投稿日:2025年7月10日

構造設計で難燃性を高める難燃材料とブリードアウト対策

はじめに:難燃性の重要性と業界トレンド

製造業において、製品の安全性向上は長年の課題です。
とくに電気製品や自動車、住宅設備では、火災リスク回避のため「難燃性」の確保が不可欠になっています。
法規制や国際規格の厳格化、市場ニーズの変化により、設計現場では昔以上に難燃材料の使い方が問われています。

一方で、多くの現場では未だ昭和的な「経験則」や「勘」に頼った材料選定や設計が根強く残っています。
調達担当者や設計者、さらには品質管理や現場オペレーターまで、実践的なノウハウの共有によって新たな可能性が生まれると信じています。

本記事では、工場長として積み上げた知見・現場で本当に役立つポイントを交えつつ、構造設計で難燃性を高める材料選定、さらには多くの現場で見過ごされがちなブリードアウト対策まで、実践的に解説します。

構造設計における難燃性の基本とその意義

難燃材料の基礎:なぜ難燃性が必要なのか

難燃性とは、材料が火にさらされた際の燃え広がりや発煙、毒性ガス発生を防ぐ能力を示します。
その重要性は、火災対策の観点だけでなく、消費者の安全・安心への信頼・実効性にも直結します。

難燃材料の使用は、組立コスト・生産効率・調達リードタイムにも強く影響します。
積層基板、自動車内装部品、モーターハウジングなど、さまざまな分野で難燃グレードの材料が指定されるのは、決してコストアップだけで終わらない理由があるのです。

法規制・業界動向:現代に求められる基準

UL規格(UL94やUL746C)、IEC規格など、国内外で多岐にわたる難燃性規格が存在します。
これらは以前の「良ければいい」主義から、「どの箇所で、どの程度の難燃性が必要か」を明確に求める時代に移行しています。

2020年代以降は、サステナビリティ志向も高まり、再生プラスチックやバイオマス材料で難燃性を確保するといった新潮流も見られます。
サプライヤーやバイヤーの間では、「調達の多様化」と「標準化の徹底」が同時に求められています。

現場目線で考える材料選定のポイント

難燃材料の種類と特徴

難燃剤が添加された熱可塑性樹脂(難燃PC、難燃PBT、難燃PAなど)や、ガラス繊維強化樹脂、シリコーン系材料、セラミック、金属複合材料など多種多様な材料が存在します。
それぞれの特徴を現場レベルで見ると、次のような違いが見られます。

熱可塑性樹脂(難燃グレード):UL94V-0取得グレードが多く、成形性・二次加工性が高いため内製部品や量産品に採用されます。
ガラス繊維強化樹脂:機械的強度と難燃性を同時に確保したい場合にメリットがあります。
シリコーン・セラミック系:高温環境や絶縁性を必要とする特殊用途で使われます。
難燃金属複合材:EV(電気自動車)用途や高耐久部品で活用が進んでいます。

選定時の落とし穴と設計課題

現場では「規格を満たす材料を使えば良い」と考えがちですが、実際には次のような課題が生じやすいのも事実です。

1. 供給安定性・コスト増加
高性能の難燃材料は価格が高く、調達先の絞り込みや単一化にリスクが潜んでいます。
サプライヤーの多角化と、長期的な安定供給体制づくりが必要です。

2. 加工時のトラブル
難燃剤の種類によっては成形時にブリード(離型剤や難燃剤の表面移行)が起こりやすく、塗装や接着、印刷などの後工程で不具合が出る場合があります。
事前の試作検証・ブリードアウトの把握が大切です。

3. リサイクル性・環境対応
多くの難燃剤はリサイクル特性を阻害しやすく、環境面の新たな規制対応も始まっています。
特に海外輸出案件では、RoHSやREACHにも着目が必要です。

設計段階から考える「ブリードアウト」対策

現場で多発する「ブリードアウト」トラブルの実態

難燃性樹脂や添加剤を多用する現場では、部品表面に難燃剤や可塑剤、離型剤が「にじみ出て」くるブリードアウトが頻発します。
これによって起こりうるトラブルは下記の通りです。

– 塗装不良(はじき、ムラ)
– ラベルやシールの密着不良
– 印刷品位の低下
– 白化や粉吹きによる外観不良
– 接着強度の低下・剥がれ

昭和的な現場では「いい材料を使っているのに何故だ?」と原因究明が遅くなりがちですが、実際には構造設計段階で予防できるポイントが多く存在します。

構造設計時のブリードアウト対策ポイント

1. 部品設計の見直し
ブリードアウトしやすい部分(リブやボス、薄肉部、厚肉集中部)は、成形後の材料移動による析出が激しくなりがちです。
肉厚方向や抜き勾配、ゲート位置の工夫で析出リスクを抑える設計が有効です。

2. 表面処理・二次加工工程の最適化
塗装や印刷、シール貼付前に「溶剤脱脂」や「プライマー処理」を加えることで、ブリードアウトした添加剤を除去できます。
また、UV照射や再加熱・脱揮処理など、工程追加による効果も大きいです。

3. 材料選定・サプライヤーとの連携強化
難燃性グレードの中でも、ブリードアウト性が低い材料(例:高分子架橋型難燃剤添加樹脂や、低可塑剤配合グレード)に切り替える姿勢が大切です。
カタログスペックだけでなく、サプライヤー技術者と現場実験を繰り返すことが、実効的な対策につながります。

4. 熱マネジメント設計
製品使用時や保管環境で高温にさらされやすい場合、温度分布や放熱設計もブリードアウト対策では見過ごせません。
通気性の確保、配線・基板配置の工夫も重要な要素となります。

バイヤーとサプライヤーがつながる「知恵」の共有戦略

仕入れ担当者目線の攻める難燃材料選定

単に「安全な材料を仕入れる」に留まらず、サプライヤーと一体となってブリードアウト性や環境性能、トレーサビリティの高度化まで踏み込むことが、これからのバイヤーに求められる資質です。

調達購買の現場では、「価格交渉」や「安定供給」だけでなく、サプライヤー技術部門とのコミュニケーション強化が差別化ポイントになります。
十分なブリードアウト試験データを求める、環境・難燃対応のマルチサプライヤーネットワークを自社で設計するなど、自ら動けば現場力が大きく向上します。

サプライヤーから現場への「価値提案」のすすめ

一方、サプライヤーにとっては「ブリードアウト性の低減」や「環境負荷最小化」といった新たな価値提案が差別化の武器となります。
単なる商材提案から一歩進み、難燃剤分散技術や混練制御、データベースの提供など、パートナー企業として共創する姿勢がバイヤーからも支持されつつあります。

また、現場の失敗事例(塗装不良、組立工程トラブル)を共有し、双方で根本原因分析を行うことで信頼関係も強化されます。

まとめ:難燃材料・ブリードアウト対策の未来を切り拓くために

構造設計の段階で難燃性材料・ブリードアウト対策を徹底することは、これからの製造業にとって生命線です。
単に「規格対応」の枠に収まらない、「現場起点」の知恵とイノベーションが求められる時代になりました。

昭和から続く「経験則」や「前例主義」だけでなく、現場・調達・設計・サプライチェーン全体がつながり、新たな価値提案が生まれる現場づくりを目指しましょう。
難燃性能向上とブリードアウト対策、この両輪で次世代のモノづくりを推進することが、日本の製造現場の競争力強化につながるはずです。

現場で働く皆さんや、これからのバイヤー志望者、またサプライヤーの立ち位置でバイヤーの意図を読み解きたい方々の一助になれば幸いです。

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