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信頼性作り込みのための実装基板の故障解析と信頼性試験技術

目次
はじめに
信頼性という言葉ほど、製造業の心臓部を象徴するものはありません。
特に、電子機器や精密装置の進化が著しい現代において、実装基板の信頼性向上は、製品価値の根幹をなすテーマです。
しかし、多くの現場では、依然として過去のやり方やアナログな手法が色濃く残り、根本的な故障原因の特定や信頼性評価が課題として横たわっています。
今回は、20年以上の現場経験と管理職視点から「実装基板の故障解析」と「信頼性試験技術」について、実践的かつ今必要とされる視点で深堀りします。
市場と現場のギャップ:昭和的発想からの脱却
製造業の多くでは、“昭和の職人技”を美徳としつつも、デジタル化や自動化の波に飲み込まれきれずにいます。
その背景には、設計・調達・生産・品質管理が縦割りで動いている現状と、現場の「経験則」に頼る風土、そして重視されてこなかったデータ蓄積と活用の未熟さがあります。
そのため、基板や実装品が「なぜ壊れるのか」を根本的に分析できず、結果的に「対症療法」止まりとなるケースが多いのです。
これでは信頼性は向上しません。
今こそサプライチェーン全体で「なぜ?」を突き詰め、故障解析や信頼性試験に“現場力”と“デジタル技術”を融合させるアプローチが不可欠です。
故障解析の現場から:実務で求められる視点とは
1. 故障兆候の“見える化”力を鍛える
基板事故の初動対応で、最も大切なのは“現物”を見ることです。
現代の製造現場では自動検査や画像判定が当たり前ですが、匠の現場目線—すなわち、光に翳す、拡大して見る、匂いをかぐ、手で触って温度変化を確認する—など五感をフル活用した観察は今も重要です。
不良部位のパッド変色、IC周辺の膨れ、微妙な半田割れやクラック、フラックス残渣、コンデンサ膨張、基板のコゲ・変形など、微かな兆候から“異常の種”を見逃さないことが信頼性向上の一歩です。
2. 失敗の履歴管理とデジタル分析を両輪にする
昭和的な感覚だけでなく、データの蓄積と活用を進めましょう。
不良発生時には、異常の種類・位置・発生タイミング・ロット・作業者・設備状況など、できる限り多くの情報をデジタルで記録し蓄積します。
このデータに機械学習や統計手法を組み合わせれば、不良品の傾向分析や“再発防止のための因果関係”も抽出できます。
これがサプライヤー/バイヤー関係における透明性とスピード重視の問題解決に直結します。
3. サプライヤー協働での原因追及力を鍛錬する
現場最前線で感じるのは、「これサプライヤー側の課題だから」と責任転嫁する文化が未だ多いという現状です。
しかし、調達・供給両者がデータと現物を前に“膝詰め現場ミーティング”を開き、ロジックと現象を冷静に突き合わせる現場こそ、真の故障撲滅が生まれます。
たとえば、はんだ割れは“実装条件”のせいにしがちですが、ICのリード成分変化や基板メッキのバラツキ、洗浄不良など“境界面の化学的変化”が原因のことも珍しくありません。
ここを“工場~調達~設計”がワンチームで同時に眺め、「根元原因抽出」で合意形成することが大切です。
信頼性試験技術の実務ノウハウとラテラルシンキング
1. “売り手本位”から“使い手目線”の試験設計へ
信頼性試験というと、よく使われるのが「標準に則った温度湿度サイクル」「加振テスト」「電食試験」などです。
しかし、これだけでは現場のリアルな故障モードを網羅しきれていません。
近年は、顧客がどういう環境下で使うのか、現実的な悪条件(日照、潮風、電波ノイズ、微振動、機械的ショックなど)も考慮した「実フィールドを模擬したオリジナル試験」の導入が進んでいます。
“標準”の枠を越えた、顧客現場や市場クレームのフィードバックを元にした試験設計こそ、これからの信頼性評価のカギです。
2. 加速試験の「意味」と「限界」を理解する
市場で10年間無故障、という保証は現実不可能です。
だからこそ「加速寿命試験」に頼ることになりますが、ここで重要なのは、「実際の故障メカニズムを加速試験でも再現できているか?」という視点です。
