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プラスチックにおける破面解析と破損不具合防止策

目次
はじめに:プラスチック破面解析の重要性
プラスチック製品は、軽量性、成形のしやすさ、コストメリットなど多くの利点があります。
そのため、自動車や家電、電子部品、医療機器など、幅広い分野で活用されています。
しかし、塑性(プラスチック)は金属やセラミックスと比べて衝撃に弱く、使用環境や設計の不手際、成形条件の不備などで思わぬ破損トラブルが発生することも少なくありません。
現場で「樹脂部品が割れた」「知らない間にクラックが入っていた」といった報告が上がるたび、設計・調達・品質・製造部門は原因調査と再発防止策を急ピッチで進めます。
そこで重視されるのが「破面解析」と呼ばれる技術です。
この記事では、製造現場ならではの視点と、30年以上の現場経験で得たノウハウを交え、プラスチックの破面解析と破損不具合防止のための具体的な対策ついて詳しく解説します。
プラスチックの破損に関する基礎知識
プラスチック破損の主な種類
プラスチック部品の破損の代表的なパターンとして、下記の3つが挙げられます。
- 外力による瞬間的な破断(脆性破壊・延性破壊)
- 使用環境や応力の蓄積による疲労破壊・クラック(応力腐食割れなど)
- 経年劣化や化学薬品、紫外線などによる材料劣化
樹脂材料は種類によっても脆性・延性のバランスや、耐薬品・耐候性が大きく異なります。
また金属同様、外部からの一点集中応力、繰り返しの負荷、部品の形状・肉厚なども破損の要因に直結します。
破損トラブルの頻出現場シーン
製造現場ではよく、部品納入後の組立ラインで「欠け」や「割れ」として不具合が発見されます。
出荷時には問題がなかった筈が、実際の組立工程や物流・使用環境下で破損してしまうケースもあります。
実際にあった現場事例としては、
- 製品ネジ締め工程でトルク管理不足による割れ
- 搬送用治具との干渉や振動によるマイクロクラック発生
- 寒暖差や薬品曝露により応力腐食割れが進行
などが見受けられます。
このような現象には、DSC(示差走査熱量計)やSEM(走査型電子顕微鏡)による破面解析が有効です。
破面解析の現場的ノウハウ
破面観察のポイントとプロセス
プラスチックの破面解析は、まず「どこが割れたか」だけでなく、「どう割れたか」にフォーカスします。
典型的な現場フローとしては、
1. 破損した現品を可能な限り早期に確保
2. 洗浄やクリーニングは最小限に留め、原状維持
3. 破面部分をルーペや実体顕微鏡で目視観察し、特徴パターンを識別
4. 必要に応じてSEM観察や樹脂組成の分析(FT-IR等)も活用
5. 他部位や良品サンプルとの比較観察
となります。
特に重要なのは「破断の起点」と「進展方向」の特定です。
これにより、組立や物流で力が加わったのか、それとも材料自体の内部欠陥や従来からのストレス蓄積なのか、推察の精度が高まります。
破面形状から分かること
現場で多く見られる破面パターンを抜粋します。
- ガラスのような滑らかな面:脆性破壊(外力の一点集中、低温時によく発生)
- 繊維状に伸びた引き裂き:延性破壊(高分子鎖の延伸後破断、過負荷や高温で多い)
- 階段状やストライエーション:疲労破壊(応力集中と繰り返し負荷の蓄積)
- 破面上に発白や変色:応力腐食や加水分解、熱劣化の進行
このような特徴を掴み「なぜここで・このように破断したか」を現場メンバーと対話しつつ「現実的で実践的な対策」へと結びつけていくことが大切です。
昭和時代から続く観察とヒヤリング文化
いまだに「熟練の目利き」「手触り」で判断せざるを得ない場面も多々あります。
画像解析やAI活用の波が押し寄せる昨今ですが、実際には昭和から変わらぬ「現物確認」と「現場作業者の聞き取り」が、不具合再発防止の最大のヒントになることも稀ではありません。
破損不具合の未然防止策
設計段階での未然防止
