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「見た目より中身」とする姿勢がデザイン競争に遅れる問題

目次
はじめに:「見た目より中身」主義の光と影
製造業の現場では長年、「見た目より中身」という信念が根強く支持されてきました。
製品の本質はその性能、耐久性、品質である。
見た目が多少悪くても優れた機能や精度があれば顧客は理解してくれる——そんな確信に近い価値観が現場に根付いています。
特に昭和の時代から、日本のモノづくりは「まじめ」「堅実」「ストイック」といった姿勢で、数多くの優れた製品を世界に送り出してきました。
しかし、グローバル市場がボーダレスに広がる現代、ユーザーの価値観は大きく変わりました。
デザイン性、ユーザーインターフェース、ブランドイメージ——こうした“見た目”への感度が、ビジネスの成否を大きく左右する時代となったのです。
今回は、長年の「中身重視主義」の中で培われてきた強みと、その反面としての課題、そして今まさに直面している“デザイン競争”への乗り遅れ問題について、現場目線で掘り下げていきます。
なぜ「見た目より中身」主義が生まれたのか?
高度経済成長とスペック至上主義
日本の製造業は戦後、高度経済成長の波に乗って急速に発展してきました。
多くの産業現場は数量・納期・スペック重視で活動してきました。
「一に性能、二に耐久性、三にコスト削減」。
これがきわめて実践的な目標だったからです。
見た目を整えるために時間やコストをかけるより、より高性能・高信頼性の製品を作り、少しでも多く出荷する。
これが顧客満足や企業の成長につながりました。
もちろんデザインの重要性を認識していた分野もありましたが、多くのBtoB向け製造業では、「顧客は仕様書と実績を見て判断する」という意識が強くありました。
アナログ業界ならではの価値観
製造現場は今も人の経験や勘が生きるアナログ的な世界も少なくありません。
現場や工場、生産ラインなど技術者の「腕」が評価される世界では、“見た目”はオマケ、実力で勝負という価値観も根強いです。
業界全体に走る「質実剛健」という空気は時に美徳として語られます。
しかし、それが裏目に出て「見た目やブランディングにコストをかける=無駄・本質的でない」という考えが、デザイン思考やユーザー体験志向を遠ざけてきた一因でもあります。
デザイン競争に遅れた現場のリアル
なぜ見た目に踏み出せなかったか
実際の現場には、「見た目を良くするコストが捻出できない」「デザインの相談ができる社内人材・外部ネットワークがない」「機能要件とデザイン要件の両立は難しい」という悩みが根深く存在します。
特に中小メーカーやBtoB企業では、営業・開発・生産管理全員が多忙で、デザインプロジェクトを立ち上げる余裕はなかなかありません。
「どうせ代理店やエンジニアしか見ない製品だし…」
「現場は使いやすさが第一で、見た目は二の次」
「取引先も、見積の金額と納期しか見ていないはずだ」
実際に各部署がこうした意識を共有し「見た目より中身」を選択してきたことは、業界特有の文化とも言えます。
気づいたら、競合他社が“見た目”で差を付けていた
しかし2010年代以降、ユーザーの目線は大きく様変わりしています。
BtoB市場でも展示会やホームページ、動画、営業資料で第一印象が重視されるようになり、競合メーカーが意匠登録やデザイン賞を獲得する例が増えています。
「中身は大差ないが、なぜかそちらの方がよく売れている」
「海外メーカーは色使いや形でパッと見たときの印象が良い」
「購買担当が“見た目”で最初から選択肢に入れてくれない」
現場からもこうした声が聞こえるようになったのは、ごく最近のことです。
特に若手バイヤーや多様な文化を持つ海外顧客ほど、「デザイン性」「分かりやすさ」「ブランドストーリー」を重視します。
現場からの実践提案:今こそ“中身+見た目”の突破力
本質的な価値+デザイン価値の両立を目指そう
現場目線から言えば、「見た目だけ良くても肝心の機能や品質が伴わないのでは意味がない」という自負は当然です。
しかし、今や“デザイン”もまた重要な競争力。
顧客が初めて製品に触れたときに「分かりやすい」「使いやすそう」「誠実そう」と感じてもらうことそのものが、値段や納期以上に選定理由となる場面が出てきました。
“中身重視”から脱却する必要はありません。
むしろ、中身を徹底的に磨き上げ続けながら、その良さを100%伝えきる見た目やストーリー作りをセットで仕組み化することが、今後の生き残り戦略です。
具体的な現場改善のポイント
1. 社内外デザイナーとの連携強化
社内だけに閉じず、外部のデザイナーやブランディング専門家と積極的に協働する姿勢が大切です。
現場目線の「使いやすさ」や「耐久性」へのこだわりを、デザインの言語で表現できるよう意識しましょう。
2. 展示会・プレゼン資料の“見た目”改革
実際に製品を見せる、資料を配る、Webで露出する――こうした場にこそ、現場主導の工夫を凝らすきっかけがあります。
図や写真、インフォグラフィック、成功事例など、少しの“見せ方”向上で商談確度が大きく変わります。
3. バイヤー・仕入先とのコミュニケーション変革
サプライヤーの立場からも「御社のこだわりは素晴らしいが、もう少し見た目や使い勝手が工夫できたら更なる競争力につながる」など、フランクな提案が歓迎される機会も増えています。
調達部門も「本質を犠牲にせず、デザイン性や情報発信も評価基準に入れたい」という方向性に動き始めています。
この流れを現場主導で牽引しましょう。
アナログな現場からの“デザイン再発見”のすすめ
中には「デザインなんて…」とためらう技術者や現場責任者も多いでしょう。
しかし、現場で試行錯誤し、最後の1ミリまで精度を追い込む職人技や作業工夫そのものも、立派なデザイン要素なのです。
たとえば配線の取り回しや作業性、耐久性にこだわった外観構造、メンテナンス性のわかりやすい表示やタグの工夫など。
こうした一つひとつが、実は“現場デザイン”として十分に訴求力のある価値になります。
また、新人教育やOJTで先輩社員が「なぜこの手順にしているのか」「見えない箇所にも手を抜かない理由」などを伝えることも現場の“デザインストーリー化”と言えます。
今まさに求められているのは、「デザイン部門」だけが担う仕事としてではなく、現場のモノづくり文化全体を“伝わる・魅せる・誇れる”ものにアップグレードしていくことです。
まとめ:見た目と中身、両輪で未来を切り拓こう
製造業における「見た目より中身」という価値観は、これまで数多くの信頼と実績を築いてきた誇るべき文化です。
しかし、時代とともにユーザーの可視的な価値への要求や、体験重視の潮流が高まっています。
中身を追求する熱量に「見た目で伝える力」をプラスする――この両輪が揃ってこそ、これからの製造業は新たな地平線を切り拓けるはずです。
現場で培ったノウハウや誇りを、もっと魅力的に“見せて”みませんか。
その一歩が、デザイン競争を制する大きな武器になるでしょう。
業界をリードしていくのは、今まで通りコツコツと実直に生産現場を支えてきた皆さん自身です。
一緒に、昭和の良さを活かしつつ新しい時代へと進みましょう。
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