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濾過・圧搾技術の基礎とメカニズムおよびスケールアップ時のトラブル対策

目次
はじめに:濾過・圧搾技術が製造現場にもたらす価値
製造業の現場において、濾過と圧搾技術は決して避けて通れない基本技術です。
食品・薬品・化学・金属など幅広い業界で原料や製品を分離・精製するためには、必ずと言っていいほど活用されます。
昭和時代から続くアナログな手法が依然として現場に根強く残っていますが、近年は自動化やIoTの進展、品質志向の強化、脱炭素やBCP(事業継続計画)への対応といった新たな潮流も無視できません。
これから濾過・圧搾技術の基礎とメカニズム、スケールアップ時に現れるトラブル傾向とその対策について、現場目線で分かりやすく解説します。
調達・購買や生産管理、品質管理担当の方々、さらにはバイヤーやサプライヤーの方にとっても、実践的なヒントとなるような内容を意識しています。
濾過・圧搾技術の基礎とメカニズム
濾過とは何か?本質と目的
濾過とは、異なる粒径や性質を持つ「固体」と「液体」「気体」などを分離する操作です。
多くは液体中の微粒子(固体)や析出物を、フィルターを使って除去することで、目的の純度や品質を実現します。
製品への異物混入防止や、有価物回収、排水の浄化といった目的で、古くから使われてきました。
濾過の典型的な手法はろ紙や不織布を用いた重力濾過、真空を用いた減圧濾過、加圧濾過、または自己洗浄機能付きの自動フィルターなど多岐にわたります。
最近では中空糸膜やセラミックフィルター、ナノろ過などの精密分離も一般化しています。
圧搾とは何か?目的と代表的な方式
圧搾は、固液分離プロセスの一種で、ろ過により集められた「ケーキ」(=濾過残渣)からさらに加圧して液体(ろ液)を絞り出し、残渣の水分を極力減らす操作です。
食品産業の大豆ミールや搾油作業、環境関連の産業廃棄物脱水処理などで中心的な役割を担っています。
機械的には、ろ板式のフィルタープレス、回転式ドラムフィルター、遠心脱水機(デカンタ)、スクリュープレスなどが代表的です。
素材や製品、原料や排水処理など用途に応じて選定が分かれます。
濾過・圧搾に共通する技術的なポイント
・「ろ材(フィルター)の選定」−適切な孔径・材質・構造が歩留まり・品質・コストを左右します。
・「差圧(ろ過圧)」−過大な圧力は装置トラブルや濾過速度低下につながります。適正な設定とモニタリングが不可欠です。
・「流路の設計とケーキ(残渣)剥離」−目詰まり予防やメンテナンス性、作業安全と直結します。
・「ろ過と圧搾のシーケンス」−工程短縮・効率化のカギとなり、多くの現場改善の余地があります。
スケールアップ時に起きがちなトラブルとその対策
なぜスケールアップするとトラブルが多発するのか
実験室や小規模生産ラインで安定していた濾過・圧搾プロセスが、大型プラントや量産設備に切り替えたとたん予想外のトラブルに直面することは少なくありません。
その要因は「流体のふるまい」(スケール依存性)に加え、現場作業や設備設計のアナログ的な慣習、情報共有不足、データ不足など多岐にわたります。
ここでは、昭和型の経験則に頼ったやり方から一歩進めた「新しいモノサシ(指標・管理手法)」とともに、悩みがちなトラブル例をピックアップし解説します。
ケース1:ろ過速度の著しい低下
スケールアップした際、ろ過速度が想定より大きく低下するケースがあります。
主な原因は下記の通りです。
・ろ材面積のスケール非線形性(単純に面積を大きくしても比例してろ過速度が上がらない)
・供給流体の性状変化(分散・凝集状態、粘度)
・圧送装置の能力不足、圧力損失の増大
・ろ材自体の目詰まり発生(不均一流路、ケーキ形成位置の偏り)
