投稿日:2025年12月17日

海外向け梱包の国際基準を理解しておらず検査落ちする実態

はじめに:海外向け梱包と国際基準の重要性

製造業において、完成品を海外の顧客や現地工場へ安全かつ確実に届けるために「海外向け梱包」が欠かせません。
しかしながら、長年の業界慣習から自社内規格や国内流通前提の梱包で進めてしまい、結果として現地で検査落ちする、手戻りやトラブルが発生する——そんな事例が今なお後を絶ちません。
この背景には、国際基準に関する理解不足やアップデート遅れが根深く存在します。

本稿では、現場で実際に起こる「検査落ち」の実態にフォーカスするとともに、なぜこうした問題が昭和型のアナログ業界で繰り返されるのか。
そして、バイヤーとサプライヤーの双方の立場から、グローバル調達に不可欠な視点と現場で実践すべき対策について解説します。

1. なぜ「検査落ち」が起きるのか?現場のリアル

1-1 国際梱包基準とは何か

国際的な取引では、商品の輸送環境や通関、安全基準などを統一的にクリアするため、「梱包に関する国際規格」が定められています。
代表的なものに、ISPM No.15(木材梱包材の熱処理・消毒規定)、ISO780(取扱注意マーク)、各国独自の輸出入規制、さらにはUN規格(危険物輸送梱包)など、多岐に渡ります。

これらの基準は「世界中を安全につなぐため」に策定されているため、一部でも不適合があると、現地で荷受け不可となったり、追加検査・再梱包・返品といった大きなコスト・タイムロスにつながります。

1-2 国内仕様と国際仕様のギャップ

日本国内の工場や現場では、「従来通りのやり方」「国内で通用している仕様」で梱包作業を進める例が多々あります。
たとえば、木パレットを無造作に調達し、そのまま欧米に出荷したり、リサイクル材を使って中国・ASEAN向けに輸送したりといった『ローカルな常識』が、グローバルではNGとなる事例は非常に多いです。

特にISPM No.15の熱処理スタンプ不備、国内独自で省略されたラベリングやマーク、不適正な内装材の使用等が検査落ちポイントの主な原因となっています。

1-3 スペック遵守の意識と教育の乖離

設計・調達・品質管理部門では「図面通り」「規格書通り」に目が行きがちですが、現場の梱包担当者や協力会社までは、こうした情報が十分に伝わっていないこともあります。
また、「一度もトラブルなく納入できているから…」という慣れや油断も、検査落ちによるリスク認識を鈍らせてしまいます。

このような部門間の認識ギャップが、検査落ち=クレーム案件発生へとつながるのです。

2. アナログ業界の壁とグローバル化の必然

2-1 昭和型の現場文化とグローバル対応の遅れ

製造業の多くは、地域密着のサプライチェーン・長期取引志向・現場裁量の強さという昭和からの実務文化が根強く残る現場です。
「ウチのやり方でずっと通してきた」「現地の細かいルールは任せている」という属人的判断が、特に地方の中小企業や小規模製造拠点でみられます。

こうした背景により、国際基準への柔軟な対応やドキュメント重視の意識が後回しとなり、思わぬ検査落ちやトラブルの温床となっています。

2-2 「やったつもり」から「やり切った現場主義」への転換

購買・調達の現場でも、グローバル調達や海外プロジェクト担当者だけが基準に精通し、現場まで十分に落とし込みきれないことがしばしばあります。
「指示はした」「マニュアルは配った」というレベルで安心してしまい、梱包現場の再教育や現物検証が疎かになってしまうのです。

大切なのは、「トヨタ方式」のような現場主義。
自分の目で現物・現場・現実を確かめ、「なぜ」「本当にそれで良いのか」と都度問い直すラテラルシンキング的なアプローチが求められます。

2-3 サプライヤー・バイヤー間のコミュニケーションギャップ

調達バイヤー側は「最新の基準・顧客ニーズ」を十分に伝えたと思い込んでしまう一方、サプライヤー側は「これで問題なかったから」「追加コストや手間は勘弁」という心理が働きがちです。