多くのケースで、“熱サイクル”や“はんだ接合部の割れ”は実用環境下に比して人工的に過酷条件を強いるため、現実の破壊モードと異なる現象が出てしまう危険があります。
加速因子(温度、湿度、電圧)の選定や試験パターンの根拠を、よくメカニズムとセットで論理的に議論することが重要です。
3. AI・IoT活用での「状態監視」と「予兆検知」へ
実装基板の信頼性評価も、これからは“壊れてから対処”から“壊れる前に手を打つ”時代です。
実際のフィールド設置品にIoTセンサーを組み込み、温度、湿度、振動、電流値、異常ノイズなど「パラメータの異常を連続監視」する仕組みが広がりつつあります。
これにAIの異常検知アルゴリズムを組み合わせ、トラブル“予兆”を検知し、保守や交換のタイミングを最適化する「予知保全」へと進化しています。
データと現場両方の目で見守ることで、製造品質の新たな地平線が開くでしょう。
バイヤー視点からの実装基板信頼性評価の現実
1. 求められるのは「第三者目線」と「ロジック」
近年のバイヤーは、単なる価格競争ではなく、“納入後の信頼性保証”や“品質問題が起きた際の迅速な分析報告”まで重視する傾向が強まっています。
「10万時間無故障保証」などの数値も大事ですが、それ以上に重要なのは、“どんな不良が出たとき、どう解析し、どう改善につなげるか”のプロセス能力を見極める力です。
ここで効くのは「故障解析の社内体制」「過去の不良・対策実績」「試験データ開示」「工程監査対応力」など、第三者の視点でサプライヤー管理を進めるロジカルなコミュニケーションです。
2. サプライヤーから見たバイヤーの考えること
サプライヤーの立場では、「仕様通り納品していれば良い」だけでは通じません。
高信頼性部品は“納入時点での合格”以上に、“現場での成功体験”と“市場クレームゼロの履歴”が大きな評価対象になります。
バイヤーが求めているのは、「トラブルの先手対応」や「トレンドの提案能力」であり、故障モード解析を体系化し、未発生不良の“予兆”や“他業界の先進事例”まで柔軟に提示できるサプライヤーが選ばれる時代です。
単なる“御用聞き”から“共創パートナー”へと、業界の主従関係はこう変わりつつあります。
信頼性を極めるために:ラテラルシンキングのすすめ
1. 分野を越えた新たな故障防止策へ
多くの工場では「前例踏襲」の考え方がまだ根づいています。
ですが、信頼性を本質的に高めるには、隣接分野や他業種からの発想転換(ラテラルシンキング)が不可欠です。
たとえば、自動車業界で使われる「FMEA(故障モード影響解析)」を民生品に応用、半導体のクリーン管理ノウハウを食品工場に流用、逆に“現場の声”をソフトウェア品質マネジメントに落とし込むなど、異なる領域をクロスオーバーする“知の融合”がブレイクスルーを生むのです。
2. 技術力だけじゃない、対話と価値観のアップデートを
信頼性問題は、技術者だけの課題ではなく「設計・調達・生産・品質・現場・サプライヤー」すべてのコミュニケーションの賜物です。
“問題があればすぐに報告できる雰囲気”“現象から原因まで丁寧にブレイクダウンする文化”“データ重視と五感観察のハイブリッド”を、社内外で醸成していく必要があります。
過去の敗因分析も未来の提案力も、いかに多様な人材の知見を集め、対話によって組織の知性を引き上げていくかが、最先端の信頼性工場を作る鍵となるでしょう。
まとめ
実装基板の故障解析と信頼性試験は、アナログな現場経験も、先端のデジタル技術も、総動員する「現場力×データ活用×対話力」の勝負です。
昭和の職人技を大切にしながらも、DXやIoT、AIといった最先端ソリューションを積極的に取り入れ、「なぜ壊れるのか」「どうやって未然防止するのか」を全方位から掘り下げましょう。
業界の慣習を乗り越え、皆さんの職場が“信頼性日本一”を目指せることを願ってやみません。
さらに深い知見や具体的改善事例が気になる方は、ぜひ現場対話や専門セミナー参加もご検討ください。
製造現場から信頼性の新時代を、共に切り拓いていきましょう。
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