投稿日:2025年12月24日

コーターマシンで使うファン部材の羽根摩耗と風量低下

はじめに

コーターマシンは主に紙やフィルム、繊維などへ均一に薬剤や塗布液を塗るために使用される装置です。
この装置の安定稼働には、熱を与えたり冷却したりするための送風装置、つまりファン部材が欠かせません。
しかし、昭和から続くアナログ工場現場では、ファンの“羽根”つまりインペラの摩耗が軽視されがちであり、トラブルや生産効率の低下を引き起こす“見えない落とし穴”となっています。

本記事では、コーターマシンで使われるファン部材の“羽根摩耗”がいかに風量低下に直結し、現場や調達購買、サプライヤーにどのような影響を与えるのか、また現場で実践できる管理・予防策について、現場目線で実践的に解説します。
さらに、昭和的体質から抜け出せないアナログ管理の業界動向やバイヤー、サプライヤーのリアルな心理にも踏み込みます。

コーターマシン用ファンの役割と仕組み

ファン部材の基本構造

コーターマシンで用いられるファンは、主に2種類あります。
一つは乾燥ゾーンでの熱風供給用。
もう一つは溶剤や粉じんを含む空気を排気する排気用です。

どちらのファンも回転する羽根(インペラ)によって多量の空気を移動させます。
この羽根にはさまざまな材質や形状が存在しますが、現場で最も普及しているのは金属製もしくはFRP(繊維強化プラスチック)製のターボファン、センタリフューガルファン(遠心ファン)です。

ファンの羽根が摩耗する理由

ファンの“羽根”が摩耗する主な原因は下記です。

– 粉じんや固形物質の吸込みによる物理的な削れ
– 高温・高湿度環境での腐食
– 溶剤や薬品成分による化学的損耗
– 羽根表面への凝縮物・付着物による不均衡回転

これらは製造現場特有の“見えない敵”です。
とくに生産ラインが24時間体制で動く現場では、計画停止や予防保全のタイミングを逃し、思わぬ機器劣化につながりがちです。

羽根摩耗の進行が風量低下を生むメカニズム

羽根摩耗による風量低下の物理的な理由

ファンの羽根は、元来計算された形状・角度で設計されています。
摩耗によって以下の現象が生じます。

– 羽根の厚みが減り、空気を押し出す力が弱まる
– 羽根の先端が丸くなり、効率的に空気を受けられない
– 羽根バランス崩壊による回転効率の低下

この結果、ファン本来の“風量”すなわち搬送すべき空気の量が設計値よりも大幅に減衰してしまいます。

現場での実際の影響例

乾燥不良や冷却不良、排気不足は、すべて風量不足に由来する典型的なトラブルです。
ライン速度が落ちたり、不良品が多発したり、最悪の場合生産停止となるリスクも高まります。

製造現場では「なんとなく風が弱くなった」「最近不良が増えた気がする」「ファンの音が以前と違う」といった微妙なサインが、実は羽根摩耗の初期症状であるケースがしばしば見られます。

なぜ昭和的現場は“羽根摩耗”を見過ごすのか?

暗黙の“過信”とマニュアルレスの実態

一昔前のアナログ現場や保全部隊には、「ファンなんて壊れない」「回っていれば問題なし」といった過信が根付いています。
この風潮はベテランほど強く、異音や振動など明確な問題が起こるまで見て見ぬふりをしがちです。

また、多くの現場では「ファンの羽根は消耗品である」という認識自体があまり浸透しておらず、日常保全や点検項目にも記載されていないケースが目立ちます。

サプライヤーやバイヤー側のジレンマ

サプライヤーは羽根摩耗による風量低下やトラブルのリスクを説明したい一方、現場がコスト優先や“予防的投資”に消極的だとなかなか導入の提案が受け入れられません。
バイヤーとしては「今すぐ壊れるわけでもない」「上長の許可が下りにくい」など板挟みの心理が働きやすく、現場本位の抜本的対策が遅れがちです。

羽根摩耗のチェックと管理の実践ポイント

現場でできるシンプルな点検方法

– ファン停止時に羽根表面の汚れや摩耗を“目視”する
– 風量や静圧をピトー管や簡易測定器で“数値”管理する
– 音や振動など“官能”診断も合わせて行う
– 定期的に羽根径・角度・厚みをノギスやスケールで実測

こうした作業を日常点検表や保全計画に盛り込むことで、未然の風量低下や異常をキャッチできます。

見えないコスト低減への意識改革

現場で良くあるのは「まだ壊れていないから大丈夫」の放任です。
しかし風量が10%落ちるだけでも、乾燥・排気不良や品質トラブルで大きな無駄コストが発生します。
“壊れる直前まで使う”のではなく、“まだ元気なうちに交換する”合理的な保全サイクルこそが、結果としてコスト低減に直結します。

部材選定・バイヤー視点からの最適化アプローチ

摩耗の少ない材質・構造の選定

金属羽根の場合は摩耗硬度の高い合金材や表面処理、耐薬品性のあるFRPや樹脂系素材の選定が有効です。
また最近では、流体解析を活用して“摩耗しにくい羽根形状”が各社から登場しつつあり、最新技術の導入も視野に入れるべきです。

サプライヤー・バイヤー間の情報共有がカギ

本来、摩耗現象やトラブルの情報はサプライヤーとバイヤーが率直に共有することで、より最適な提案や新素材の導入チャンスにつながります。
現場・調達・開発・品質管理など各部門が“連携”してPDCAサイクルを回せるかどうかが、DXの時代への分岐点でもあります。

今後の製造業界トレンドと意識改革

アナログからデジタルへのシフト

IoTや予兆保全技術が進歩する中、“羽根摩耗”の兆候や風量低下をセンサーデータでリアルタイム監視し、計画的な保全や交換に活かす事例が少しずつ普及しています。
古き良き現場スピリットに、“データ活用”を掛け合わせれば、長年の“勘と経験”だけに頼った限界を突破できます。

サスティナブルなモノづくりへの転換

羽根摩耗を放置すれば、エネルギー増加や歩留まり低下、不要なCO2排出が増え、SDGsの時代に逆行します。
計画的な羽根交換や根本的な部材見直しこそ、サスティナブルなモノづくりへの第一歩です。
バイヤー・サプライヤー双方が“持続可能な現場”を合言葉に、ちいさな改善から始めてみてください。

まとめ

コーターマシンにおけるファン部材の“羽根摩耗”は、決して軽視できない現場リスクです。
見逃されがちな羽根摩耗を早期発見・管理し、最適な材質・形状選びやデジタル技術の活用にシフトすることで、風量維持と品質安定、ランニングコスト削減の好循環が生み出せます。

バイヤー、サプライヤー、現場作業者が“現実に根ざした知恵と知識”を共有し合い、アナログとデジタル双方の強みを活かした製造現場のアップデートが、昭和から令和への発展を加速させるはずです。

今こそ、“羽根の摩耗”という細部にこそ、現場改革・業界進化の大きなヒントがあります。
先送りせず、できることから今日始めてみましょう。

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