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ヨーグルトの分離を抑える培養温度とタンパク質安定化剤制御

目次
はじめに:ヨーグルトの分離問題とは何か
ヨーグルト製造現場で日々直面する課題の一つが、「ホエー分離」いわゆるヨーグルトの水切れ現象です。
製品をカップに詰めてから、流通、そして消費者の元に届くまでの間、このホエー分離が目立つと、外観品質が損なわれるだけでなく、消費者からのクレームや返品リスクも少なくありません。
この分離抑制は、乳業メーカーの生産技術者から品質管理担当者、バイヤー、さらには原料供給側のサプライヤーに至るまで、多くの関係者が頭を悩ませるテーマです。
本記事では、ヨーグルトの分離メカニズムから、培養温度の制御、そしてタンパク質安定化剤利用に至る実践策を、昭和時代から続くアナログ慣習もふまえて、現場目線で徹底解説していきます。
ヨーグルトの分離メカニズムの基礎知識
なぜヨーグルトが水っぽくなるのか
ヨーグルトの組成は、タンパク質、脂肪、乳糖、水分、それに乳酸菌が生み出す代謝産物で成り立っています。
主役となるカゼインという乳タンパク質が網目状のゲル構造を形成しますが、この構造が不安定だと、液体成分であるホエー(乳清)が網目から流れ出て分離現象が起こります。
原因は一つではありません。
製品設計の処方濃度、殺菌から充填までの物理的撹拌ダメージ、原料乳の成分変動、そして乳酸菌の活動ロット間バラツキ。
加えて、昭和の現場でよく耳にした「付きっきりで見ろ」「経験で乳を読むんだ」のような属人的オペレーションに頼った結果も、品質の再現性を悪化させがちです。
近年は、自動化機器やIoTデータも増えてきましたが、それでも原理原則の理解が現場改善には不可欠です。
消費者とバイヤーの視点から見る分離リスク
分離したヨーグルトは、「水っぽい」「見た目が悪い」「鮮度劣化?」と誤認されがちです。
バイヤー視点では、
・安定供給
・品質再現性
・クレーム削減
これらが最優先されます。
サプライヤーとしては、こうしたバイヤー心理を理解し、現場データや素材提案で信頼を勝ち取る必要があります。
分離抑制のための培養温度管理:科学的・現場的アプローチ
培養温度が及ぼすゲル形成のメカニズム
ヨーグルトの発酵(培養)は、一般的には42~43℃で4~6時間行われます。
この温度は乳酸菌の最適増殖温度であり、乳酸生成速度をコントロールするカギです。
ここで重要なのは、「培養温度が高いほど速く固まる=分離しにくい」ではない、という点です。
実際には、高すぎる温度や急激なpH降下(酸性化の速度)が、タンパク質構造に乱れを生じ、粗雑で壊れやすいゲル(凝集構造)になりやすく、むしろホエー分離を悪化させることがあります。
逆に、やや低めの温度(は42℃前後から40℃程度)でゆっくりとpHを下降させると、タンパク質はきめ細やかで強靭なネットワークを形成しやすくなります。
この「適正温度管理」と「発酵制御」の絶妙なバランスが、製品ごとの分離抑制の成否を大きく分けるのです。
現場での温度制御実践例とデータの可視化
20年以上の現場経験から言えるノウハウは、下記のようなPDCAループです。
1. ロットごとの発酵カーブ(pH変化データ)をデジタル記録
2. 分離発生状況との相関をAIや統計で迅速分析
3. 異常傾向があれば、直ちに培養槽ジャケット温度など工程条件を微修正
4. 改善効果の可視化と現場教育
現代ではIoTサービスやSCADAを導入している工場も多く、継続的なデータ活用が昭和時代の「勘と経験」からの脱却を実現します。
しかし、たとえ手書き記録のアナログ現場でも、担当者レベルで「再現性・体系化」を意識した記録の積み上げこそが改善の礎です。
また、小規模工場では夜間自動記録が難しい場合、バッチ間の温度偏差・分散に注意し、朝方ロットと夜間ロットで“分離のバラつき傾向”を観察すると良いでしょう。
タンパク質安定化剤による分離制御:メリットと選択ポイント
安定化剤の役割を理解する
ヨーグルトでは、本来の原料乳のカゼインネットワークが不可欠ですが、それに加えて増粘多糖類やゼラチンなどの「安定化剤」を使用する技術も進化しています。
