投稿日:2025年11月2日

マスクの肌触りを改善する不織布の繊維配合と静電処理技術

はじめに~マスクの「肌触り」の進化がもたらす価値

現在、日本をはじめ世界中でマスクは日常生活に欠かせない存在となっています。
新型コロナウイルスの流行以前から、花粉症やPM2.5、インフルエンザ対策として使われてきましたが、ここ数年でその需要とユーザーの目線は大きく変わりました。
特に、直接肌に触れる不織布マスクは、「着け心地」や「肌触り」が一層重視される時代になっています。

製造業、とりわけ不織布の開発企業やマスクのサプライヤー、バイヤーの方々にとって「肌触り」の良いマスク作りは避けて通れないメーカー競争の主戦場です。
一方で、昭和から現在に至るまで、アナログ的な感覚で“触感”を語る担当者や職人技による暗黙知に頼った開発も根強く残っています。

本記事では、不織布マスクの「肌触り」を飛躍的に高めるための繊維配合設計と、静電処理技術の現場目線でのポイントを、20年以上の現場経験をもとに深く掘り下げて解説します。
調達・生産管理・現場からバイヤー、サプライヤーまで、様々な立場で「売れるマスク」「顧客に選ばれるマスク」を生み出すためのヒントをまとめました。

不織布マスクの肌触りが評価される理由

なぜ今、「肌触り」が重視されるのか?

コロナ禍で大量生産・大量消費時代に突入したマスクですが、消費者のニーズは格段に多様化しています。
「一日中マスクを着けっぱなしなので、耳が痛い・肌が荒れる」といった声や、肌触りに関するSNSでのレビューも爆発的に増加。
花粉症やアレルギーの人だけでなく、美意識の高い若年女性や高齢者層、小さなお子さんまで、まとまった時間ひたすら装着する人が増えました。

その結果、フィルタ性能や価格だけでなく、“ずっと付けていてもストレスにならない”“マスクなのにスキンケア”といった快適性が大いに評価されるようになったのです。

肌触りとブランド価値のつながり

肌触りの良さは、企業のブランド評価にも直結します。
大手マスクメーカーは「敏感肌向け」「シルクタッチ不織布」などを打ち出し、コンセプト化・差別化に大きく注力。
今や「どこでも手に入る安いマスク」から「そのブランドでしか買えない高付加価値マスク」へと市場が細分化しています。

安価な量販マスクは性能・コスト勝負ですが、一歩先を行くためには“触って・着けて明らかに違う”という確かな「肌触り」が求められています。

不織布の繊維配合~肌触りを決める技術の真髄

不織布マスクの構造と材料の基本

一般的な三層構造の不織布マスクは、外側・内側・中間(フィルター)の3シートから成り立っています。
このうち、肌触りを大きく左右するのが「内側シート」。
ポリプロピレン(PP)などの熱可塑性樹脂を原料とするスパンボンド不織布、メルトブローン不織布が主流です。

しかし、“PP100%”ではややパサついた質感、化学繊維特有のごわつきや摩擦刺激を感じやすいため、シルク・レーヨン・ポリエステルなどを巧みに配合するメーカーも増えてきました。

最新の繊維配合動向

【ポイント1:超極細繊維化】
肌に摩擦を与えないためには、繊維径を可能な限り細くすることが求められます。
PP繊維でも直径1マイクロメートル程度(通常の十数分の一)まで細く設計することが可能です。
繊維径が細いと柔らかくサラサラとした感触になり、肌に残る摩擦刺激・シワ・跡を大幅に低減できます。
一方で、細くするほど不織布の強度が下がり破れやすくなるため、全体設計・製造条件の最適化が大切です。

【ポイント2:異種材料の複合】
ポリプロピレン(PP)と相性の良い繊維としては、レーヨンやポリエステル、最近ではポリ乳酸(PLA:生分解性樹脂)も注目されています。
レーヨン配合はしっとり感・吸水性・天然素材らしい風合いに寄与し、「敏感肌向け」「メイク落ちしにくい」といったストーリー展開が強化できます。
PLAはデリケート肌やサステナブル志向の顧客に響くポイント。
さらに、表面をシルクタンパクなどでコーティングした“コスメマスク”の動きもあり、業界の材料研究は今も加速しています。

【ポイント3:繊維配合比の妙・勘とデータの融合】
配合設計はある種“勘どころ”があります。
現場では「PP90%・レーヨン10%」から「PP60%・ポリエステル40%」まで、微妙に配合割合を刻んでブレンドを試すことが日常茶飯事。
近年はAIやテクスチャスコア分析を導入し、触感値やユーザー評価を定量化するデータドリブンも進行中ですが、最後の決め手は長年の現場経験を持つスタッフの“指先のフィーリング”だったりします。

