投稿日:2025年6月27日

フレッティング摩耗の防止と疲労損傷を抑制する締結接合技術と事例解説

はじめに:フレッティング摩耗とは何か

フレッティング摩耗は、金属同士が接触面で微小振動を繰り返すことで発生する独特の摩耗現象です。
特に、ボルトやナット、機械の締結部品、さらにはシャフトやベアリングなど、製造業の現場では避けて通れない課題のひとつです。
この摩耗は、最終的に部品の破損や疲労損傷につながり、安全性や品質、さらにはコスト管理にも大きく影響を及ぼします。

昭和の高度成長期から連綿と続く製造業の現場では、「定期点検さえしていれば大丈夫」といったアナログな保守の概念が依然として横行しています。
しかし、グローバル競争が激化し、製品の信頼性がより厳しく問われる現代では、その思想だけでは通用しなくなっています。
そこで、今回は現場目線で実践的な締結接合技術と、フレッティング摩耗・疲労損傷を抑える具体策、そして実際の事例を交えながら分かりやすく解説していきます。

フレッティング摩耗の発生メカニズム

微小相対運動と酸化粒子の生成

フレッティング摩耗の本質は「締結された部材同士が、目に見えないレベルで相互に擦れ、小さな金属粒子を生み出す」現象です。
こうして生じた金属粒子は空気中の酸素と反応して酸化し、さらに摩擦の潤滑を悪化させます。
結果、摩耗はより加速し、やがてき裂や疲労破壊の原因になるのです。

部品設計と組立精度の影響

「ほんの僅かながたつき(クリアランス)」や「適切でない締付力」が、フレッティング摩耗の引き金になることは現場ではよく知られています。
また、過剰な締付力も材料に応力集中をもたらし、逆に疲労寿命を縮めてしまうことも珍しくありません。
設計段階と現場の組立工程、その双方の視点が重要となります。

疲労損傷との関係とリスク

フレッティングと疲労き裂の生成

フレッティング摩耗によって生じた表面損傷や微小き裂が、実は「疲労破壊の初期クラック」として成長します。
構造部材の耐久性はこの微細なき裂から急激に低下します。
現場でよくあるのが、ベアリングシートやカップリングボルト部の表面に、生じたピッチング状の凹凸や赤錆(酸化鉄)が現れたケースです。
こうした兆候を見逃さず、早期対応することが重要です。

コスト面・安全面での深刻な影響

フレッティング摩耗・疲労損傷による機器トラブルは、「部品の非計画停止」に直結します。
この“突発的なラインストップ”こそが、生産現場においては最大規模の損失です。
例えば自動車、建設機械、プラント設備などでは、1箇所のトラブルが工場全体の損益に多大な影響を及ぼします。

フレッティング摩耗を防止する締結接合技術

表面処理・コーティング技術の活用

現代の優れた対策として、最も一般的なのが「表面処理」や「摩耗防止コーティング」です。
ニッケルメッキ、亜鉛メッキ、MoS₂コート(モリブデンコート)、またはテフロンコーティングなどが挙げられます。
これによって摩擦係数を下げ、微小運動そのものを抑制し、金属同士の直接接触を減らすことができます。

一方で、部品コストや工程管理、またコーティング強度の劣化など「新たな管理ノウハウ」が必要になる点は注意が必要です。
昭和的な手法からの脱却が求められる部分ですが、DX化や工程自動化に合わせて表面技術も進化させなければ意味がありません。

プリローディング(適切な締付力管理)

現場改善で最も即効性が高いのが「締付力の再設計・管理」です。
トルクレンチやテンションワッシャーを活用し、常に適切なプリロード(あらかじめ発生させる締付力)を維持することで、余計なガタツキや振動圧力を抑えることが可能です。

締付けが弱すぎると部品同士にすき間ができ、微小な運動が発生しやすくなります。
逆に締めすぎは材料の塑性変形による応力集中やボルト破断のリスクも伴います。
これを現場で感覚だけに頼らず、計測機器や品質マニュアルで“見える化”していくことが決定的に重要です。

潤滑管理の徹底

グリースやオイルによる潤滑剤の塗布も非常に効果的です。
特に初期ランニング時には積極的に潤滑を施し、摩擦抵抗と酸化粒子の発生を抑えることがポイントです。
一方で、潤滑剤が経時的に蒸発・析出してしまう場合や、重合反応による固着などのリスクにも気を配る必要があります。

異種材料の組合せによる分散効果

同じ金属材同士よりも、硬さや摩擦特性の異なる材料を組み合わせることでフレッティング摩耗の進行を遅らせることができます。
例えば、軟質金属と硬質金属の組み合わせ、またはスプリングワッシャー(バネ座金)の挿入による微細振動の吸収が効果を発揮します。

現場での実践的な改善事例

自動車メーカーにおける締結部の事例

大手自動車メーカーのシャーシ締結部では、走行中の微振動や熱膨張を起因とするフレッティング摩耗が頻発。
そこで、表面硬化処理(高周波焼入れ)と同時に特殊コーティングを施すことで摩耗進行を大幅に遅らせました。
さらに、ポイント締結から全体ボルト締結に設計変更し、荷重の分散を図ったことで、疲労寿命が従来比で2倍以上に向上。
これにより後工程の補修・交換コスト削減、保守回数の最適化にもつながりました。

精密機械工場での潤滑管理強化

工作機械の主軸締結部で、定期的な潤滑剤塗布と状態監視センサーを導入したことにより、摩耗進行度合いを可視化できるようになりました。
さらに、自動給脂装置とIoTを組み合わせた「潤滑DX」を推進。
これらによって年数回の計画メンテナンスで十分に対応可能となり、突発的な設備停止件数が70%も削減されました。

生産ラインの自動化現場での成功例

最近では工場の自動化(FA)や省人化の流れの中で、組立ロボットにトルク制御を導入した事例も増えています。
感覚に頼るのではなく、全締結箇所をデジタルで管理。
これにより、品質のばらつきを抑えつつ、再現性の高い締付品質を実現しています。
加えて、摩耗監視AIと連動させた「予知保全システム」導入も進みつつあります。

昭和型マインドからの脱却と今後の展望

製造業の現場には、今なお「経験値重視」「定期交換でよし」といった昭和のマインドが残っています。
しかし本質的なトラブル原因と深く向き合い、データで可視化し、最新技術を組み合わせることで地道に改善を重ねる。
その積み重ねこそがグローバル競争を勝ち抜くための基礎体力となります。

今後は、材料技術とデジタル活用の両輪による「疲労損傷ゼロの工場づくり」こそが標準化されていくでしょう。

まとめ:現場目線でフレッティング摩耗を制す

フレッティング摩耗は決して他人事ではなく、どの現場にも潜む「品質リスク」です。
締結・接合技術の巧拙はもちろん、マインドセットも含めた全体最適化がカギになります。
現場主導で技術・管理手法を磨き上げ、データと実績で“令和型モノづくり”へと進化していきましょう。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの考え方を知りたい方も、現場の課題意識や生きた改善策を武器に、新時代の製造現場をリードしてください。

You cannot copy content of this page