投稿日:2025年6月27日

有限要素法解析品質保証モデリング検証レビュー体制確立手法

はじめに

有限要素法解析(FEM)は、製造業における設計開発や工程改善、品質保証の現場で広く活用されている重要な技術です。

しかし、FEM解析の結果がいくら優れていても、解析モデルの設定や品質保証、検証・レビューの体制が確立されていなければ、現場の信頼を得ることはできません。

アナログな業界構造が色濃く残る製造現場では、形式的な解析や「やったつもり」のレビューも蔓延しがちです。

この記事では、長年現場で培ってきた視点と、最新の業界動向を織り交ぜつつ、有効なFEMモデリングと品質保証体制の確立方法について、実践的な観点から解説します。

バイヤーやサプライヤーの双方にとって価値ある内容となるよう、現場のリアルな課題も織り交ぜていきます。

有限要素法解析の現場における課題と背景

解析モデルと現実の乖離

多くの現場で見られる大きな課題は、「解析モデルと現実の差」です。

理想化されたモデルや楽観的な境界条件のまま解析を進めてしまうことで、解析結果と実機の挙動に乖離が生じることが少なくありません。

新しい材料や複雑な形状、マルチフィジックスの現象が増える昨今、モデリング技術・パラメータ設定の質が成果物の信頼性に直結します。

レビュー手法の属人化・形骸化

解析のレビュー体制にも問題が潜みます。

レビューが形式的になり、「この人がやったなら大丈夫」といった属人化、または経験則オンリーの形骸的な判断に頼ってしまい、高度な解析であるにもかかわらず品質保証が機能しない現場も見受けられます。

