投稿日:2025年11月16日

ガラス灰皿の製版でインク流れを防ぐための微細網目構造と感光厚設定

はじめに:昭和から続くアナログ技術と現代の製造現場

ガラス灰皿の製版における技術は、長い歴史を持っています。
特に、日本の製造現場では「昭和のやり方」からなかなか脱却できないアナログな工程が今も根強く残っています。
しかし、その一方でデジタル化や自動化の波も拡大しつつあり、ものづくり現場には二つの潮流が混在しています。
本記事では、そんな現場のリアルを踏まえつつ、ガラス灰皿の製版過程でインク流れ(いわゆる「ブリード」現象)を防止するために最も重要となる微細網目構造と感光厚(乳剤厚)の最適化について、実践的・現場目線で解説していきます。

インク流れとは何か?そのメカニズムを知る

なぜインクが流れるのか

ガラス灰皿の絵付けやロゴ印刷などをスクリーン印刷で行う際、インクの流れ(ブリード)は品質不良の最大要因の一つです。
本来、版の網目(メッシュ)は印刷時には停止して印刷面でインクの輪郭をしっかり維持する必要があります。
ところが、版の条件やインクの特性、印刷条件が適切に合っていないと、印刷後に意図しない部分までインクが擦過して広がり、デザインがぼやけたり、細線が太ってしまう現象が発生します。
繊細なパターンやロゴの場合、見逃せない問題になります。

現場でよくある失敗例

例えば、刷版の網目が粗すぎると、印刷したインクが下地のガラス面に必要以上に流れてしまい、「にじみ」と呼ばれる状態になります。
逆に目が細かすぎるとインクがうまく乗らず、パターンが欠落する場合も出てきます。
また、ガラス灰皿は形状が歪曲しているものも多く、平面とは違った難しさが余計に拍車をかけているのも現場特有の悩みです。

微細網目構造とは:最適なメッシュ選定とは何か?

メッシュ数と材料選択

スクリーン製版における「メッシュ」は単位長さあたりの糸の本数です。
この数値が高いほど微細なパターンを再現できますが、インクの粘度や粒径とのマッチングが求められます。
ガラス灰皿のような硬い下地の場合、メッシュ数は通常180〜350が標準です。
が、繊細なロゴや微細ラインを印刷する場合は350〜420メッシュの超微細版がよく用いられます。

現場でやりがちな失敗と改善策

ありがちなのは、インクが粗いメッシュから過剰に供給され、細い文字や罫線が滲んでしまうパターンです。
この場合、単純にメッシュ数を増やすだけではなく、使うメッシュの素材や撚り、テンション、版枠との固定方法にも注意が必要です。
ナイロンやポリエステル素材にもそれぞれ特徴があり、現在はガラスに適した高弾性ポリエステルが主流になっています。

感光厚(乳剤厚)の意味とその調整ノウハウ

感光厚(乳剤厚)とは何か

製版の際、網目の上に塗布する感光乳剤の「厚さ」はインクの通り道となる重要な要素です。
この厚みが薄いとインクの供給量がコントロールできず、厚いと細部が潰れてしまうリスクが高まります。
しかも、ガラス灰皿の形状やインクの動きは、プラスチックや金属と異なるため、経験に基づく最適値の見極めが必要です。

調整の実践ポイント

感光厚は、網点の高さより10〜30μm程度プラスするのがセオリーですが、現場の温湿度や使うインクの性能、さらには作業スピードによっても最適値は変化します。
私の経験上、インク流れを防ぐ場合は20〜25μm程度のやや厚めがよく、特に高解像度を求める場合は乳剤層を均一に塗布・乾燥させることが欠かせません。
レーザー露光機など最新設備の導入が難しいアナログ工場でも、職人のローラー使いで数μm単位の厚さをコントロール可能です。

製版〜印刷工程での「インク流れ」徹底防止ノウハウ

製版前の洗浄と下地処理

まず、大切なのはガラス灰皿の下地処理です。
微細なゴミや油分が残っているとインクが正常に定着せず、流れの原因になります。
アルコール洗浄やプラズマ処理、特殊プライマーの活用が大きな効果を発揮します。

印刷工程のコントロール

次に印刷条件ですが、スクイージー(ゴムヘラ)の硬さや角度、印刷速度にも注意が必要です。
速すぎるとインクが飛び散り、遅すぎると流れやすくなります。
スクイージーのR形状や角度は専門スタッフの知見が物をいう領域ですが、一般的に65〜75度の設定がガラス面には適しています。
また、版と印刷物のクリアランス(オフコンタクト)もしっかり調整しましょう。

現場スタッフへの教育ポイント

「なぜ流れるのか」を論理的に伝えることで現場メンバーの意識は大きく変わります。
トライ&エラーに終始しがちなアナログ工場でも、流れ防止の理屈を現象と結びつけて教育することで効果は飛躍的に向上します。

昭和体質から抜け出せない業界にこそ、技術伝承を

現場の多くは、過去の「勘と経験」だけで同じ失敗を繰り返してしまいがちです。
しかし、微細網目や乳剤厚の理論的裏付けと、根拠に基づく作業の改善は今の時代に必須です。
例えば、ベテラン職人の「このくらいがちょうどいい」と受け継がれる曖昧な知覚は、若手にとってはブラックボックス化しがちです。
今後、設備の自動化やIOTの導入によってデータ管理が進めば、工程ごとの最適条件を数値化して共有することも可能になります。

バイヤー・サプライヤー両者の視点で最適化をめざす

ガラス灰皿のOEM受注や購買活動でも、製版品質管理の重要性を理解しておくと質の良い仕入れ・発注判断が可能になります。
どんな規格・どんな形状で・どこまでの細線が必要か。
メッシュ選定や乳剤厚のスペック指定はもちろん、現場の微妙な癖や経験値の高いサプライヤーをパートナーにする視点も重要です。
もし「流れが出やすいので困っている」というサプライヤーがいれば、この記事に記載した内容をヒントにメーカー・購買担当が一緒に改善を模索するべきです。

まとめ:現場主義と技術伝承、そして新たな価値への挑戦

製造業のグローバル化やコスト競争がますます激しくなる今こそ、「微細な技の積み重ね」が最終的な競争力を担保します。
現場の知恵と最先端の理論知識を融合させ、ガラス灰皿の製版におけるインク流れを防止し、高品質な製品づくりを目指しましょう。
昭和の現場力と最新知識の架け橋になれるのは、私たち世代に課せられた使命です。
自らの現場経験を次世代に伝え、業界全体の発展に寄与することが、今こそ重要です。

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