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部長職になってから現場感覚を失うことへの恐怖

目次
はじめに:部長職になることの「価値」と「危うさ」
製造業の世界に身を置き、長年現場を支え続けてきた皆さま、そしてこれからバイヤーやマネージャーを目指す方々へ。
工場やオフィスに身を置き、汗と油の匂いを感じながら仕事をする毎日から、部長職といった管理職へと昇進するタイミングは、大きな節目です。
「部長」という肩書は多くの権限や裁量をもたらす一方で、現場感覚を失ってしまう「危うさ」も内包しています。
特に日本の製造業、昭和からの慣習や「現場主義」の価値感が根強く残るこの業界において、「現場を忘れた部長=信頼されない管理職」と見なされるリスクがあります。
この記事では、部長職になった際に現場感覚を失うことの恐怖、その回避策、現代の製造業に求められる部長像について、20年以上の現場経験をもつプロの視点から深堀りしていきます。
現場感覚とは何か?その重要性を再定義する
現場感覚とは、単に現場の様子を知っているという表面的な意味ではありません。
作業者の手の動き、設備機器の微妙な音、ラインの流れやムダ、工具の配置に現れる工夫――それら「肌感覚」で掴める情報の総体です。
また現場で働く人たちの心理や、季節変動・突発不良・原材料不足などイレギュラーに対する即応力も含まれます。
つまり、現場感覚は「生きた情報」と「現場の空気」を的確に読み解き、ものづくりに反映する力です。
その感覚を部長職が失ってしまった場合、どうなるのでしょうか。
現場と経営層の「ギャップ」発生
現場と経営サイドの意見がすれ違い、意思決定がピント外れになることはよくあります。
特に、現場感覚を持たない管理職がKPIや数値目標のみ重視し、現場の負担や改善余地を無視した場合、かえって生産性低下・品質トラブルを招く事例は少なくありません。
現場スタッフからの信頼喪失
部長職になった瞬間、現場を「現場の人間まかせ」「聞くだけ」で済ませてしまうと、現場との間に壁ができやすくなります。
現場で働く人々は「上からの指示」が現実を無視したものかどうか、敏感に感じ取ります。信頼されない管理職ほど現場の情報が上がりにくくなり、組織の硬直化を招きます。
現場感覚を失わないための方法
部長職として責任や視座は上がりますが、現場感覚を保つことは可能です。
具体的にどうすれば良いか、いくつかポイントを紹介します。
1. 「現地・現物・現認」を徹底する
「現地現物で確かめる(ゲンチ・ゲンブツ)」はトヨタ生産方式(TPS)に代表される製造業の基本です。
部長職であっても、定期的に現場へ足を運び、現物を見て、作業者と直接話しましょう。
オフィス内の会議やメールで得られる情報は氷山の一角でしかありません。
現場の声や肌感覚に直接触れることで、経営判断に現実感が加わります。
2. 現場スタッフとの「雑談力」を持つ
現場スタッフとの日常的な雑談は、単なるコミュニケーション以上の意味を持ちます。
雑談の中に、現場の小さな不満や潜在的な課題が紛れていることは多いものです。
例えば「最近、ちょっと作業ミス増えてるんですよね」という何気ない一言から、マニュアルと現行作業にギャップが生じている等の深刻な問題発見につながるケースも筆者は多く経験しています。
3. 数値に表れない「体感」を大切にする
管理職になると、つい生産性指標やKPIばかり見がちです。
しかし数値化できない現場の空気感、例えば「作業者の疲労感」や「一部の設備の微妙な異音」などは、重大なトラブルの兆候であることもしばしばです。
現場で五感をフル活用し、その「体感」を経営判断に織り交ぜましょう。
昭和的アナログ文化の残る製造業で求められるリーダー像
日本の多くの製造現場には、今なお昭和から続く独特のアナログ文化や「現場主義」の風土が根付いています。
例えば、品質記録を手書きで残す習慣や、暗黙知による技術伝承は、デジタル化しきれない現場のリアルです。
デジタル推進が叫ばれる昨今でも、いきなりそれらをすべて否定するのは、現実的とは言えません。
昭和的文化を尊重したハイブリッド型マネジメントを
新たなデジタルツールや自動化も重要ですが、昭和の現場が持っていた「ムラ・ムダ・ムリ」を見抜く力、なぜなぜ分析、現場の勘所などは、依然として貴重な資産です。
要は、デジタル的発想とアナログ的職人感覚の“いいとこどり”ができる管理職が、現場スタッフから信頼され、現場感覚を保ち続けられるのです。
バイヤー目線・サプライヤー目線で見る「現場感覚の重要性」
ここで少し視点を変えて、バイヤーやサプライヤーサイドからも、現場感覚の重要性について考えてみます。
バイヤーが現場感覚を持つことのメリット
購買・調達のバイヤーにとっても、現場感覚は戦略上の武器になります。
なぜなら、製造現場の工程や制約、QCD(品質・コスト・納期)のリアルな事情を理解していれば、サプライヤーとの価格交渉や納期調整でも説得力が増すからです。
また、図面や仕様だけでは把握しきれない「実際の作りや材料のクセ」などを理解しているバイヤーは、社内外の関係者からも信頼されます。
サプライヤーがバイヤーの思考を知る意義
サプライヤーの立場でも、バイヤー(元請け)の現場感覚や経営事情を想像できるか否かは、大きな違いを生みます。
例えば、量産立ち上げ時にバイヤーが何を一番重視しているか(時間短縮か、不良対策か)、なぜ急なコストダウン要求が発生するのか、その裏にどんな内情や現場の事情があるのか――これらを現場レベルで読み解き、先回りして提案できるサプライヤーは間違いなく強いです。
現場感覚を失わない自己研鑽・仕組みづくり
では、部長職に就いた後も持続的に現場感覚を磨き続けるにはどうすれば良いのでしょうか。
1. ローテーションと日常的な現場巡回
管理職であっても、自らのルーティンに「現場ウォーク」を加えるべきです。
「忙しくて行けない」という言い訳をあらかじめ封印し、業務時間の一定割合を現場観察や各ラインの短時間体験にあてましょう。
2. ワークショップや現場勉強会の企画・参加
世代をまたいだ技術共有会、改善提案ワークショップを主導し、自らも参加者となることで、社内のナレッジを深めると同時に現場感覚を磨けます。
3. 外部現場視察を増やす
社外・他社の現場を訪問し、異業種・異分野のものづくり現場と自社現場を比較する機会を持つと、独自の気づきを得られます。世の中の変化を現場目線で捉え続けましょう。
まとめ:部長職の「現場感覚」は組織の競争力そのもの
部長職だからこそ身につけておきたいのは、現場と経営をつなぐ「現場感覚」です。
現場感覚を失うことは、組織の鈍化や競争力低下につながります。
数値管理や経営戦略と現場のリアルを、実体験・肌で感じた情報・スタッフの本音という“両輪”で回すことが、これからの製造業で生き残る鍵です。
現場でしか見えない情報をいかに上層の計画へ反映させるか――。
新任部長の方も、バイヤーやサプライヤーを目指す方も、「現場感覚」を自らの価値に変え、アナログ文化とデジタルの両立する現場型リーダーをぜひ志してください。
現場こそ答えがあり、現場こそ未来があります。
私自身の経験から、心よりそう申し上げたいと思います。