投稿日:2025年12月3日

最終検査合格=品質保証ではないという本質

はじめに ― なぜ「最終検査合格」が「品質保証」ではないのか

製造業現場で「最終検査に合格したから、品質は保証されています」と言われて納得できますか?

確かに製品出荷前の検査で『合格』タグが付いていれば、品質が保証されているように思うかもしれません。

しかし、長年製造現場や品質管理に携わってきた私の経験から断言します。

最終検査は「品質の最後の砦」ではあるものの、それイコール品質保証とは全く異なる概念なのです。

この意識の違いを理解できていないと、バイヤーとしてもサプライヤーとしても、本当の意味での「品質」を語ることはできません。

この記事では、昭和的なアナログ文化がいまだ色濃く残り「とにかく検査基準を通れば良い」と考えがちな製造業界に一石を投じながら、本質的な「品質保証」のあり方について解説します。

「品質保証」と「品質管理」とは何か

品質保証(Quality Assurance)の本質を見直す

まず品質保証とは、「顧客に約束した品質を供給し続けること」を保証する全体的な活動です。

これは単なる最終製品の検査結果だけでは成り立ちません。

原材料調達から製造、検査、出荷、さらに顧客に届くまでのあらゆる工程・情報・仕組みが整って初めて「保証」が成立します。

つまり、「不良が出ても検査で見つければ良い」ではなく、「そもそも不良を作り込まない」こと、そして「発見した不良の原因を根本から取り除く」ことが問われるのです。

品質管理(Quality Control)は日々の積み重ね

対して品質管理は、製品や工程を一定の品質に保ち続ける管理技術の集合体です。

データの収集・記録、問題分析・改善提案・実行、一つ一つの作業標準やルール化など、日々の地道な積み重ねが「現場力」となり品質を作り込みます。

現場ではつい「QCサークル」や「5S活動」が目的化しがちですが、これらはすべて「品質保証=お客様の期待に応える商品・サービスを継続的に提供する」ための手段です。

なぜ最終検査に依存してはいけないのか

最終検査の限界 ― 「良品率9割」では10回に1回不良品が流出?

仮にある製品の最終検査で合格率が99%としましょう。

一見非常に高い数字ですが、大量生産においてはわずかな不良率でも流出数が無視できません。

また検査員の疲労、ヒューマンエラー、不十分な判別基準など人依存の限界もあります。

ましてや検査で見つけた不良はすでに「出来上がってしまった不良」であり、手直し・再加工や廃棄によって無駄なコストが発生します。

つまり、「最終検査で良品だけを選り分ければいい」という発想には大きな落とし穴があるのです。

「不良品ゼロ=最終検査ゼロ」への挑戦

理想的な状態は「そもそも最終検査で不良が見つからない仕組み」を作ることです。

世界的な自動車メーカーでは「全品検査排除」の思想が根付いています。

たとえば工程設計で誤組み立てができない仕組みを作る、定量的なデータ・IoTを活用して見える化し異常値を即座に検知する、など仕掛けそのものが不良流出の根本対策となります。

これが本当の「作り込み品質」です。

業界の現実 ― なぜ昭和から抜け出せないのか

“人が最後にチェックすればいい”という悪しき慣習

実際の現場では「最終検査を強化すれば良い」「ベテラン検査員に頼めば間違いない」という依存体質が根強く残っています。

とくに中小規模のサプライヤーやアナログ色の強い業種ほど、「検査=品質保証」という錯覚が常識化しています。

これは日本の戦後復興から高度経済成長期にかけて築かれた「人海戦術」「目視検査」文化が未だに影響しているためです。

脱アナログ・デジタル化の遅れ

近年自動化やIoT導入が進んでいるとはいえ、現場には「紙の日報」「口頭伝達」「見て覚えろ」など昭和的マインドも色濃く残ります。

こうした現場ほど、体系的な品質保証(プロセス品質保証、設計品質、システム的品質保証)よりも、最終検査に頼る傾向が強いと感じます。

バイヤーとして押さえておくべき「品質保証」の見極め方

1. サプライヤーの品質管理体制を見抜く

調達・購買としてサプライヤーを選定する際、最終検査の合格証や日次報告だけで安心しないことが肝要です。

◎工程設計や標準化がどこまでされているか
◎異常発生時のフィードバック体制
◎工程内での「未然防止」「再発防止」の仕組み
これらを工場見学や監査で実際に確認してください。

本当に強い品質保証体制を持つサプライヤーは、検査結果ではなく「日々の工程管理と継続的改善」の実態を重点的に説明してくれるものです。

2. 「数字」だけでなく「プロセス」を評価する

検査合格率・クレーム件数・納入実績などの「数字」は当然重視すべきですが、それ以上に大切なのが「日々の現場で何が行われているか」です。

たとえば「ヒヤリハット(ヒヤッとした・ハッとした事例)の蓄積や共有がなされているか」「工程FMEA(故障モード及び影響解析)を実施し弱点抽出と対策が回っているか」など、現場のプロセスやカルチャーも加味してください。

サプライヤー側が注意すべき「品質保証」の盲点

検査依存意識からの脱却

「最終検査=品質保証」という思い込みから抜け出すためには、現場をマネジメントする立場として次の視点が不可欠です。

・工程ごとに品質を見える化し、リアルタイムで異常を発見する
・検査で不良が出た時点で「リカバリー」ではなく「根本原因分析」に力を入れる
・検査判定NGの時、その場しのぎでの手直しや再検査に頼らない
・設計段階から「作り込み品質」の仕組み導入に関与する
こうした意識改革が長期的な顧客信頼、ブランド価値の向上、コスト最適化につながります。

バイヤーの真の意図を考える

バイヤーは「最終合格」の紙一枚より、「その製品がなぜ良品であるか」「それが維持できる根拠」を知りたいのです。

納入不良が発生した際に「すみません」ではなく、「なぜ起こったか」「今後具体的に何を変えるか」まで論理的に説明できる体制が、サプライヤー信頼に直結します。

現場目線だからこそ伝えたい ― 本物の「品質保証」とは

現場で20年以上培ってきた経験から言えることは、「検査ではなく、仕組みで品質を作り込む」ことこそが真の品質保証だということです。

最終検査だけに頼っている限り、重大なクレームやリコールの危険、さらに現場負担の増大を免れることはできません。

むしろ不良が出ないプロセス設計と、現場全員参加の改善型カイゼンカルチャーが、これからの「生き残る現場」に必須の条件です。

まとめ ― 昭和から令和への品質保証変革

最終検査の合格は、あくまで「最後の確認」であり、決して「イコール品質保証」ではありません。

・仕組み作り
・現場主導の継続的改善
・デジタル活用による見える化
・サプライヤーからバイヤーまで一体となった品質文化
これこそが、これからの製造業で求められる品質保証体制です。

製造業に働く皆さん、一歩踏み込んだ現場目線と、日々の小さなカイゼンにこそ「未来を作る力」があります。

バイヤーもサプライヤーも、昭和型の検査頼みではなく、真の「ものづくり力」を磨いていきましょう。

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