品質保証・検証活動が評価されない

解析部門の担当者の多くが嘆く点は、品質保証や検証活動が「開発の本筋でない」と見なされやすいことです。

解析手法自体がブラックボックス化しており、経営層や他部門から工程の意義が正当に評価されにくい構造も問題です。

このままではFEM解析そのものへの信頼性が損なわれ、サプライチェーン全体での品質保証のボトルネックにもなりかねません。

効果的なFEMモデリングの鉄則

仮想化の前に現物を徹底して知る

良いFEMモデリングの出発点は「現物、現場、現象」を深く知ることです。

単に図面や設計値、仕様書だけを見るのではなく、現場で製品を手に取り、部品の組付けや動作、周辺の環境まで観察します。

例えば、締結部の摩擦・遊びや加工時のばらつき、温度環境の違いなど、現場でしか得られないリアルな情報がモデル精度向上には不可欠です。

ここで得た一次情報が、自身のモデリングに大きな差をもたらします。

モデリングの仮定・パラメータを明確化する

次に「どこまで作りこみ、どこを省略するか」を明確にします。

・材料特性値のソース
・荷重や境界条件の妥当性
・結合部や接点部のモデル化方法

これらを一つずつ明示し、仮定や省略・代用している点をきちんとドキュメント化します。

特に設計変更や将来の再解析時、「なぜこうした設定をしたのか」が分かる記録は必須です。

コミュニケーション型モデリングへ

FEMモデリングは個人作業になりがちですが、これをチーム内外との「コミュニケーションの道具」として見直します。

・設計者、現場担当者、品質管理部門へのヒアリング
・サプライヤーとの協議
・対象部品のバイヤーとのすり合わせ

こうしたコミュニケーションを通じて、解析結果を「製造現場でも納得できる説明材料」として位置づけます。

結果だけでなく、そのプロセス自体に価値を持たせましょう。

解析品質保証の正しい仕組み構築法

社内ルールとベストプラクティスの明確化

まず、社内でFEM解析に関する品質保証のルールや手順書(ベストプラクティス集)を策定することが第一歩です。

・解析対象の選定基準
・モデル化方針書の作成
・チェックリストによるレビューポイントの明確化
・データ管理、バージョン管理のルール化

これらをシンプルでも良いので整理し、誰が担当しても最低限の品質を確保できるようにします。

設計部門・製造現場との連携体制

FEM解析は設計部門や製造現場から遠い存在と思われがちですが、両者との連携で、その意義が一気に高まります。

例えば解析中の疑問点を設計者や現場作業員に即座に投げかける、逆に現場からの製品起因の要求を解析でフィードバックするといったサイクルを作ります。

このサイクルが回ることで「解析が現実の課題を解決している」という価値実感につながります。

第三者レビューとクロスチェック文化の定着

解析者自身での自己レビューには必ず限界があるため、第三者によるレビューの仕組みを導入しましょう。

・別チームや他部署とのクロスレビュー
・サプライヤー、バイヤー双方を交えた合同レビュー会

これにより解析の属人化を防ぎ、客観性と透明性のある品質保証体制が実現します。

昭和型の「経験と勘」で完結していた世界に、現代的な論拠と仕組み=エビデンスのある品質保証文化を根づかせていくことが、現場の信頼構築に大きく寄与します。

検証・レビュー工程の具体的な進め方

検証活動:バリデーションとベリフィケーション

検証活動は「バリデーション(妥当性検証)」と「ベリフィケーション(正確性検証)」の2段階で整理すると効果的です。

・バリデーション:モデルの結果が現実世界、実機現象をどこまで再現できているか
・ベリフィケーション:作成した数値モデルや数値解法にエラー、矛盾がないか

例えば、社内に実験データがあれば積極的にFEM解析結果と突き合わせる。

許容範囲の設定や差異の原因分析を徹底して行い、現実との乖離は改善・フィードバックします。

バイヤー視点では、サプライヤーから提出された解析データがどこまで検証され、お客様と同じ目線で評価されているかを確認することが大切です。

レビュー活動:多階層とローテーションで形骸化を防ぐ

レビュー活動は
・解析担当同士のペアレビュー
・上位管理者によるレビュー
・場合により外部専門家による評価

といった多層的な仕組みにします。

また、担当タスクを定期的にローテーションすることで、いつも同じ人ばかりが同じ対象を見て主観的になることを防ぎます。

昭和型「ベテランだけがレビューできる」状況から脱却し、誰でも一定品質が担保できる体制へ移行します。

自動化とデジタル化でモデリング品質保証をレベルアップ

デジタルツイン・シミュレーション管理ツールの活用

最新の工場DX・スマートファクトリー化が進む中、FEM解析の品質保証もデジタルツインやシミュレーション管理ツールで改革できます。

・過去の解析事例、材料データ、ベストプラクティスをデジタルで一元管理
・自動でモデリング・解析パラメータのチェック、エラー検知
・社内外へのナレッジ提供や、解析パッケージの標準化

これらにより「人依存」や「勘と経験」から、「仕組みとデータ」に基づいた品質保証体制へ進化させられます。

解析プロセスの自動化・ワークフロー設計

繰り返し行う解析(例えば部品ごとの応力解析、熱解析など)については、完全な自動化や半自動化プロセスの設計が有効です。

社内テンプレートやパラメータ変換機能をうまく取り入れ、自動的にレビュー用のチェックリストを出力するフローを作るのも一案です。

これにより属人化やヒューマンエラーリスクを大幅に削減できます。

まとめ:FEM解析品質保証体制の未来とは

FEM解析品質保証・レビュー体制は「人による属人的な工程」から、「仕組み・ルール化された工程」、さらに「自動化・デジタル化された工程」へと着実に進化させていくことが不可欠です。

その基盤にあるべきなのは、「現場のリアル・実態を見る視点」と、「工程全体での透明性と客観性・再現性の担保」です。

サプライヤー側は、解析プロセスの品質保証体制と透明性を明確に示すことでバイヤーや顧客との信頼性を高め、バイヤー側は解析品質を適切に評価できる目を持つことが重要となります。

このような仕組みづくりは、アナログ時代から抜け出せない現状の製造業界にとっても、持続的な競争力強化の一手となるでしょう。

解析技術者としてだけではなく、現場・経営・サプライチェーン全体を見渡す目を持ち、業界全体の底上げに貢献していきましょう。

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