でサプライヤー提案を評価し、現場は定量的かつ計画的な点検・保守体制づくりに舵を切るべきです。

また、サプライヤー・ベンダーも「買い手が何を気にしているか」「現場の困りごとにどう応えるか」のストーリー提案力を高めることで、協働関係が進展します。

まとめ:実践的腐食対策が現場を支える

各種高温装置に付きまとうエロージョン、コロージョン、酸露点腐食は、現場環境や時代背景に応じて変化を続けています。

技術と教育、予防保全、デジタル監視の最適化を三位一体で進めることが、製造業の持続的発展と安全の原動力です。

今ある機器を“使いきる”ためにも、バイヤー、現場技術者、サプライヤーが共通の知識・危機意識・対策意図を持つことが不可欠です。

一歩進んだ腐食対策で、あなたの現場を次世代の競争力へと進化させましょう。

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