紙ナプキンの肌触りを柔らかくする繊維ブレンドと抄紙テンション

はじめに：紙ナプキンと日本の製造業

日本の飲食店や家庭で広く使用されている紙ナプキン。

使い捨てでありながら、触れたときの柔らかさや感触はそのまま品質イメージに直結します。

紙ナプキンの肌触りをより柔らかくする手法は、実は単純な紙質の改善だけではありません。

その裏側には、繊維ブレンドの緻密な調整や抄紙（しょうし）工程におけるテンション管理など、アナログでありながらも高度に進化した現場知識が詰まっています。

この記事では、製造現場で長年培ってきたリアルな視点から、紙ナプキンの「柔らかさ」を生み出す核心技術や、時代を超えて受け継がれる業界動向について深堀りしていきます。

紙ナプキンの原材料：肌触りを左右する繊維ブレンド

紙ナプキンの基本構成と布との違い

一般的な紙ナプキンは、木材パルプから作られるセルロース繊維を主成分としています。

しかし、高級な紙ナプキンや業務用ナプキンの多くには、柔らかな肌触りや吸水性を高めるため、さまざまな種類の繊維がブレンドされています。

布のような織物と異なり、抄紙法（しょしほう）によって繊維をランダムに分散させることで柔らかさと均一な表面が求められます。

柔らかさを生む繊維ブレンドのコツ

紙ナプキンに使われる繊維の代表的な種類は以下の通りです。

• 木材パルプ（長繊維・短繊維）
• 非木材繊維（バガス、竹、麦わら）
• 合成繊維（レーヨン、ポリエステル）

柔らかさを優先する場合、長繊維の比率を高めつつ、合成繊維やバガス（サトウキビの搾りかす）など、しなやかさや保水力の高い素材を数％〜十数％加えるのが一般的です。

特に、バガスや竹パルプは近年SDGsの観点からも注目されており、環境にも配慮しながら柔らかな風合いを実現できます。

木材パルプにも針葉樹系（長繊維）と広葉樹系（短繊維）があり、両者のブレンド比率にも現場ごとのノウハウが詰まっています。

この絶妙なブレンドを突き詰めることで、表面の「ちくちく感」を大きく減らすことができるのです。

化学薬品・界面活性剤の役割

繊維ブレンドだけでは限界のある柔らかさもあります。

製紙現場では、柔軟仕上げ剤や界面活性剤をごく微量に添加し、繊維間の摩擦を減らすことでいっそう滑らかな肌触りを実現しています。

ただし、残留薬剤のリスクやコスト増の懸念から、その配合量や抽出条件は厳しく管理される必要があります。

この点、現場ごとの「作り込み」の違いが最終製品の差となって表れやすい部分です。

抄紙テンション ― 品質に直結する工程管理

抄紙とは何か？ 紙が形になるまで

抄紙工程では、水に分散した繊維が金属のワイヤー（抄紙網）の上に薄く広がり、水分を抜きながらシート状にまとめられていきます。

ここで「どれだけ繊維同士を密着させるか（抄紙テンション）」が、紙の質感に大きく影響します。

このプロセスひとつで「ハリ」の強い紙にも、「ふんわり」とした紙にも仕上がるため、現場の技術者にとって最も腕の見せ所と言える部分です。

工程の要：抄紙テンションのコントロール

抄紙テンションとは、抄紙ネットやプレスロールで紙層を引っ張る、あるいは圧縮する際の力加減のことを指します。

テンションが強すぎると繊維ががっちり固まり、パリパリした触感に。

逆に弱すぎると紙の強度が落ち、破れやすくなったり、均一な厚みを保てなくなります。

プロの現場では、抄紙テンションと抄速（ワイヤーを流れる速さ）を連動させ、最適なバランスを見極めて管理します。

このテンション値の調整こそが、「柔らかさ」と「紙の安定供給」のせめぎ合いに対する決め手なのです。

熟練工の勘とIoTのハイブリッド

昭和時代から続くアナログな手法では、熟練工が現場の微妙な感触を手や音、匂いで判断し、機械の調整ノウハウを受け継いできました。

しかし近年では、IoTセンサーを活用して面圧や水分率、繊維配向を数値化し、AI解析と組み合わせて「柔らかさの見える化」に取り組む現場も増えています。

このハイブリッドな管理体制が、品質安定と効率化を両立するカギとなっています。

アナログ業界の壁とその突破口

現場に根付く「伝統的な品質感覚」

紙ナプキンひとつ取っても、日本の現場では「肌触り＝おもてなしの心」と考える文化が深く根付いています。

昭和時代から、手間を惜しまず品質にこだわる職人気質が今なお強く、最新の機械化・自動化技術が入りにくい面もあります。

その一方で、現場で使う生産装置自体が長寿命なため、昔の設計思想が残ることも多く、設備投資の決断には慎重さが求められます。

アナログとデジタルの共存戦略

伝統的な現場力を維持しつつ、デジタル技術や新素材を持ち込むためには、経営層と現場、購買・調達部門の密な連携が欠かせません。

バイヤーの立場からすれば、安定供給だけでなく「新たな価値付加」を提案できるサプライヤー選びが重要になります。

たとえば、従来のラインに無理なく追加できる新素材の採用、IoTによる品質計測のアウトソースなど、第三者の視点を活かしたR&Dも現実味を帯びてきました。

これからの紙ナプキン製造に求められるもの

SDGs対応と「柔らかさ」の両立

今後、製造業バイヤーや大手チェーンバイヤーは、「環境対応」と「お客様満足＝肌触り」の両立を求められる場面が増えていきます。

非木材素材や再生パルプを用いたサステナブルなナプキン、人体にやさしい添加剤の開発など、従来の延長線上だけでは語れないイノベーションが期待されています。

現場のノウハウをデジタル化し「技術の見える化」を進めることで、メーカー・バイヤー・サプライヤーの三者が共創する時代がもう始まっているのです。

バイヤー目線で大切なポイント

バイヤーとして紙ナプキンの仕入れや新規開発に臨む際、重視すべきポイントとして下記が挙げられます。

• 独自性ある柔らかさや持続性の提案力
• 安定供給体制、俊敏なイレギュラー対応
• 環境認証・法規対応などコンプライアンス面
• IoT・デジタルツールによる生産数値管理の有無

サプライヤーの立場ではこれらを押さえつつ、「共に開発していく姿勢」が一層求められます。

まとめ：現場知見と未来の紙ナプキンづくり

紙ナプキンの肌触りが柔らかくなる裏側には、繊維配合から抄紙テンションまで、現場でしか分からない緻密なノウハウが詰まっています。

伝統に根ざしたアナログ的な手法と、最新のデジタル技術が融合することで、今後も着実に品質向上と業界革新が進んでいくでしょう。

製造業の発展とは、現場知見を守りつつ、それを時代とともに再解釈し、新しい価値に昇華させていくことに他なりません。

紙ナプキンという身近なアイテムも、まさにその課題と可能性を表しているのです。

購買・調達担当やサプライヤー、あるいは現場オペレーターの方は、ぜひ自分たちの知見を言語化し、次世代のモノづくりへ橋渡しをしていってほしいと思います。