投稿日:2025年9月26日

提案の意図が伝わらず改善が進まない失敗談

提案の意図が伝わらず改善が進まない失敗談

はじめに:改善提案が空回りする製造業の現場

製造業の現場では、日々さまざまな改善活動が行われています。
コスト削減、生産性向上、不良削減、安全対策――。
これらの目的に向けて、多くの現場担当者やバイヤー、時にはサプライヤーまでもが知恵を絞り、アイデアを提案します。

しかし、せっかく考え抜いた改善提案も「うまく伝わらず理解されない」「現場が動かない」「経営陣の賛同が得られない」といった壁に何度もぶち当たった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
長年の現場経験から言えるのは、提案そのものの出来栄え以上に、“意図”や“想い”を相手に伝える工夫、そこに現場のアナログ文化とのギャップへの認識が不可欠であるということです。

この記事では、私自身の失敗談や見聞きしてきた生々しい現場事例を交え、なぜ提案の意図が伝わらずに改善が停滞するのか、その原因と打開策を掘り下げていきます。
製造業のバイヤーやサプライヤー、現場担当者の立場を横断するラテラルな思考で、昭和的感覚の根強い業界に新しい風を吹かせるヒントを提示します。

なぜ提案の意図は伝わりにくいのか

コミュニケーションの落とし穴

改善提案が伝わらない多くの現場で起きているのは、“コミュニケーションの断絶”です。
たとえば、バイヤーが原価低減のための購買先変更を提案した時、現場の生産管理担当者や品質管理担当者は「今のままで特に困っていない」「やるだけリスクが増える」「自分たちの仕事が増える」と警戒心を抱きがちです。

この時、バイヤー側の意図は“会社全体のコスト最適化”であっても、現場には「また無理難題が降ってきた」「事務的に数字だけで判断している」と捉えられることが多いのです。
実際、提案資料やメールだけで意図を完全に伝えることは非常に難しく、真意がねじ曲がって伝わることも少なくありません。

昭和体質の現場慣習が生む“見えない壁”

また、製造業の多くの現場では昭和的な上下関係や“現場主義”が今も色濃く残っています。
新しい提案、特に外部(サプライヤーや社外バイヤー)からの提案には、納得感や安心感が得られなければ極端に拒否反応を示すことがあります。
「昔からこうしてきたから」「前任者もそうしていた」という言葉が合言葉となり、変化への警戒心が強まるのです。

私自身も新しい設備導入の提案をした際、「うちのやり方になじまない」「不具合が出た時に責任は誰が取るんだ」と真っ向から拒絶された経験が幾度もあります。
この“見えない壁”を乗り越えるには、ただ合理的な理由を羅列するだけでは不十分です。

典型的な改善失敗事例から学ぶ

失敗事例1:「コストダウン案が現場に無視された」

ある年、資材バイヤーとして協力企業と共に部品の購買コスト削減案を練り上げました。
設計変更なし・現場の運用も大きく変わらない内容で、5%のコストダウンが即実現できると思っていました。

しかし現場に提案したところ、「検査基準書を全部作り直さないといけない」「新規サプライヤーの品質に自信がない」と猛烈な反対に遭い、提案は棚上げとなりました。
現場からすると、「提案の背景が説明不足」「自分たちの手間やリスクについて十分な配慮が感じられない」と受け取られていました。
ここで痛感したのは、目先のコスト比較だけでなく“その後に現場で何が必要か”を具体的にイメージとして共有しなければ、どれだけ優れた提案でも前進しないということです。

失敗事例2:「自動化設備導入で逆に混乱を招いた」

現場作業の省力化とミス防止を目的に自動化装置を提案した際のことです。
私の中では「人がやるより早く、正確で、作業時間も短縮できる」と自信満々でプレゼンしました。
しかし、導入後はオペレーターの混乱が頻発。
「装置の動作が現場の慣習とかみ合わない」「メンテナンス方法が十分に伝わっていなかった」ために、“余計な仕事”と捉えられてしまいました。

結果、装置はしばらく使われたものの、問題が起きるたび手作業に戻され、最終的には現場から“不要設備”のレッテルを貼られて撤去されてしまいました。
今振り返ると、現場の作業フロー・スキルレベルを正確に把握し、現場担当者とすり合わせる“地ならし”が不十分でした。

