投稿日:2025年10月9日

マグカップの持ち手が外れないための焼成温度と釉薬管理

はじめに

マグカップの持ち手が外れるというトラブルは、日常の製造現場だけでなく、業界全体でも繰り返し発生しています。
購入してすぐに持ち手が落ちてしまえば、エンドユーザーの信頼は失われ、サプライヤーやバイヤーも大きなダメージを受けます。
ときには企業のブランドを毀損し、長期的な取引停止・返品コストの増加につながることも珍しくありません。
この問題がなぜ起こるのか、どうすれば防げるのか、勤務経験をもとに現場のリアルな目線と業界動向を交えて、実践的な解決策を解説します。

マグカップの持ち手が外れるメカニズム

接合部の構造的な弱点

マグカップの持ち手は、本体と別パーツとして成形された後、接合部で溶着(圧着やスリップによる接着)が行われます。
この接合部分は、本体に比べて物理的な強度が低く、製造過程での温度・湿度・圧力などの管理が甘いと、微細な隙間や気泡が生じやすくなります。
昭和の時代から続く「経験則」の作業現場では、この部分が職人の手作業頼みになりやすく、標準化やデータ管理が徹底されてこなかった歴史があります。

釉薬の役割と落とし穴

カップを美しく、また耐久性・衛生面を向上させるための釉薬ですが、その厚みや成分によって接着強度に影響を与えます。
特に接合部の釉薬の被覆状態が不均一だったり、必要以上の釉薬が流れ込み異物となることで、焼成後に剥離のリスクが高まることが判明しています。

焼成温度のコントロールミス

陶磁器は焼成温度の微妙な調節が品質を大きく左右します。
例えば、必要温度より50℃低い過程で焼成してしまうと、接合部の物理的な結合が不十分となり、焼き締めができません。
一方で、逆に高温で焼きすぎても、釉薬が接合部から溶け出し、持ち手の微細な隙間から剥離が生じる原因となります。

昭和的アナログ作業からの脱却

職人任せの限界

かつての製造現場では、「熟練工の手」に品質が大きく依存していました。
手順の口伝えによる伝承や、マニュアル化されない「勘と経験」の世界が主流だったのです。
これが標準化やプロセス管理の阻害要因となり、属人的な品質トラブルを繰り返してきた大きな要因です。

デジタル技術とIoT化の進展

近年、温度ログの収集、釉薬の厚み測定、画像解析による品質判定などを自動化する事例が増えています。
IoTセンサーを用いた焼成炉内部の温度分布モニタリングや、AI解析による画像検査によって、現場の“ムラ”を数値とデータで見える化できる時代となりました。
サプライヤー・バイヤー間でも、このようなデジタル技術の導入状況が取引条件・信頼度向上の大きな指標となっています。

焼成温度管理の実践ポイント

最適な温度領域の確立

土の種類や釉薬・接合部に使うスリップ(泥漿)の配合によって、最適焼成温度は変わります。
ヒューマンエラーや加熱ムラをなくすためには、熱電対による炉内多点温度計測が欠かせません。
対象となるマグカップと持ち手パーツごとに「最適プロファイル」を標準化し、製造ロット毎の温度データ履歴を管理することで、不良発生時の再発防止・原因究明が格段にスムーズになります。

急冷・急加熱のリスクコントロール

温度上昇・下降のグラフを適正範囲内に制御することで、持ち手部分の熱膨張差による応力集中を最小化します。
特に持ち手根元部分が炉内で局所的に過熱されている場合、急速な膨張・収縮によりマイクロクラックが生じやすいので、炉内の温度ムラ対策は必須です。

温度履歴のトレーサビリティ

「まさかのクレーム」対応において、ロット毎の焼成温度履歴が残っているか否かで、原因特定や再発防止策の提案力が大きく変わります。
このデータはバイヤーや最終顧客のクレーム対策にも大きく役立ちます。
製造条件の明示は、新規サプライヤーの参入や既存契約維持にも有利に働きます。

釉薬管理の最先端トレンド

配合バラツキと均一塗布技術

釉薬の成分配合や濃度を自動計量する機械の導入で、「気温・湿度による日替わりのバラツキ」を大きく減少させることが可能になりました。
また、ロボット塗布や精密なスプレー技術の利用で、接合部周辺の塗布厚みをミクロン単位で均一化する企業も増えています。

AIによる不良検出と予知保全

AIビジョンシステムで焼成後の釉薬クラック・かぶり・剥がれなどをリアルタイムで検出する技術が台頭しています。
また、大量の製品画像データから「異常パターン」を機械学習させることで、従来目視では発見が難しかった初期不良も早期に発見しやすくなっています。
バイヤー目線でも「AIを使った品質管理体制」は、取引先の評価アップと差別化ポイントとなります。

まとめ:現場目線でバイヤー・サプライヤー双方ができること

現場のリアルな声として、「持ち手外れ」はほんの些細な温度や釉薬のズレで生まれます。
しかし、その対策には昭和的な勘や経験に頼り切らず、いかに可視化・数値化し、標準化できるかが問われています。

バイヤー側は、サプライヤーの焼成温度・釉薬管理の自動化・データ化レベルを確認し、トレーサビリティや問題対応力まで含めてパートナー選定を行うべきです。
サプライヤー側は、徹底したプロセス標準化とデータ化、最新技術の導入・提案力を磨くことで、信頼と競争力を高められます。
また、予知保全やAI活用を積極導入することで、業界全体の高品質化・省力化・クレーム削減の相乗効果が期待できます。

この記事が、現場や調達・購買、サプライチェーンのさまざまな職種で働くみなさんのヒントとなり、昭和アナログ脱却の新たな一歩につながることを願っています。

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