このギャップの埋め方こそが、グローバルサプライチェーンの肝であり、梱包現場のアップデートにもつながるポイントです。

3. 実際に起こった「検査落ち」事例に学ぶ

3-1 ケース1:ISPM No.15違反による荷受け拒否

某部品メーカーが欧州向けに部材を出荷した際、納入国の規制により「ISPM No.15(木材規格)認証スタンプの不備」が指摘され、通関でストップ。
現地で差戻しとなり、全量再梱包・再輸送。
多額の追加費用と顧客信用失墜に至ったという実例です。

3-2 ケース2:輸送中破損とクレームの発生

従来の国内流通対応のまま梱包した精密機器が、東南アジアへの海上輸送で振動・湿気によりダメージ。
現地で開梱時に発覚し、搬送費用等全額サプライヤー負担となったケースもあります。

3-3 ケース3:ラベル・マークリテラシーの不備

納入仕様書でUNマーク(危険物輸送記号)・ISOマーク指定があったにもかかわらず、念のため国内向けの「割れ物注意」ラベルのみ添付。
これが通関時に未対応扱いとなり、検査落ち再出荷となった事例です。

4. 海外向け梱包を「合格」させる現場目線の3つの実践策

4-1 基準を“現場仕様”に落とし込む

最新の国際規格や顧客ごとの梱包要求事項(GLP=Global Logistics Policyなど)は、購買・調達で管理するだけでなく「現場の作業指示書」「チェックリスト」「作業教育」に必ず落としこむ必要があります。

また、基準の“なぜ”が説明できる現場担当者育成も重要です。
「なぜこのマークが要るのか」「どうしてこの材質・サイズなのか」と問うことで、単なるマニュアル対応を越えた現場の力が身につきます。

4-2 「現物・現場・現実」で自ら確認する

設計・購買・現場の現物確認会(梱包立会・サンプル出荷検証)を定期的に行い、抜け漏れ・ミスの根絶を徹底しましょう。
また、定期的な現場巡回・棚卸しも大切です。

この積み重ねが、結果として手戻り防止・検査合格率向上・現場自体のレベルアップにつながります。

4-3 サプライヤー間の「見える化」と情報共有

クラウドシステムによる梱包仕様の一元管理、現場からのアップロード写真によるリモートチェック、ビデオ会議や定例ヒアリングを推進しましょう。

サプライヤー同士の好事例共有・横展開も有効です。
仲間同士の情報循環が強い現場では、デジタルの“気づき”をアナログでも有効に使えます。

5. どのような人材がこれからの調達・サプライチェーンで活躍するか

バイヤーやメーカー勤務を目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの本音を知りたい方へのヒントです。

5-1 新しいことを学び、現場で試せる人

国際規格は頻繁にアップデートされます。
「知らなかった」「前は大丈夫だった」では通用しません。
常に最新情報を取り入れ、小さな現場改善まで実践できるラテラル思考が必要です。

5-2 現場の失敗事例から学び行動できる人

「検査落ち」を単なるクレーム処理にせず、再発防止の仕組みづくりまで提案できる人は需要が高まります。
また、できれば海外顧客や現地工場とのコミュニケーションも積極的に経験してください。

5-3 サプライヤー・購買の懸け橋になれる人

業界の“従来の壁”を感じつつも、「お互い様」の視点を大事にできる人が、最も信頼される存在となります。
梱包や納入の細かいトラブルに目を向け「もっと良くできる」を問い続けられる人が、これからの製造業をけん引していくでしょう。

まとめ:検査落ちゼロを目指し、現場から製造業改革を

海外向け梱包の検査落ちは、情報格差・意識ギャップ・部門間連携不足から生じる現場型の「ムダ」の象徴です。
国際基準は世界共通語。
すべての現場担当者が自分ごととして仕組み化・現場教育・定期確認を徹底すれば、大きなトラブルも未然に防げます。

製造業は今こそ、グローバル発想と現場主義を両立させた新しい改革期です。
この記事が、現場の担当者・バイヤー志望の皆様、サプライヤーの皆様に「変化へのヒント」となり、より強い調達・品質管理力構築の一助になれば幸いです。

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