投稿日:2025年11月20日

陶器タイルにスクリーン印刷する際の釉薬上インクの定着構造

はじめに ― 製造業現場の視点から見た陶器タイルへのスクリーン印刷の現状

陶器タイルへのスクリーン印刷は、建築用内外装材や美術的価値の高いタイル製品の生産において非常に重要な役割を担っています。

私自身、長年に渡り製造業に携わる中で、数多くの陶器タイル製造現場を見てきました。

特に近年はデザインの多様化や個別低量生産へのシフトが進む一方で、昭和時代から続くアナログな手法も根強く残っています。

このギャップに頭を悩ませている工場長、現場リーダー、バイヤーの方々も多いのではないでしょうか。

この記事では、「釉薬上にインクをスクリーン印刷する際のインクの定着構造」という、製品品質を左右する技術の本質に迫り、現場目線で実践的なノウハウを掘り下げていきます。

陶器タイルと釉薬の基礎知識 ― なぜ定着構造が重要なのか?

陶器タイルの表面構造と製造プロセス

陶器タイルは粘土を原料として成形・焼成された「素地(きじ)」の上に、透明または着色したガラス質層である「釉薬(うわぐすり)」を施します。

この釉薬層は焼成工程で溶融し、素地と強固に結合することで独自の光沢や耐汚染性を与えます。

釉薬層の滑らかさや硬度はタイルの意匠性のみならず、印刷インクの「定着性」にも密接に関わります。

スクリーン印刷とは何か?

スクリーン印刷は微細なメッシュを通してインクを被印刷体(ここではタイルの釉薬層)に転写する代表的な工業印刷技法です。

インクが釉薬上で「どのように載るか」は、タイル表面の状態・インク組成・工程条件が複雑に作用します。

インクが十分に「定着」しない場合、乾燥後に剥離・割れ・滲み・変色などの不良が発生し、製品歩留まりに直結します。

したがって印刷・乾燥・二次焼成の全工程で“インクの界面構造”を正しく理解し、安定させることが極めて重要です。

釉薬上でのインクの定着メカニズムを開明する

「インク物性×釉薬性状」のマトリクスで考える

印刷インクが釉薬上に定着するメカニズムは一元的ではありません。

現場で私が体験した印象的な例をもとに、その構造を“インク物性×釉薬性状”のマトリクスで整理してみます。

【インク物性の主なパラメータ】

– 粘度とチキソトロピー
– 溶剤種および揮発性
– バインダー(樹脂)特性
– 顔料分散状態

【釉薬性状の主なパラメータ】

– 表面粗さ(Ra値)
– 表面エネルギー
– 吸水性/緻密性
– 表面の化学的安定性

インクが所定のパターン通りに印刷されるためには、これらの相性が合致する「マッチングポイント」を探り出す必要があります。

釉薬上インク定着の三段構造モデル

私の知見・現場ヒアリング・学術資料を基に下記のような仮説モデルを提案します。

【1. 機械的なアンカー効果】

工場によっては釉薬面が「鏡面」のように滑らかな場合もあれば、微細な凹凸がある場合もあります。

この表面粗さ(通常Ra0.1~0.5μm)がインクの“ひっかかり=アンカー効果”を生みます。

十分な粗さがあれば、インクは乾燥後にも機械的に安定しやすくなります。

【2. 表面エネルギーと濡れ性】

釉薬表面の表面エネルギーとインクの接触角の関係(=濡れ性)が定着構造の第一関門です。

インクがはじかれず、表面に均一に広がること。

ここに界面活性剤や特殊樹脂の選定ノウハウが隠れています。

【3. 化学的・物理的相互結合】

揮発性溶剤が乾燥すると、インク樹脂は最終的に釉薬表面と何らかの「物理的密着」や「化学的結合(錯体、架橋など)」を形成します。

中には焼成時にガラス化して一体化する特殊インクもあります。

この三層構造の相互作用がインクの定着を決定します。

現場トラブル事例と改善知見から学ぶ

昭和から続く古いラインでよく見かけるのは、「いつもと同じインク」「同じ釉薬」であっても温湿度や焼成条件のちょっとしたズレで急に定着不良が多発するケースです。

現場ではベテランオペレーターの“勘”に頼る場面も多く、客観的な物性測定・界面観察が疎かになりがちです。

実際には下記のような定番の不良が起こります。

– 印刷インクの端部剥離(アンカー効果不足)
– 表面撥水による“玉状ハジキ”(表面エネルギー問題)
– 乾燥過程での気泡噴き・ピンホール
– 焼成時の割れ・縮み

これらは上述した「定着三層構造」のどこかにボトルネックが潜んでいる証左です。

是正には生産データの見える化や、サプライヤーとの技術連携が不可欠です。

サプライヤー&バイヤー協業のポイント ― “定着”を制する者がコスト・品質を制す

バイヤー目線で見るスクリーン印刷インクの調達戦略

バイヤーは「コスト」「安定供給性」「不良率」でサプライヤーを選びますが、長期的な品質安定は“インク-釉薬マッチングの維持”なくしては成立しません。

イノベーティブなサプライヤーほど、下記の技術提案力があります。

– 新規樹脂系・添加剤による低温焼成/短時間乾燥の両立
– 釉薬メーカーとのデータ共有(Ra値管理、エネルギー調整)
– 短納期・多品種時代に適応した「パーソナライズインク」

購買責任者はこうした提案型サプライヤーを見極め、部門横断チームで現場と開発・購買を結ぶ「技術調達イニシアティブ」を起点にすることが非常に効果的です。

サプライヤー目線で知るべき“バイヤーの本音”

私が工場長・調達主任を経験して痛感したのは、「安ければいい」「言われたものを出せばいい」という考え方はもはや通用しない時代になったということです。

– 歩留まり悪化や不良クレーム発生時の現場対応力
– マスカスタマイゼーション(特注色・質感)の柔軟性
– 技術資料・試験データの適時提供

これらを重んじるバイヤーが増えています。

特に「釉薬上定着構造」への知見・ノウハウをどれだけ共有できるかが、今後の取引深化のカギです。

新たな地平線― DX時代の“インク定着構造”見える化と未来志向

スクリーン印刷は成熟した技術ですが、IoT・AI・DXの時代に入り「定着構造そのものをデジタルツインとして管理できる」未来も見えてきました。

例えば表面粗さ・エネルギー・インク粘度・乾燥条件をリアルタイムで測定。

AI解析により不良発生予知し、レシピを自動調整する“スマート工場化”は既に進行中です。

人の勘・経験があってこその日本の強みを、データ化・形式知化し、“昭和”から次の次元へ押し上げる――。

サプライヤー、バイヤー、現場技術者が「定着構造の科学」を共通言語に持ち、協働することが、これからの陶器タイル製造現場の課題解決とイノベーションにつながります。

まとめ ― 現場目線からのスクリーン印刷インク定着最適化ロードマップ

陶器タイル上のスクリーン印刷におけるインク定着構造は、表面的にはシンプルですが、実は非常に多層的な物理・化学・機械的要因が絡み合っています。

インクの物性管理と釉薬面性状のマッチング最適化。

三層構造モデルによる原因追及。

そしてバイヤー・サプライヤー・現場が一体となった協業体制の構築。

この“深化”の先に、高品質・安定生産・競争優位の道が拓けます。

ベテランの肌感覚と最新デジタル技術を融合させ、ぜひ現場改革の一歩を踏み出してください。

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