このような場合は、「流速」「差圧」「供給濃度」「ろ過温度」など各パラメータを詳細に記録し、小規模時との違いを数値で見える化することから始めます。
また、現場の作業者とのヒアリングを重ね、どの段階で速度低下が始まるのか抽出することも重要です。
ケース2:ケーキ剥離不良、装置への付着や詰まり
圧搾ケーキがろ板やフィルターから離れにくくなったり、配管や弁類への付着・詰まりが頻発する場合もスケールアップ時の典型的なトラブルです。
ケーキ物性(水分量、強度、粒径分布など)が変化したり、操作条件の違いで「圧縮しすぎ」や「乾燥しすぎ」の状態となると剥離性が悪化します。
対策としては、加圧プロセスの段階的制御(多段圧搾)、ろ板や網の表面コーティング変更、ケーキ溶出補助のための補助エアブロー導入などが有効です。
また工程設計の段階でサンプルの物性変化を十分に確認し、適宜試運転・検証を重ねることが望ましいです。
ケース3:ろ液中異物・バイパス流れの混入
大量生産工程になると、装置のつなぎ目・パッキン・シール部からのバイパス流や、ろ過交換時の人為的ミスによる異物混入トラブルも増加傾向になります。
このようなトラブルは品質トラブルの根源であり、再発防止策が求められます。
対策の基本は「定期・確実な装置点検」と「交換作業手順の標準化」、さらにはUV検知などの異常流監視システムの導入です。
設備設計段階で「洗浄しやすい構造」「交換ミスが発生しづらい設計」を盛り込むのも現場目線の発想となります。
バイヤー・サプライヤーが押さえるべきポイント
スケールアップでのこれら現場トラブルは、川下(エンドユーザー)にとっては納期遅延や品質クレームのリスクと直結します。
バイヤーはメーカーと密にコミュニケーションを取り、スケールアップ時のリスクアセスメントや実機テストの要求を必ず押さえましょう。
サプライヤー側は自社が提供する装置・部材の過去事例やサンプル評価情報から、「どのスケール・どの条件」でどう変化するかまで提示することが信頼獲得の近道となります。
現場で求められる最新動向とデジタル化の流れ
自動化・デジタルツインの活用
昭和由来の濾過・圧搾技術も、最近ではセンサー技術やIoT、AIなどの導入による「状態監視」「自動制御」「リアルタイム分析」が広がっています。
具体的には、ろ差圧・流量・ろ液品質を常時監視し、異常値が出れば自動でアラームや保守対応に進むシステムの導入が進んでいます。
また、デジタルツイン(現場設備のシミュレーション化)による「事前のトラブル予知」や「最適操作条件探索」が大手メーカーを中心に広がり始めています。
環境対応強化への取り組み
脱炭素・省エネ時流のもと、圧搾・脱水工程でのエネルギー消費低減や、ろ液再利用・副産物リサイクルの技術も評価が高くなっています。
サステナブルなものづくりの観点から、バイヤーやサプライヤーも「どのように省エネ・リサイクル対応できているか」を相互に情報共有し、ビジネス連携を模索する機会がさらに増えるでしょう。
まとめ:真の価値を生み出す濾過・圧搾技術の活かし方
濾過・圧搾技術は古くて新しい製造業の基盤技術です。
現場で繰り返されるトラブル対策は、単なる改善ではなく、企業価値や組織文化に直結します。
バイヤー・調達担当者は「モノが動く現場と設備の理解」「スケールアップで何が起こるか」を体感的に身につけることが、より良い購買・調達活動につながります。
サプライヤーは「課題共有」と「データに基づく対策提案力」で顧客との深い信頼関係を築いてほしいと思います。
そして、昭和的な経験則に縛られすぎず、数値化とデジタル化・IoTを戦略的に取り入れていく姿勢が、これからの製造現場に必要です。
現場と技術の目線を繋ぐ、そんな「濾過・圧搾プロフェッショナル」として一歩を踏み出しましょう。
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