投稿日:2025年9月24日

デザイン軽視が原因で現場の理解を得られない失敗談

はじめに:デザイン軽視はなぜ起こるのか

製造業の現場では、「デザイン」という言葉が往々にして軽視されがちです。

ここでいうデザインとは、製品の外観的な美しさだけではなく、ユーザー体験、作業のしやすさ、安全性、保守性、調達しやすさといった「使いやすさ」や「現場への配慮」をどれだけ設計に盛り込めているかという意味合いも含みます。

昭和から続くアナログな伝統、現場主導の職人気質、帳票文化など、日本の製造業は現場の保守性の高さによって高品質を維持してきました。

しかし、そんな業界こそ「デザイン軽視」がもたらす弊害は根深く、現場の理解を得られないまま導入・改善・新商品企画が頓挫する事例が後を絶ちません。

本記事では、実際に現場で起きた失敗談やその要因、典型的なパターン、そして今後求められるマインドチェンジについて、バイヤーやサプライヤー、そして設計・生産管理・品質管理すべての方に役立つ視点で解説していきます。

現場の理解を得られない典型的な失敗談

事例1:現場作業者の動線を無視したレイアウト変更

ある食品工場での話です。

本社の設計部門が、生産性向上のため最新ロボットを導入しラインレイアウトを刷新しました。
理論上は生産効率10%アップ。
しかし、現場作業者の動線や普段のちょっとした手作業、応急処置のしやすさ、工具・パーツ箱の置き場などが一切考慮されていませんでした。

新ラインの運用初日、作業員は「ものすごく動きづらい」「工具を取りに行くために作業を止めざるをえない」「不良が出た時の対応が遅れた」と不満続出。
デジタルツインの図面上では完璧な計画だったのに、現場の「ちょい技」や「暗黙知」を無視したため、わざわざ手戻りを重ねて再設計する羽目になりました。

事例2:調達購買部門を無視した部品設計

自動車関連メーカーでは、設計者が「一番いい部品を」と欧州製の特殊なパーツを選定。
完成までは美しい設計でしたが、いざ量産体制に入ると…
・納期が極端に長い
・急な数量変更に追従できない
・調達コストが跳ね上がる
・トラブル時も国内ではすぐに入手できない
調達購買部門とサプライヤーは右往左往し、最終的にモノづくりとして現場が回らなくなりました。
「かっこいい設計と実現性は別」という冷静な声もあがりました。

事例3:カタログスペック重視での設備導入

設備投資の判断では、「こんな機械が欲しい」「自動化、DX化だ!」とカタログスペックばかり比較しがちです。
しかし、現場のメンテナンス性や、熟練オペレーターの微妙な調整技術を活かせる設計になっているかはほとんど議論されないこともしばしば。
現場に導入されたものの「現状の製造物と噛み合わない」「トラブル時の対応が不明」「結局従来機の方が安定している」など、誰も使わなくなる設備と化すこともあります。

なぜこうしたデザイン軽視が発生するのか

1.設計と現場の分断

工場と設計部門(本社・技術センター)は物理的にも心理的にも距離ができやすいです。
設計・開発サイドは「図面上で最適」を追い、現場は「不測のトラブルに即座に対応できる柔軟性」を重視しがちです。

2.コミュニケーションコストの未認識

規模の大きなメーカーほど、「説明は聞いたからもう分かっただろう」という思い込みが生じ、現場との意見交換が形式的になりがちです。
現場作業者の暗黙知やちょい技、調達購買の裏事情といった「実際に回すためのリアルな会話」こそ最重要なのですが…。

3.業界慣習・昭和的マインドの残存

「昔からこのやり方でやってきたから」と保守的になるあまり、変化への抵抗感から、かえって新しい発想(UX/UIやDX発想、現場目線でのデザイン)が後回しになります。
設計部門も現場調整の声が通らない・無視されやすいというジレンマを感じやすいです。

デザイン軽視の根底にある本質的な問題

ユーザー(この場合「現場」)視点が抜けている

製品開発で言えばエンドユーザーを、工場改善で言えばライン作業者や調達担当を「想定利用者(ユーザー)」として捉える視点が希薄です。

モノづくりの現場において「最終的な使い手(=現場)が納得できるか?」にこだわることが、ロスの本質的削減や魅力的な製品/流れを生み出す第一歩になります。

現場の「当たり前」こそ高水準なノウハウ

たとえば『帳票一枚のちょっとした記入欄の配置』や『ラインへの物の流し方』『保管スペースの30cmの差』が、現場効率を大きく左右します。
こうした改善は本来「現場からしか気付けない」ポイントです。
設計・マネジメント層は、現場の細やかな当たり前や工夫を徹底的に観察し、なぜそうしているのか深く掘り下げなければいけません。

「現場に理解されるデザイン」への転換のヒント

ジョブローテーションと「現場同志」コミュニケーション

設計・調達の担当者が、定期的に現場作業や工場勤務を経験し、一緒に汗をかくことで「使いやすさ」の本質が見えてきます。
逆に、ベテラン現場作業者の知恵や要望が、設計段階から積極的にフィードバックされる仕組みを築くことも大切です。

調達購買から見る「いいもの」とは?

・同一機能でも、より安定供給とリスク分散が可能か
・発注変更やイレギュラー対応が柔軟か
・現場に負担(例:特殊工具、複雑工程、分解困難)がかからないか
こうした視点は、設計図面だけでは絶対に浮かび上がってきません。
サプライヤー側も「図面なりのベスト提案」だけでなく、「現場・調達の使いやすさ」「予備部品対応のしやすさ」などを含めて提案できれば選ばれる可能性が高まります。

サプライヤーが共感を得るために

提案時に「なぜこの設計なのか」「どの現場作業フローを想定しているか」「調達・保守・品質保証にどんな効果があるか」を事前に寄り添う発想で説明できるかが採用率の分かれ目です。
「この帳票、A4ではなくB5でいかがでしょう」など、現場運用のリアルを意識したひと工夫がモノを言います。

最新トレンド:DX化×現場の暗黙知

クラウドを用いたデザインレビューや、3Dシミュレーションだけに頼らず、現場ベースでのVR検証やペーパーモデルによる動作テストを必ず導入する傾向が広がってきています。
アナログな現場の「なぜ」をDX化へしっかり移植できるチーム作りが、これからますます重要です。

まとめ:デザインは現場の声を組み込んで価値を生む

現場の理解を得られないデザインは、「絵に描いた餅」で終わります。
設計・調達・現場・サプライヤー、それぞれが日々の小さな気づきや暗黙知を持ち寄ることで、コストダウン・効率アップだけでなく、現場全体の満足度や品質も飛躍的に向上します。

デザイン軽視による失敗談は、これからの製造業が新たな一歩を踏み出すための貴重な教訓です。

日々の改善活動や企画の場面で「現場目線で本当に使いやすい・運用しやすいデザインか?」を問い続けてみてください。
それが結果的に、日本のモノづくりをもっと強く、もっとおもしろく進化させるきっかけになるはずです。

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