投稿日:2025年10月26日

雑貨店がオリジナル食器を製造するための焼成温度と色味調整のコツ

はじめに:オリジナル食器製造の魅力と壁

近年、多くの雑貨店が自社ブランドの個性を打ち出すために、オリジナル食器の開発に力を入れています。

「ここでしか手に入らない食器」が消費者の心をつかみ、ファン作りや売上アップにつながるためです。

一方で、食器製造には焼成温度や色味調整など、工業的な知識・繊細な工程が要求されます。

昭和時代から続くアナログ的な「職人勘」も重要ですが、これに現代の品質管理や生産管理のノウハウを組み合わせることで、他店との差別化と安定した品質確保が実現できます。

本記事は、雑貨店やバイヤーの方々がオリジナル食器開発を推進する際に不可欠な「焼成温度」「色味調整」のポイントを、製造現場のリアルな視点で解説します。

焼成温度は品質と直結する最重要工程

焼成温度の基本:なぜ温度管理が要になるのか

焼成温度は、食器の強度・耐久性・見た目の美しさを決定付ける最重要要素です。

一般的な陶磁器の焼成温度は1,200~1,300℃前後です。

この温度帯になると、粘土中の成分が化学反応を起こし、ガラス化(ビトリファイ:焼結)して硬くなります。

温度が足りないと水分吸収率が高くなり、割れ・シミ・変形・衛生面のリスクが生まれます。

逆に温度が高すぎると溶融して歪みやすくなり、釉薬もだれやすく意図した色味や質感が損なわれます。

従って、指定粘土や釉薬の「最適焼成温度帯」をデータ管理し、炉内のサーモロガーなどで温度プロファイルを追い続けることが良品率向上の鍵となります。

製造現場での現実:理論値と実際値のギャップ

カタログやマニュアルには「推奨焼成温度」の記載がありますが、炉内(特にシャトル窯やトンネル窯)では場所ごとに温度ムラがどうしても生じます。

経験豊富な職人は、炉の「熱流れ」を体感的に把握し、製品配置や積み上げ方を微妙に調整していました。

しかし現代では、IR温度計や自動制御システムを導入し、炉内温度を可視化・デジタル管理できるので、現場頼みの「属人化」を脱却しやすくなっています。

とはいえ、現場では「焼きムラ」による品質バラツキが生じやすく、温度調整・配置・製品設計はワンセットで考える必要があります。

色味と釉薬調整の本質:レシピ依存からの脱却

釉薬と色味の基礎理論

食器の色やツヤは「釉薬(うわぐすり)」とよばれるガラス成分を主軸としたコーティング剤の調合と、焼成時の温度プロファイルで決まります。

釉薬は主にケイ酸、酸化アルミニウムなどの鉱物質と、金属酸化物(鉄、銅、コバルト、マンガンなど)で色味が付く仕組みです。

そして同じ釉薬レシピでも「焼成温度」「炉内雰囲気(酸化or還元)」によって発色が大きく変わります。

職人技術の本質は、原材料の「顔」を読み取って微調整を繰り返すことでした。

色の出方を安定させる現場ノウハウ

素晴らしい釉薬レシピを仕入れてみても、「自分の窯で焼いたらレシピ通りの色が再現できない」という問題は、現場では珍しくありません。

その原因は次の三点です。

・微細な焼成温度の違い(10℃違えば驚くほど色が異なる)
・炉内雰囲気の変動(酸素不足だとくすんだ色、酸素が多いと明るくなる)
・素地(土台となる陶土)の成分・声色変化

経験豊富な現場では、必ず「テストピース」と呼ばれる小さな試験片を複数同時に焼き、位置ごとの色ムラを見ながら次ロットを調整します。

また、デジタル画像分析装置や色差計(分光色差計)を使用して客観的に色味データを取得することで、より再現性の高い製造が実現します。

これを「現場の感覚」+「データ管理」に置き換えることが、今後の品質安定と省人化のカギになります。

昭和から脱却できない悩みと未来への一手

なぜアナログ産業から抜け出せないのか

日本の食器製造業界は、長らく「職人技が全て」という風土が強く残ってきました。

地方の窯元・業者の多くはいまも手作業工程に大きく依存し、蓄積した知見も言語化されず「門外不出」でした。

量産対応を急ぐ量販メーカーと、一品ものを誇る工房メーカーとの間に文化の断絶も存在します。

このため、近年始まったベンチャー的な「オリジナル食器参入」は、製造委託先との知識非対称性(思い通りの色が出せない/説明が通じない)に悩まされやすい構造となっています。

取り組むべき「デジタル活用」と「現場知識」の融合

しかしこの壁を乗り越えるためには、サプライヤー(実際に焼成・成形する企業)とバイヤー(企画担当者)が、目的を共有し、焼成温度や色味を「数字やデータ」「現物サンプル」に基づいて交渉・改善できる土壌を作ることが重要です。

そのうえでデジタル化の可能性(IoTを活用した焼成データの共有、画像判定による色味判定、QAシートの共通管理、トレーサビリティなど)を徐々に広げていくことで、想定外の色味バラツキや、「前年ロットと同じにしてほしい」という要望に高い精度で応える体制が築かれます。

バイヤーだからできる!品質安定とコスト削減のアプローチ

工場との「言葉合わせ」が要

焼成温度や色味の相談は、「何度で焼いてください」「この色に似せてください」だけでは十分な精度が出ません。

現場との正しいやり取りのために以下を心がけましょう。

・必ず実サンプル(現物・写真・色番号)を共有する
・「どのくらいの色差まで許容か」を数字(ΔE*abなど)で伝える
・焼成回数、冷却条件、釉薬厚みでも仕上がりは変わる旨を共有
・不良品の定義を明確にしてトラブル低減

さらに「量産ロットの前に必ず試作と本焼成試験を行う」工程を設けることで、認識齟齬による損失が激減します。

コストダウンを狙うなら「歩留まり」管理がカギ

食器製造コストを跳ね上げる最大の要因は「不良率(歩留まり)」の低下です。

ちょっとした温度ズレや釉薬の過不足で、割れ・変色・歪みなどのB級品が大量発生します。

現場を巻き込んで「歩留まりをどこでロスしているか?」の目視チェック・QC活動を徹底することで、バイヤー側でも改善提案やフィードバックができます。

歩留まり低減=原価低減につながるため、工場も協力しやすいWin-Winの関係が築けます。

まとめ:理論・現場知識・データの三位一体で差別化を図る

オリジナル食器の開発は、「焼成温度」や「色味調整」という日本の伝統工芸の魂に直結する難関工程が多く存在します。

製造現場のラテラルシンキング(横断思考)を活かせば、AIやIoTといった最新技術とアナログ職人技の融合、現場データとバイヤーのブランド設計の橋渡しができます。

数字だけに頼らず、現場の生きた知恵にも耳を傾け、粘り強く「歩留まり」や「色味ブレ」の改善に共創的に取り組むことで、頼れるパートナーシップが築けるのです。

昭和から続く伝統と、現代のデジタルの架け橋に、ぜひチャレンジしてみてください。

雑貨店や新規参入バイヤーの皆さまの成功を心より応援します。

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