投稿日:2025年10月19日

紙パックの形が崩れない成形温度と冷却風量のバランス設計

はじめに:現場発の「紙パック成形」品質向上の要点とは

日本の製造業が国際競争力を保持し続けるためには、伝統的な工程をただ守るのではなく、実際の現場から変革のヒントを探し、多面的な視点で工程設計を見直すことが不可欠です。
今回は多くの現場で課題となっている「紙パック」の成形品質にフォーカスします。
特に、パック形状の崩れ――これは物流・棚積み中でもクレームの発生源となりやすい重要なテーマです。
その根本要因である「成形温度」と「冷却風量」のバランスに焦点を当てて深掘りします。

紙パック成形の基本メカニズムと直面する課題

なぜ紙パックの形が崩れるのか

紙パックは、食品・飲料用途で不可欠な包装資材です。
成形時に重要なのは、板紙に対するコーティング材(たとえばPE樹脂)を加熱・軟化させ、所定の形状に押し広げてから冷却し、形状を固定する一連のプロセスです。

品質トラブルの多くは、加熱工程の温度ムラや時間調整の不備、もしくは冷却工法の適正設計不足に起因し、最終的に「パッケージ形状の維持力低下」として現れます。

現場の肌感覚:「温度も風も上げればいい」は大間違い

昭和型の現場では、「ヒーターの温度を上げれば柔らかく成形しやすい」、「冷却ファンの風を強く当てれば早く固まる」と短絡的に考えがちです。
実際には温度や風量の一方向的な上げ下げで全てが解決するものではありません。
現場経験に基づく観察眼と、データロガーなどのデジタル計測が有機的に連動して初めて最適条件が見えてきます。

理論でみる成形温度と冷却風量のバランス

成形温度の設計ポイント

成形温度は、単に「融かす」ことだけが目的ではありません。
板紙とコーティング材料の熱膨張率や柔軟性、さらに樹脂の酸化、変色防止も考慮しなければなりません。
たとえばPE樹脂の場合、概ね120〜150℃が目安とされますが、ライン速度や紙厚、ヒートプレートの配置によって最適温度は微妙に変化します。

また、多層ラミネートの場合は、それぞれの層が狙い通りに密着しなかったり、層間浮きが起きたり、細かな不具合が温度設計のわずかなブレで顕在化します。

冷却風量の設計ポイント

冷却風量は、単に「早く固める」道具ではありません。
一気に温度を下げると樹脂の収縮が大きくなり、シワや歪み、さらには内部応力による後工程での形状崩れが生じやすくなります。

最適な冷却は、「表面から内側へ、徐々に固化を進める」ことです。
一例として、冷却装置の風量を段階的に変化させる(多段化)工夫や、必要最低限の風速で徐冷させるプロセス制御が注目されています。

現場で失敗しないための“調整作業”のポイント

データ+肌感覚=最強のバランス設計

試作現場では「温度ロガー」や「非接触温度計」を活用し、紙面・樹脂面の表裏温度をログ収集します。
さらに、出来上がったサンプル品を現場作業員が手で触れたり、曲げたりするリアルな感覚を重視します。
この「データ」と「感覚値」が合致したとき、現場で腹落ちする最適プロセスが生まれます。

ライン停止を恐れず、“段取り替え”を柔軟に

昭和スタイルの現場では、「一度定めた設定値は動かさない」「生産中に段取り替えは御法度」といった暗黙のルールが根強く残っています。
しかし、小さな不良品を大量に流し続ける非効率より、短時間でラインを止めて“温度/風量/冷却時間”を再設定し、最適解を探る方がはるかに生産的です。
この意識変革は、管理職や現場リーダーこそが率先して示すべきポイントです。

事例紹介:量産現場での失敗と成功

風を強めて形状崩れが悪化した失敗事例

ある飲料用紙パック工場では、不良率低減のため冷却ファンを従来の2倍以上強化しました。
初期段階では、成形部の冷却時間が短縮され、効率アップを現場全員が歓迎しました。
しかし、しばらくして物流時の「潰れ」「型崩れ」クレームが多発。
調査の結果、冷却速度が速すぎて内部応力の開放が追いつかず、パッケージの強度自体が低下してしまったことが分かりました。

段階冷却+温度プロファイル最適化への挑戦

別の工場では、成形直後は高温のまま短時間予冷させ、その後、数段階に分けて風量を制御して冷却する工夫を導入しました。
さらに、ヒートプレートエリアも間接加熱式に変更し、表面・内部の温度バランスを制御。
試作結果から最適プロファイルを確立、崩れ・潰れクレーム率を90%以上改善しました。

現状維持バイアスを打破するためのヒント

現場主導による小さな“仮説検証”を積み重ねる

アナログが色濃い現場では、つい古い手順や成功体験を繰り返しがちですが、そこに工場横断型・部門間での情報共有と連携体制作りが必要です。
「昨日の常識が今日の非常識になりうる」。
その意識をチーム全体で言語化し、積極的に仮説・改善・再確認を回す風土づくりが第一歩です。

“現場の声”と“管理者の視点”の融合

管理職やバイヤー、サプライヤーは、単なるコスト競争力だけでなく“現場ニーズ”や作業者の感覚を理解し、多角的な品質管理体制を構築することが求められます。
現場をよく知る人が集まり、自らの失敗事例から学び、サプライヤーとの技術的協業を積極的に仕掛けてください。

まとめ:工場現場発、セオリー×経験知の最適バランス設計をめざして

紙パックの成形品質を高めるためには、単に温度や風量を「高く・強く」だけでは解決しません。
理論に裏打ちされた基準値+現場従事者の感覚値、この両者のバランスが重要です。
また、現場主導によるトライアルや現状維持への“疑問の目”が不可欠です。
バイヤー、現場作業員、サプライヤーが互いにコミュニケーションを密にとり、属人的な“勘”と、データドリブンな“確信”を統合していけば、紙パックに限らず、すべてのモノづくりにおいて“形が崩れない現場力”が備わるはずです。
現場一体となった最適設計を、今日から実践してみましょう。

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