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量産トライT1/T2/T3で不良を潰すフィードバックシートの運用

目次
はじめに
製造業の現場に長く身を置くと、「量産トライ(T1/T2/T3)で不良を必ず減らしたい」と何度も思う場面にぶつかります。
量産前のトライ段階で見落とした不良は、ライン稼働後に深刻なトラブルやコスト増大を招く危険性があるためです。
特に、「フィードバックシート」を用いた現場運用は、高効率な問題解決・品質改善に不可欠なツールです。
今回は、トライT1・T2・T3で「どのようにして不良を潰し、本番量産へなめらかな移行を果たすのか」、私自身の実体験も織り込んでノウハウをまとめます。
現場の課題感やデジタル化の遅れ、オールドプロセスが根強く残る昭和体質といった状況も踏まえ、現代の製造業が直面する壁とその突破法を探求します。
量産トライ「T1/T2/T3」とは
量産トライの意義とステップ
量産トライとは、新製品や新工程の量産開始前に実際の設備や治具を用いて、多量の試作生産を段階的に行うプロセスを指します。
通常、T1(First trial)、T2(Second trial)、T3(Third trial)と3回程度のトライを実施します。
各ステップごとに、製品品質・工程能力・歩留まり・不良要因などを徹底的に抽出し、次フェーズに活かす「フィードバックループ」を回します。
T1:製造条件・設備・材料など、未知のリスクが潜む段階。構想設計通りに現場展開できるか確認する初回評価。
T2:T1で発覚した課題の対策後、量産に近い条件で安定度・品質・再現性を集中的に検証。
T3:量産初期の条件で最終検証。お客様向け検査や納入品評価も含み、不具合がなければ本番移行のGoサインが出る。
なぜ重要か?
現場が「やり直し」を許されるのは量産前だけです。
もしT1~T3で不良要因を見過ごしたまま本格展開すれば、不具合流出・大損失・納入遅延・顧客信用失墜につながりかねません。
また、再発防止・標準化にも直結するため、単なる“テスト生産”にとどまらない重大な意味を持ちます。
フィードバックシートとは何か?
現場と設計・管理部門をつなぐ「翻訳装置」
フィードバックシートとは、量産トライで発生した不良・品質課題・改善案・対応状況を、標準化されたフォーマットで可視化・記録するものです。
製造チーム、品質保証、設計開発、サプライヤー、資材調達など多部門をつなぐ情報共有ツールとなります。
現場の“感覚”や“気付き”、職人技のノウハウも、定量化・客観化して初めて他部門へ迅速・正確に伝達できます。
よくあるフォーマット例
– トライNo/日時/担当者
– 発生工程・場所
– 不良現象(写真付き)、発生件数、頻度
– 原因仮説(5Why分析、要因分解)
– 暫定対策・恒久対策
– 対応責任者・期限・進捗
– 再発防止策・残課題
– 管理部門コメント・承認
こういった情報を、Excelや専用システム、最近ではクラウドツールでも簡単に管理するケースが増えています。
アナログ現場でも機能するフィードバックシート活用法
昭和的「伝言ゲーム」の限界
多くの昭和型工場では「口頭・目視・伝言・紙メモ重視」の傾向が抜け切れていません。
現場の不良情報も、工長→生産技術→品質保証→調達…と手渡し・口頭・電話で伝わるうちにニュアンスや緊急度が薄れ、不備が発生しやすいです。
結果として、
– 本当の要因が特定できない
– 同じ失敗を繰り返す
– ベテランしか分からない属人化
– 上司の判断仰ぎばかりで納期遅れ
などの問題が頻発します。
フィードバックシートが現場改善に与える効果
1. 不良の「見える化」……感覚や経験値だけでなく、誰が見ても分かる「事実ベース」で工程課題を共有できます。
2. 情報の「分散防止」……複数部門が同じデータセットを参照するため、後追い・重複対応が減少します。
3. 管理と優先順位付け……緊急性の高い問題、影響大な不良課題がランキング化されやすく、効果的な資源配分が可能です。
4. 標準化・ナレッジ化……同じパターンの不良が出るたびゼロから対策案を練る必要がなく、過去データベース化しやすいです。
5. バイヤー・サプライヤー連携……品質条件や評価基準が明文化され、サプライヤーへも瞬時・正確なフィードバックを発信できます。
バイヤーとサプライヤーの視点:「量産トライ」と「品質維持トーク」を磨く
バイヤーに求められる現場思考
近年のものづくりは、「価格交渉」だけでなく「現場改善への能動関与」がバイヤー評価の大きな要素となっています。
