投稿日:2025年6月20日

はんだ接合部における各種故障メカニズムと試験方法・信頼性向上策

はじめに:はんだ接合部の重要性と現場のリアル

はんだ接合部は、電子基板や電子部品のつなぎ目として、現代製造業の心臓部ともいえる存在です。

どれだけ精密な設計や高性能な部品を使っていても、はんだ接合部が脆弱であれば、全体の信頼性が損なわれます。

特にIoTやEV、自動車・医療機器といった高度な安全性が求められる分野では、はんだ接合部の品質が製品ライフサイクル全体を左右します。

長きにわたり現場を見てきた私の実体験を交えながら、はんだ接合部の故障メカニズムから試験方法、そして信頼性向上策までを、アナログ色の強い製造業界で今まさに求められている実践的な視点で解説します。

はんだ接合部の基礎知識

はんだ接合部の役割と特徴

はんだ接合部は、電子部品のリードや端子をプリント基板(PCB)や他の部品へと機械的・電気的に接続します。

接合部はその微小な領域で、大電流や熱サイクルなど苛酷な環境変動にさらされます。

従来は鉛はんだが主流でしたが、環境規制(RoHS指令等)により鉛フリーはんだ(Sn-Ag-Cu系など)が主流となってきました。

この材料変革が、新たな故障メカニズムや課題を生み出しています。

現場でよくある“落とし穴”

一見きれいに見えるはんだ付けも、わずかなプロセス変動や材料トラブルが後々大きな信頼性低下につながることが少なくありません。

現場では「工程が忙しく目視検査だけで通してしまう」「技術伝承が属人的で、原因分析が不十分」などの課題も根強いです。

こうした背景を踏まえて、はんだ接合部で起こる主な故障メカニズムを次に解説します。

はんだ接合部の主要な故障メカニズム

1. クリープ疲労・サーマルサイクル疲労

はんだは金属ですが、プラスチックと比較されるほど変形しやすい金属です。

温度変化のたびに、異種材料(例えば、基板と部品)の線膨張差によって繰り返し応力が発生します。

この繰り返し応力がはんだ接合部に微小な亀裂を発生させ、次第に進展して断線につながる現象が「クリープ疲労」や「サーマルサイクル疲労」です。

EVや車載電子部品でしばしば致命的な不具合原因となります。

2. IMC(インターメタリック化合物)層の成長・やせ型破壊

はんだ合金と接続される銅パッドや部品リードの間には「IMC層」が形成されます。

鉛フリー化によって、この層の成長速度や脆性が従来よりも深刻なトラブル要因に。

長期信頼性を損ねたり、組み立て直後の冷却工程で層が厚くなり過ぎて脆い破断(やせ型破壊)が発生することもあります。

3. はんだボール・ボイド・ブリッジ

製造現場で見逃されがちな「はんだボール(小さな粒状のはんだ)」や「ブリッジ(隣接パターン間の短絡)」は、大量生産ラインで発生頻度の高い不良です。

また、「ボイド(気泡)」は、熱伝導の障害や強度低下を引き起こします。

X線検査などによる工程内のモニタリングが重要です。

4. マイクロクラック・フィレットリフト

サプライヤー目線から言うと、はんだ接合部の微細なクラックやフィレット(はんだ盛り部分)が浮き上がる“フィレットリフト”は、一見外観で気付きにくく、信頼性試験や抜き取り試験でしか顕在化しないケースも。

部品端子や基板が鉛フリー用に最適化されていないと顕著です。

はんだ接合部の評価・試験方法

疲労・熱サイクル試験

加速劣化試験として最も代表的なのが「サーマルサイクル試験(-40℃↔125℃などを繰り返す)」です。

長寿命を保証する自動車・産業機器用途では、1000サイクル超の試験が求められることも珍しくありません。

どの温度範囲で何サイクルクリアすればいいかは求める製品ごとに規格(JIS, IEC, JEITA等)や顧客要求仕様に従います。

せん断試験・引張試験

接合強度を定量的に評価する方法です。

特にSMD品は、基板上のはんだ付け部を横方向または垂直方向に一定速度で引っ張ることで、何N(ニュートン)の力で剥離するか測定します。

現場ではロットごとに抜き取り検査や新規部品の初品評価でよく用いられます。

X線透過画像検査・外観自動検査

ボイドや内部クラック、ブリッジ、はんだ量不足などを非破壊で検出します。

最近はAIを使った自動検査機も登場し、検査効率と判定精度が飛躍的に向上しています。

工程内でこれらのモニタリングが普及することによって、人手不足や技術者の技能差・属人化をカバーできるのも大きなメリットです。

インピーダンス測定・導通試験

はんだ接合部の初期不良を電気的に判定するため、基板組立後には導通チェックやインピーダンス測定が行われます。

量産現場では通電検査とX線検査など、複数手法の併用が理想的です。

信頼性向上のための現場実践策

設計段階での“DFx”徹底

現場で最も効果があるのが、設計初期段階から「DFM(製造性設計)」「DFR(信頼性設計)」の考え方を徹底することです。

部品パッドサイズや配線ピッチ、熱分散設計、はんだの種類や厚みまで、現場の実情を熟知した設計者が絡むことで、不良を未然に防げます。

バイヤーやサプライヤーも協力し、部品選定時から温度サイクルや応力への強さをデータで比較する目を持ちましょう。

プロセス管理の自動化・デジタル化

多くのアナログ現場では未だに手作業や目視、紙カルテ管理などが根強く残っています。

しかし、製造装置の温度・時間制御、はんだ印刷の膜厚管理、温度プロファイルの自動記録など、IoTを活用した工程監視に投資することで工程不良を劇的に低減できます。

導入コストはかかりますが、長期的視点で不良率の低減・再発防止・見える化による属人化解消の効果が絶大です。

現場教育と技能の伝承体制づくり

先輩職人の“勘と経験”頼みではなく、試験結果や不具合事例・対策をデータベース化して共有し、若手でも再現性高く作業できる環境整備が肝要です。

検査結果のフィードバックや“失敗事例集”形式のOJTも効果があります。

サプライヤーであっても現場見学や合同教育など、垣根を超えた連携が信頼性向上に直結します。

材料サプライヤーと早期から情報共有

調達バイヤーや技術者は、単なる価格交渉だけでなく、サプライヤーと継続的にデータを共有し、材料仕様や変更情報を早期にキャッチアップする意識を持つべきです。

“ある日突然の不良急増”“材料微変更による信頼性低下”は業界あるある。

現場目線では、材料ロットごとの特性変動やIMC層成長傾向に注目し、異常兆候を先取りする体制が必須です。

まとめ:昭和的現場にもイノベーションの風を

はんだ接合部の故障や品質課題は、最新のAI検査装置や自動化によって大幅な進化を遂げつつある一方、多くの製造現場ではアナログな作業や属人的な管理が根強く残っているのも事実です。

しかし、大切なのは最新技術と“現場の知恵”の融合です。

不良情報・解析事例・最新動向を垣根なく現場全体で共有し、「設計段階から現場が関わる」「サプライヤーを巻き込む」「技能伝承を構造化する」ことで、はんだ接合部の信頼性は飛躍的に高まります。

日本の製造業の競争力を取り戻すカギは、こうした地道な現場改善と、デジタルの活用にあると言えるでしょう。

日々の試行錯誤や失敗の積み重ねが、よりよいモノづくりの未来へとつながるはずです。

製造の現場で働く方、購買やバイヤーを目指す方、または部材サプライヤーとして現場に寄り添いたい方へ、この知見が少しでもお役に立つことを願っています。

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