ティッシュの肌触りを柔らかくする繊維長とエンボス圧調整

はじめに：ティッシュの柔らかな肌触り、その秘密はどこにある？

ティッシュペーパーは私たちの日常に欠かせない存在です。
特に「肌にやさしい」「柔らかい」といった使用感は、消費者が商品を選ぶ際の大きな決め手となっています。
では、その柔らかな肌触りはどのようにして作り出されるのでしょうか。
「繊維長」と「エンボス圧」という、一見専門的で地味な工程にその秘密があります。
本記事では、製造業の現場で培った知見や現場目線も交えつつ、ティッシュの品質向上に直結する繊維長とエンボス圧調整のポイントについて詳しく解説します。

ティッシュ製造の歴史と現在：アナログからデジタルへの橋渡し

ティッシュは元々、機械で紙を抄造した時代から続く伝統産業のひとつです。
昭和の時代は、職人による経験値や「勘」が品質の決め手でした。
しかし現在、品質競争の激化やグローバルでの調達要件が高まったことで、繊維の原料調達から設備自動化、工程ごとの質管理まで、徹底した数値管理やデータにもとづくプロセス改善が求められています。

一方、保守的な文化が根強く残る業界でもあり、「昔ながらのやり方」に安住する雰囲気も少なくありません。
現場で起きやすいのは、データで工程を管理していても、現物の肌触りや仕上がり調整はベテランの手感覚で行われてしまうというギャップです。
ここでは、アナログ的な知見を活かしつつ、現代的な品質管理にも橋をかけるヒントを探ります。

ティッシュの柔らかさを決める「繊維長」とは

繊維の原料とその選択肢

ティッシュペーパーの主原料は、パルプです。
このパルプには、主に「長繊維」と「短繊維」の2種類があります。
長繊維（主に針葉樹系）は、繊維同士がよく絡み合いやすく、強度の高い紙を作ることができます。
一方、短繊維（広葉樹系）は、繊維一本あたりが細く、しなやかさや柔らかさを生み出しやすいという特性があります。

繊維長のバランスと強度、肌触りのトレードオフ

柔らかなティッシュを作るためには、短繊維を多く配合するのが一般的です。
しかし、短繊維だけでは紙に十分な強度やコシが出ず、すぐにボロボロになってしまいます。
そのため、長繊維と短繊維のバランス配合がカギを握ります。

たとえば、「肌ざわり重視」の高級ティッシュでは短繊維の比率を6〜7割にまで高めています。
一方、「しっかり拭けて破れにくい」のが求められる商品では、長繊維を多めに配合します。
この「最適な繊維長配合比率」を見つけ出すためには、紙力（引張強さ）、フワフワ感、肌触りテストなどを繰り返し、現場で人の“手感”も使いながら調整していく必要があります。

繊維加工の進化と最新の調達動向

最近ではパルプ自体に加工を施し、さらに柔らかい繊維構造を作るバイオテクノロジーを活用した原料や、異種繊維のブレンドも増加しています。
また、サステナビリティへの関心から再生パルプや竹などの新素材導入も進んでいます。
これにより原料調達の選択肢が増える一方、配合設計や調達担当の専門性がますます問われる時代になりました。

肌触りを生み出すもうひとつの技、エンボス圧調整

エンボスとは何か？

「エンボス」とは、紙に模様や凹凸パターンを型押し加工する工程です。
この工程で、見た目のデザインだけではなく、実際のさわり心地や柔らかさが変化します。

エンボス加工をすることで、繊維間に空気層が生まれ、紙がふんわりと広がりやすくなります。
また、肌に当たった時の摩擦抵抗が軽減され、すべすべとした感触にすることができるのです。

エンボス圧調整の勘どころ

エンボス圧を高くしすぎると、紙が薄くなりすぎ、強度や保水性が落ちます。
逆に弱すぎると、凹凸が足りず、“べたっ”とした張り付き感が出てしまいます。
どのくらいの力で、どのくらいの深さのパターンを刻印するのか。
そしてそれによって紙全体の厚みや膨らみ感、見た目の高級感などにも大きな差が出てきます。

エンボスロール（金属製の円筒型型押しローラー）や紙との間の圧力設定、紙送り速度のバランス、現場での温湿度管理など、微妙な条件まで調整して最良の状態を探る。
この工程は、長年の経験による“見極め力”と、機械制御、データ分析の両方が求められます。

現場の課題と業界動向：デジタル化の壁とこれからの購買・調達

アナログ文化の根強さと「品質の標準化」

紙の肌触りや柔らかさは、現場のベテランが直感と経験で担保している企業も少なくありません。
これが工場ごとの品質ばらつきや、人材流出時のノウハウ消失という課題につながることがあります。

最近ではQC工程表やIoTセンサーによる自動計測を取り入れ、できるだけ「数値化」「見える化」しようという動きも活発化しています。
しかし「実際の肌触りは指先でないと分からない」「最終的なジャッジは工場で働く人の五感だ」という意識が根強く残っています。

購買・バイヤー視点で重要なポイント

バイヤーがティッシュメーカーと交渉する際、重要なのは単価や納期だけでなく「何を求めている消費者なのか」「ブランドの差別化ポイントは何か」という視点です。
たとえば、「もっと柔らかいティッシュが欲しい」といったマーケティング側の声から、調達先のパルプ配合比まで落とし込み、サプライヤーと一緒に配合開発に取り組んでいる企業もあります。

バイヤーには「原料や工程を知っている・現場と話せる」ことが強みとなります。
また、サプライヤーの立場でも「バイヤーはどこまで工程・品質管理に興味があるのか」を知っておくと、提案や交渉の幅が大きく広がります。

今後の業界トレンドと競争力強化のために

環境対応や原料高騰の波はティッシュ業界にも押し寄せています。
例えば竹パルプやバイオ由来の新素材導入による差別化、工場自動化による大量安定生産、一方で高付加価値商品（超プレミアム柔らかティッシュ）の開発競争など、幅広い戦略が入り乱れています。

購買・調達担当者は、単にコストだけで判断するのではなく、「肌触り」という“感覚品質”までも高いレベルで扱う、「原料→工程→仕上がり」まで全体を俯瞰できる専門性が求められます。

まとめ：新しい提案で業界の未来を切り拓くには

ティッシュの肌触りを柔らかくするためには、繊維長の最適なバランス設計、エンボス圧の精密な調整という、「目に見えにくい」「真似されにくい」技術の積み重ねが不可欠です。
これは単なる生産工程の話ではなく、調達購買・品質管理・現場改善のすべてが絡み合ったトータルな“ものづくり力”そのものです。

昭和的な経験則とデジタルデータを掛け合わせ、新しい視点で現場を見直す。
現場・バイヤー・サプライヤーが同じ目線で品質を磨き上げれば、競争力の高い製品を生み出すことができます。

これから製造業でバイヤーを目指す方、あるいはサプライヤーがバイヤーの“内心”を理解したい場合は、「見えない品質」にどれだけ踏み込めるかが大きな武器となります。
ぜひ、現場を知り、数字の奥にある“感覚”の部分まで探求し続けていただきたいと思います。

ティッシュの一枚に込められた多くの工夫、その進化は、製造業全体の発展にも必ず繋がるはずです。