配合開発現場の苦労と本音

新素材・高級繊維の導入はコストアップに直結します。
購買の立場では「できればPPだけで安価に仕上げたい」「でも顧客はシルク配合と書かれたラベルに惹かれる」と、調達方針と価格競争力・企画要件の狭間での調整が不可欠です。
また、不織布の原料納期遅延や海外サプライヤーの不安定な供給(国際物流の混乱)も無視できないファクター。
現場では「肌触りの良さ」と「量産性・安定調達」を両立させる現実的な落とし所を探し続けています。

静電処理技術~マスク性能を底上げする秘密兵器

静電効果がもたらす快適性と高性能化

不織布マスクの進化で今や絶対不可欠なのが、「静電処理技術」です。
もともと微粒子を効率的に捕集するため、フィルター層には静電チャージ(エレクトレット加工)が利用されますが、近年は肌側シートにも静電処理技術が取り入れられています。

静電処理を施した不織布は、余分な細かいホコリや繊維くずが付着しにくく、肌への貼り付き、顔への不快な摩擦やチクチク感も低減できます。
また、ペタッと肌にまとわりつかないことで、蒸れ感や化粧崩れも防ぎやすくなるのです。

現場で使われる主な静電処理方法

1. コロナ放電処理
フィルムや不織布へ高電圧をかける「コロナ放電」で荷電し、繊維表面に静電気を保持。
これにより埃や花粉の捕集性もアップしつつ、摩擦帯電による不快感の低減に寄与します。
量産ラインに組み込みやすく、コスト効率も良好です。

2. ソフナー(柔軟剤)塗布
化粧品グレードの柔軟剤や帯電防止仕上げ剤を不織布表面に塗布し、滑らかな触感と帯電防止性をプラス。
乾式法湿式法いずれも、ラインスピードとの兼ね合いが現場運用の肝となります。

3. シルクプロテイン、リピッドコート
高級マスク向けには、シルクプロテインや各種リピッド(脂質)成分で不織布表面をコーティング。
これにより抜群のしっとり・なめらか性能を実現。
ただし材料コスト高騰・安定生産性との戦いはまだ続いています。

静電処理における課題と最前線

静電チャージ層は「洗えば落ちる」「湿気で減衰する」といった課題が依然残ります。
また、静電効果を持たせながらも「べたつかない」「化学臭がしない」「長期保存で効果が失われにくい」といったクオリティ維持も、現場の開発担当者泣かせのポイントです。

最近では、サステナブル・生分解性材料との両立(静電処理の環境負荷低減)も大きなテーマであり、次世代イノベーションが期待されています。

業界最前線のトレンドと今後の展望

DX・デジタル革命と共に進化する現場

これまで“触って確かめる”アナログ文化が強かった不織布・マスク業界ですが、近年はAIによる「肌触り」判定や、画像解析による繊維表面記録、ユーザーのリアルタイムフィードバック集約などのデジタル活用が拡大中です。
製造ラインもIoTセンサーで原料投入から製品検査まで一気通貫で管理され、繊維配合・静電処理の最適化が加速しています。

サプライヤー・バイヤーの新しい協働のカタチ

メーカー主導による「御用聞き」から、「現場で感じた肌触り」「実ユーザーアンケート結果」を基にした共創開発へと進化する企業が増えています。
バイヤー側も単なるコストダウン要求だけでなく、ブランド価値の最大化や新しい顧客体験の創造に視点を広げる必要があるでしょう。

アナログ感覚と最新技術の融合が勝ち残りの鍵

現場の肌感覚、職人の“指先の記憶”、こだわりのブレンド技術は日本の製造業の大きな強みです。
それを科学的データや最新機械・DXと掛け合わせることで、唯一無二の“本当に付けて快適なマスク”を生み出すことができます。
昭和のノウハウも、リスペクトしながら今の時代にアップデートさせてこそ、グローバルで戦える価値創造ができるのです。

まとめ~現場発「肌触り革命」から製造業の未来へ

マスクの肌触り向上は、単なる“快適グッズ開発”の枠を超えて、消費者の健康と幸福、そして日本のものづくり魂の進化にもつながる大きなテーマです。
繊維配合技術や静電処理ノウハウの追求は、化粧品・医療・異業種コラボなど新しい価値創出の起点にもなります。
今後、アナログとデジタル、現場とバイヤー、素材と感性を融合し、さらなる「肌触り革命」を業界全体で巻き起こしたいと考えています。

サプライヤーとして、自社の配合・加工技術や提案力を磨く。
バイヤーとして、現場を理解しユーザー視点に立つ。
そして、現場の「ちょっとした違和感」や「こだわり」を未来のイノベーションにつなげ、製造業の新たな地平線を一緒に切り開いていきましょう。

You cannot copy content of this page