プラスチック製品の多くは、CAD設計段階である程度の破損リスクを低減できます。
以下が代表的な対策です。
- 肉厚の均一化:急激な肉厚変更部でひび割れが集中しやすい
- リブやボスへの押し出し設計:鋭角的な「コーナー」は応力集中の元凶
- アンダーカットの最小化:離型時の物理的ストレスを減らす
- 樹脂選定時の物性・耐久性の事前評価:卓上試験や成形サンプル比べ
特に購買・調達担当が複数のサプライヤーと付き合う場合、同じ「ABS樹脂」「PBT樹脂」でも各社ごとに添加剤やグレード、耐候性が異なる場合があるため、単なる「材質表記」だけに頼らない慎重な評価が肝要です。
成形・製造での品質管理
成形条件(温度、圧力、冷却速度など)の微妙なズレが、内部応力や残留ガス、不均一な結晶化を生み、破損リスクを上げます。
現場のベテラン技術者が「今日は成形品の艶が良くない」「抜けが悪い」といった感覚を持った際、それが破損・クラック等深刻なトラブルの前兆であることもあります。
朝一や新規段取りの「成形立ち上げ管理」を徹底し、その日の作業指示・条件記録をデジタル化すれば、後からのトレーサビリティ強化にも繋がります。
物流・保管・現場作業の盲点
完成したプラスチック部品は、物流工程や保管環境でも破損リスクにさらされます。
典型的な不具合要因は、
- 箱詰めやパレット積み時の重量集中による圧力破壊
- 凍結・高温多湿・直射日光による劣化や変色
- 現場作業時の治具や工具接触による打痕・マイクロクラック
現場目線で改善するには、「当たり前」工程の見直しこそ重要です。
例えば「梱包材にクッション材を追加」「物流マニュアルに保管温度・湿度の規定明記」といった、小規模かつ即効性のあるアプローチでも大きな効果を生みます。
バイヤー・サプライヤー目線での現場共創
調達購買部門、またはサプライヤーの技術担当として重要なのは、「なぜ不具合が起きたか」という犯人探しよりも、「どうすれば再発を防げるか」という協働姿勢です。
現場での破損原因追求に、部門や企業の壁を乗り越えて取り組むことで、以下のメリットが得られます。
- 現場に根ざしたリアルな知見や矛盾点を洗い出せる
- 納入・工程内での破損リスクを両者で共有し、現実的な品質仕様に落とし込める
- 「不良品ゼロ」という理想ではなく、「再発確率をどこまで下げられるか」という実務的な品質目標設定ができる
サプライヤーの立場では「バイヤーはどこまで現場での技術的リスクまで踏み込んで議論したいのか」を事前に把握しておくと、円滑なコミュニケーションと信頼構築の第一歩となります。
アナログ業界でもできるデジタル活用
多くの製造会社では、「破損事例のデータ蓄積」や「画像解析による自動分類」「成形条件管理のIoT化」をしたくても、リソースや現場のITリテラシーが追いつかない場合があります。
アナログ色の強い現場では、まず「ベスト事例」「ワースト事例」の破面写真をナレッジ共有サイトやイントラに集積するところから始めてはいかがでしょうか。
また、簡易的な成形条件ログのエクセル化、成形後の製品重量自動測定といったローコストなデジタル投資でも、現場DXの第一歩を踏み出すことが可能です。
まとめ:脱・昭和の現場改革と学びの継承
プラスチック部品の破面解析は、単なる「不具合原因の突き止め」ではなく、設計・製造・物流・購買・サプライヤーの全員が現場での「気付き」と「対話」を重ねることで、再発防止・品質向上に結び付きます。
破面解析から得た知見を幅広く共有し、従来の常識や慣習に疑問を投げかけることで、新たな気付きや改革の原動力を生み出せます。
今こそ目の前の「破断」現象を単なるトラブル視で終わらせず、「脱・昭和」のヒントとして活かしていきましょう。
プラスチック破面解析を通じて、日本の製造業現場にさらなるイノベーションをもたらすことが、我々ものづくり人材の使命と言えるのではないでしょうか。
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