以下に主要安定化剤を紹介します。
・ペクチン
・ゼラチン
・カラギーナン
・グァーガム
・CMC(カルボキシメチルセルロース)
これらの素材は、ヨーグルトゲル間に網目を形成したり、自由水(ホエー)が溢れ出すのを物理的にフィルムで遮断したりするなど、様々な分離抑制メカニズムをもちます。
安定化剤の選定基準と現場での活用ポイント
昭和的な「増粘剤に頼った即席解決」は、昨今のナチュラル志向や添加物低減トレンドにはそぐわない場合も出てきています。
そこで、以下を基準に素材選定を進めるべきです。
・添加量の最小化
・使用可否(Clean-label、無添加志向との兼ね合い)
・物性(口溶け、粘度、舌ざわり)の影響評価
・コスト、調達安定性
・微生物(種菌)との親和性
たとえば、欧州系ヨーグルトブランドではペクチンやゼラチンは可食原料として認められる傾向が強い一方、日本の一部ブランドでは無添加方針を重視し、「ミルク由来の自然なネットワーク補強」にこだわる場合も増えています。
また、安定化剤はロット間や原乳の質により効果が大きくブレることも多いため、現場での「小スケール加水分離試験」や「経時安定性テスト」を習慣化することが不良品削減につながります。
分離のロスを防ぐために:製造現場改善のラテラルシンキング
現場目線で培養〜充填までの工程全体を“点ではなく線”で捉える
分離の問題は発酵工程だけで決まるわけではありません。
・原料乳の品質テスト(乳たんぱく・Ca・pHバランス)
・前処理(均質化圧力)
・殺菌(超高温なのかLTLTなのか)
・攪拌レス充填や固形型・撹拌型のプロセス選択
など、全工程が複雑に絡み合います。
一例として、当社経験では、殺菌終了直後の急激な温度降下(ショック冷却)によってタンパク凝集物が微細化しないことで、分離しやすいバッチが出やすくなったことがありました。
些細な温度管理のズレが、想像以上にシビアな品質悪化を引き起こします。
このような複合要因を因果関係で「点検表化」「多変量解析」し、ロス発生ポテンシャルを予知・予防することが、昭和からの脱皮と、令和時代の現場力強化の最短ルートです。
また、ラインスタッフへの「なぜなぜ5回」教育を日常的に実践し、現場全体の“考える力”を底上げすることも欠かせません。
サプライヤー&バイヤーの協働による製品開発・工程最適化
バイヤー目線では、「現場の言い分」と「販路先・消費者視点」との折り合いをどうつけるかが悩みどころです。
サプライヤーとしては、「そちらの現場が悪い!」ではなく、歩み寄りの姿勢で工程情報や原料強みの“エビデンス提示”が信頼につながります。
具体例としては、
・ホエー分離しにくい乳タンパクサンプルを持参し、現場のミニスケールで共に評価
・安定化剤メーカーがデータシートだけでなく、ユーザー現場で試験立会いを実施
・両者で“経時変化テスト”や“物流条件再現テスト”を共同設計
することで、真のパートナー関係が築かれます。
こうした活動は一朝一夕に身につくものではありませんが、10年・20年と続く取引先同士の信頼を太くし、流通バリューチェーン全体の競争力を高めることになります。
まとめ:分離抑制はコストリーダーシップにも競争優位にも直結
ヨーグルトの分離を巡る温度管理やタンパク質安定化剤の適正利用は、製造業全体でよく見られる「物性・品質」と「工程コスト」のせめぎ合いです。
昭和から続く属人的オペレーションから脱却し、現場でもデータ・理化学計測を根拠とした「見える化」「体系化」を推進する。
加えて、消費者・バイヤーの嗜好変化も敏感に捉える。
こうした複眼的な視点からこそ、分離ロスの抑止とともに、ブランドロイヤルティや再現性ある収益基盤が強化されます。
これから製造業バイヤーを目指す方、サプライヤー側で差別化を図りたい方は、ぜひ本記事の実践策を現場で応用してみてください。
ヨーグルト製造のみならず、あらゆる工程改善や製造業全体のレベルアップに役立つはずです。
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