– 現場改善活動への物理的な参加(現地現物主義)
– 工程FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)、CP(コントロールプラン)への理解・フィードバック
– 不良低減の根拠データ活用と、仕様・納入条件変更の交渉ポイント整理
こうした活動でフィードバックシートを活用することで、感覚や感情に頼らない「論理的交渉力」を磨くことができます。
サプライヤー視点でバイヤーの考えを読むコツ
サプライヤー側のあるある悩みとして、「バイヤーがどこまで現場実情に関心を持っているか分からない」「仕様変更や検査基準の要求が唐突」というものがあります。
フィードバックシートは、バイヤーがどんな品質観点・コスト観点を重視しているかが明確に示されるため、「事後」ではなく「事前に」サプライヤー主導で改善・QA情報発信ができる武器になります。
例えば、
– トライ時点での「不良率○○%以内」
– 各不良要因への工程対応状況(暫定と恒久対応の区別)
– 再発防止策の実効性(標準作業書の修正、作業員教育の記録添付)
こうした“論理的説明力”を備えたサプライヤーは、信頼度・評価も自ずと高くなっていきます。
現場で効果を最大化するフィードバックシート運用の5つのポイント
1. 「点」より「線」「面」の視点で活用
単なる不良1件ごとの記録ツールにせず、複数トライにまたがるデータ集積・再発傾向の見える化に活用することが重要です。
例えば「AラインでB部品にいつも寸法不良が出る」なら、その“傾向”を明示的にグラフや工程フローに落とし込んで関係者と協議する。
これにより、本質改善へつながる議論が可能となります。
2. デジタルとアナログの“いいとこ取り”
昭和工場でよくあるのは、せっかく書いたフィードバックシートが「現場のパソコンの中に眠りっぱなし」「現場ホワイトボードに手書きスケッチで可視化」されてはいるものの、過去ログ・分析に利用できていないことです。
シンプルなExcelテンプレートでも良いので、全関係者が見られるサーバーやクラウド領域への保存、定期報告フォルダへの自動連携など、1歩先のデジタル活用へ踏み出してみてください。
3. 属人化を防ぐ「定期レビュー」と「引継ぎ」
不良対策や改善履歴が、担当者が異動・退職すれば一緒に消えてしまう――そんなリスクを避けるため「定例共有会」「プロジェクトチームでの進捗レビュー」を仕組化することを推奨します。
引継書やE-learning教材など、フィードバックシートのデータを“次世代工員の成長教材”へ転用することで、知の遺産化にも貢献できます。
4. 「なぜこれが必要か」を全員に伝える
現場では、「手間が増えた」「また書類か…」という空気も根強いです。
狙いは「重複作業の削減」「属人ミスの削減」「改善の高速化」「エビデンスベースの評価」などであることを、部門横断で周知徹底しましょう。
無理に本社主導で押し付けるのではなく、現場の声や工夫を取り込んだ“カスタマイズ運用”がスムーズな導入・定着のカギとなります。
5. フィードバックシートを「顧客価値」へ昇華
出来上がったフィードバックシートは、対外的な品質証明書・顧客説明資料としても大きな役割を持ちます。
特に、海外顧客・大手OEM・自動車業界のPPAP(生産部品承認プロセス)対応時など、客先監査でも「どのような検証~改善~標準化フローを通じて品質管理しているか」をアピールできます。
バイヤーやサプライヤーも、こうした「実績データ」をうまく利用して追加受注・新規取引拡大・QCD(品質・コスト・納期)交渉を有利に進められます。
まとめ:アナログ業界の“新常識”としてのフィードバックシート
昭和型の古い体質や現場主義から、単なる“管理ツール”と思われがちなフィードバックシート。
しかしこれからの製造業では「現場の知恵を体系化・見える化し、部門横断で共有する」プロセスこそが、競争優位性の源泉です。
現場で培われた勘や経験の“暗黙知”は、デジタル時代にも色褪せません。
だからこそ、「フィードバックシート」を単なるチェックリストではなく、“対話の道具”かつ“成長の基盤”として磨き込みましょう。
バイヤーの方、サプライヤーの方、ものづくり現場の方――全員が一段上の仕事を目指すために、量産トライT1/T2/T3の現場運用にフィードバックシートを組み込み、「現場発・現場納得型」の品質改善文化をぜひ定着させてください。
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