失敗事例3:「サプライヤーからの提案が却下された理由」

サプライヤーからの“工程短縮のための資材形状変更”を現場に持ち込んだ時も、当初は「それならやってみよう」と好反応でしたが、蓋を開けると「検査基準が合わない」「作業指導書をゼロから作り直さなければならない」「過去の不具合との整合性がつかない」と現場がパンク。
どれだけ良い提案でも、適用プロセス全体への影響を丁寧に分析し、現場巻き込み型で取り組まなければ失敗すると痛感した一件でした。

失敗を教訓にした“改善が進む提案”の秘訣

1. “聞く”ことから始める現場リサーチ

提案で失敗しないための第一歩は、“徹底的に現場の声を聞く”ことにあります。
できれば現場担当者が困っている点、変えたいけど変えられない点、不安や抵抗感の正体を直接ヒアリングします。
「今どこでつまずいているか」「こうしてほしいと言われたが現実的にはどうか」をじっくり聞き出し、改善案のストーリーを現場目線で組み立てましょう。

2. “見える化”で意図を共有する工夫

口頭や資料、数字だけではなく、“なぜこの改善をしたいのか”“やることで誰がどんなメリットを得られるのか”を図や現場写真、現物を用いて具体的に伝えます。
また、現場担当者が実際に変更点を体感できるトライアルや部分導入など、スモールスタートの“見える化”が成功の鍵を握ります。
「やってみたら分かった」という安心感が昭和的現場には特に重要です。

3. “誰のための改善か”を最初に明示する

特にサプライヤーや購買部門からの提案の場合、「この改善で一番恩恵を受けるのは誰か」を最初にはっきりさせるのが有効です。
それが生産現場の安全、品質、生産性、工数削減の何につながるのかを明言し、担当者に自分事として捉えてもらうことが現場巻き込みの第一歩です。

4. “現場巻き込み”はお膳立てから始める

いきなり「これ、明日からやって」と丸投げするのではなく、「試しにこの部分だけ一緒にやってみませんか」「もし問題が出たら一緒に原因を探しましょう」と共創姿勢を示しましょう。
現場のキーマン(リーダー・班長など)を早期から巻き込み、“独自の成功体験”を作ることが大きな推進力になります。

5. “変化の痛み”までサポートする

変化には必ず“痛み”や“追加作業”がつきものです。
「提案通りやっておしまい」ではなく、変更点の教育やマニュアル整備、フォローアップまで設計して初めて現場から本当の信頼を得られます。
特に昭和的現場では、“みんなができるようになった状態”まで責任を持つ姿勢を見せることが大切です。

これからの製造業に必要な提案力とは

アナログとデジタルの“架け橋”としてのバイヤー像

現場の習慣や文化を知りつつも、時代の変化にただ従うだけでなく、“現状を一段上に引き上げる”のがバイヤーやサプライヤーの本質的役割だと考えます。
昭和体質を否定するのではなく、その知恵や安心感の上に、よりよい提案を“現場巻き込み型”で実現する。
そのためには、デジタル技術や新しいビジネスモデルを適用する時も、現場感覚と業界慣行の両方をラテラルに横断できる“真の調整力”が求められます。

バイヤーを目指す方、現場を知ることから始めよう

工場の中からだけではサプライチェーン全体の最適化は見えません。
一方で、購買部門やバイヤーとして数字や理論だけで進めても現場の心は動きません。
その両面を深く、多角的に考え、現場と共につくりあげる――。
そんな思考と行動が高度化する製造業の未来を切り開きます。

まとめ:提案の“伝わり方”を磨いて現場を変革する

いかに優れた改善提案であっても、その意図や価値が伝わらなければ現場は動きません。
経験を通じて得た最大の教訓は、「現場をよくしたい」という想いを丁寧に、具体的に伝える工夫と、「やってみよう」と思ってもらう地道な巻き込みが不可欠である、ということです。

アナログな体質が色濃く残る製造業。
だからこそ現場のリアルな声と、数字や理屈を調和させ、新しい提案型バイヤー像を目指しましょう。
その先に、製造業の新しい地平線がきっと開けることでしょう。

You cannot copy content of this page