投稿日:2025年7月8日

締結部疲労破壊を防ぐ強度設計と改善構造の実践事例

締結部疲労破壊とは何か

締結部の疲労破壊は、製造業における製品の安全性・信頼性を左右する重要な課題です。
ボルトやナット、リベットなどの締結部品は、製品の構造を支え、長期間の使用や繰り返し荷重によって徐々に損傷が蓄積されます。
この損傷が進行し、突如として部品が破断する現象を「疲労破壊」と呼びます。

疲労破壊は、材料の強度を上回る単純な過荷重とは異なり、数回では問題の無い荷重が、繰り返されることで徐々に亀裂が成長し、最終的に破断が発生します。
この性質のため、目視や日常点検では異常の発見が難しく、現場での突発的なトラブルや重大事故に直結する危険性を孕んでいます。

疲労破壊のメカニズムと影響要因

疲労破壊の3つの進行段階

疲労破壊のプロセスは、大きく以下の3段階に分類されます。

1. 微小き裂の発生
2. き裂の進展(成長)
3. 全断面破断(最終破壊)

初期き裂は、材料表面の微細な傷や腐食、応力集中部位に発生します。
とくに締結部は、形状の急激な変化や組立時の微細なダメージがき裂発生の温床になります。

代表的な影響要因

疲労破壊の発生および進展には、次のような要因が関与しています。

– 部品形状による応力集中(※ねじ山や穴の縁など)
– 表面粗さやきず
– 繰返し荷重や振動
– 腐食、温度変化
– 過度な締付けトルクや初期不足
– 材質の内部欠陥

現場でありがちなアンコントローラブルな要素も多く、経験則や職人技だけに頼った設計・管理では限界が生じています。

強度設計の基本と最新アプローチ

設計時の基本原則

締結部の強度設計では、最低限、以下の観点を押さえておくべきです。

– 静的強度(最大荷重時の破壊防止)
– 疲労強度(繰返し荷重時の破壊防止)
– 安全率・余裕度の確保
– 過去のトラブル事例のフィードバック

過去はカタログ強度や熟練者の「勘」に頼りがちでしたが、現在はCAE(構造解析)、FEM(有限要素法)などの活用により設計段階から弱点を見つけやすくなっています。

現場目線の疲労強度向上策

現場で即実践できる疲労強度対策をいくつか挙げます。

– 応力集中の回避(角を丸める、肉厚を均一にする等)
– 表面仕上げの精度向上(ショットピーニング、研磨など)
– 適正な締付け管理(トルクレンチや管理治具の活用)
– 防錆、耐腐食処理
– 良質材料の選定・検査の徹底
– 締結部の冗長性確保や二重化

シンプルな改善でも、長年の現場経験を活かした「小さな気づき」が重大事故の予防につながっています。

締結部の改善構造 実践的な事例紹介

ボルト破断防止のための最適化構造(自動車業界の例)

ある自動車部品メーカーでは、重要部品のボルトが疲労破壊により脱落する事象が散発していました。
調査の結果、ボルトの穴端部の応力集中、過度な締付トルク、表面粗さ不良が重なっていたことが判明しました。

改善対策では、
– 穴端部の面取り加工を追加
– トルク管理に電動トルクレンチと管理用デジタル記録の導入
– 表面粗さ規格の明確化と全数検査
– 材料の超音波探傷による内部欠陥検査の実施
これらを徹底することで、クレームゼロを5年以上達成しています。

リベット部の二重化・バックアップ構造(航空機業界の例)

航空機製造現場では、リベット部の単純な破断を防ぐため、隣接した二重リベット構造を採用しています。
また、万一の初期き裂が進行しても、負荷分担帯に誘導する設計配慮や、衝撃試験による事前の評価も重視されています。

こうした冗長性設計によって、重大事故リスクを限りなく低減しつつ、保守点検の頻度や方法にもエビデンスを持って臨める体制を築いています。

昭和から抜け出せないアナログ管理体制を変えるには

従来管理手法の課題

古くからの製造現場では、
– 手作業に任せたトルク管理(熟練者の勘)
– 不十分な記録・トレーサビリティ
– 部材ロットや履歴追跡の困難さ
など、数値化・標準化の不足が今も課題です。

ISO9001やIATF16949など品質規格の認証取得が一般化したものの、現場では書類保存や形式的な管理に終始するケースも多く、「現場が見えない」管理は本質的な疲労破壊対策につながりません。

デジタル化と現場主導のバランス

近年はIoTセンサーの活用や、トルクトレーサビリティシステムの導入が進みつつあります。
具体的には、
– デジタルトルクレンチによる自動記録と履歴一元管理
– 締結部の振動監視センサーで疲労進行をリアルタイムに検知
– クラウド型管理による多拠点横断的な改善の共有
などが先進現場で実現されています。

一方、現場での作業者がこうした新たな仕組みに納得して使える環境(教育や啓発)との両立も重要です。
現場目線を重視し、データは「現場の知恵」と組み合わせて活かすことで、未然防止力が格段に高まります。

バイヤーとサプライヤーの間に立つ設計・品質責任

バイヤーの立場から見た締結部の信頼性要求

バイヤー(調達・購買担当者)は、コストダウンや納入スピードを重視するだけではなく、サプライヤーへの信頼性要件として「長期安定供給」「工程保証」「トレーサビリティ確保」を強く求めています。
締結部の疲労破壊が1件でも発生すれば、顧客からの信用失墜やリコールコストが一気に膨らむためです。

各サプライヤーが現場レベルでどこまで強度設計や管理にこだわれるか、明確な改善アクションや事後報告だけでなく、未然防止のためのPDCAサイクルを回しているかどうかが選定のポイントになります。

サプライヤー側が持つべき視点・工夫

サプライヤーとしては、納入先のバイヤーがどんなリスクを恐れているか、どの段階で「この取引先は強い」と評価するのかを現場で掴む必要があります。

– 納入時の全数検査記録提出
– トレーサビリティタグの付与
– 工程監査の積極受け入れ
– 品質改善提案の自主的発信
こういった「プラスアルファ」の姿勢が、長期的な信頼獲得・受注拡大にも直結します。

また、自社だけでなく部品メーカーや材料サプライヤーまで遡及した品質管理によって、いわゆる「サプライチェーン全体の疲労破壊リスク」を減らせる体制を作ることが、今後の製造業競争力の鍵となります。

締結部疲労破壊ゼロに向けた今後の展望とまとめ

現場では今なお、昔ながらのアナログ管理や職人技への依存が根深く残っていますが、今後は現場知見とデジタル技術のハイブリッド活用による実践的な未然防止が主流となっていきます。

具体的には
– 「締付けデータ×疲労解析×現場改善ノウハウ」
による多角的なアプローチが必須です。
また、トラブル発生時には、設計・製造・品質・調達が一体で根本改善にあたること。
サプライヤー、バイヤー、現場の三位一体による「オープンな情報共有」が、現代製造業に求められる姿勢です。

昭和の成功体験から一歩踏み出し、誰もが安心して使える製品づくりのために、強度設計・工程管理・改善活動を絶え間なく回し続ける。
そんな地道な取り組みの継続が、締結部の疲労破壊ゼロを現実に変えていくのです。

現場の誰もが「不良ゼロ・流出ゼロ」を真剣に目指す工場は、やがては取引先やエンドユーザーから絶大な信頼を集め、新たな工場管理・品質保証のスタンダードを打ち立てていくでしょう。

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