投稿日:2025年6月16日

プラスチックにおける破面解析と破損不具合防止策

プラスチックにおける破面解析と破損不具合防止策

はじめに:プラスチック製品の信頼性向上へ

日本の製造業では、金属に比べて加工が容易かつ軽量なプラスチックの採用が広く進んでいます。

しかし、プラスチック製品における製品破損や不具合発生は、決して珍しいことではありません。

それらの多くは製造工程や使用環境、あるいは設計段階に起因する複数の要素が絡み合って発生します。

破損が発生した際、現場で「とにかく交換対応」「再発防止会議の何度目か…」という状況に直面した経験は、多くの方にとって身近なものではないでしょうか。

製造現場の目線で、昭和時代から抜け出せないアナログな慣習や、“何となく”の感覚に頼るのではなく、科学的な破面解析に基づいた根本原因の追求と、不具合防止策を徹底的に解説します。

バイヤーや品質保証、生産技術、サプライヤーまで広く参考になる内容です。

破面解析とは何か? プラスチック特有の知見

破面解析の基本的な考え方

破面解析とは、壊れた製品や部品の「破断面(壊れた面)」を観察・分析することで、どのようなメカニズムで破損が起きたのかを科学的に読み解く手法です。

元々は金属疲労の分野で発展した技術ですが、近年プラスチック部品の増加とともに、樹脂材料独自の挙動に配慮した解析手法が求められています。

プラスチックの破面には、応力集中やクラック伝播、環境ストレス破壊等、その材質特有の「語りかけ」が隠されています。

この破面を読解する力が現場担当者に根付いているか否かで、不具合対応速度・根本対策・再発防止率は大きく変わります。

金属との決定的な違いを押さえよう

金属は結晶構造を持つ一方で、プラスチックは高分子構造です。

金属破面は明瞭な疲労模様、き裂進展痕などが特徴ですが、プラスチックの場合は亀裂進行と同時に塑性変形が混在しやすく、複雑な破断パターンが現れます。

また、プラスチックは「応力割れ」「溶剤クラック」「熱劣化破壊」など、使用環境や添加剤、成形条件に強く影響されやすいため、解析の視点が多岐に渡ります。

現場で実践できる破面観察・解析ポイント

まず状況把握! 再現性ある情報収集

破損品が発生した場合、最も大切なのは「壊れ方」「使用状況」「その前後の作業内容」を正確かつ定量的に記録することです。

実際の現場では「昨日まで大丈夫だった」「何となく割れている」と、定性的な証言に頼りがちですが、各部門間での再現実験や、サプライヤーとの協議の場で“具体的なデータ”が重みを増します。

例えば下記の観点で整理しましょう。

– 破損が起こった時間帯・使用時間・ロット情報
– 破面の外観(色の変化、曇り、光沢、筋模様、ヤケ)
– 他製品や似た箇所での発生有無
– 製造履歴(成形条件、温度履歴、ゲート位置、材料ロット)
– 使用環境(温湿度、薬品、応力の有無)

現場が慣れてくると「またこのパターンだな」と先入観が生まれがちですが、必ず毎回丁寧な現物観察を心がけましょう。

破面の観察ポイントとプロの着眼点

破面観察では肉眼・ルーペに始まり、拡大鏡、顕微鏡(光学・電子)が活躍します。

着目すべき主なポイントは下記です。

– クラックの起点(エッジ・R部・傷・異物など)
– 破面の光沢:ツヤが強い場合は脆性破壊、曇っていれば延性破壊の可能性
– 破断面が平滑か粗いか、一気に割れたのか時間をかけたのか
– 波模様や階段状の痕跡(応力集中、断続的な荷重変動の痕)
– 白化・黄変・黒ずみ:薬品、熱、紫外線、摩耗等との関連性

さらに、マイクロスコープや電子顕微鏡(SEM)を使えばミクロン単位での微細構造や、フィブリル状の分子引き延ばし痕も観察できます。

現場の多くはここまでの解析設備が無いですが、「見える範囲でどこまで全体像を仮説立てできるか」が優れた技術者の第一歩です。

よくあるプラスチック破損パターンと原因

成形条件起因の不具合

成形時の温度、圧力、冷却速度、成形サイクル変化が味方にも敵にもなります。

例えば、

– 急冷による内部残留応力の蓄積
– 溶融不足によるウエルドラインやボイド
– 過剰な加熱での重合度低下や熱劣化

いずれも、外観は大きく変化しないが、特定方向の応力や外乱で突如破壊に繋がるケースが多いです。

使用環境・ストレスクラック(ESC)

プラスチックは、繰返し荷重や歪み、さらにアルコール・グリース・洗浄剤といった外来物質が加わることで応力割れ(エンバイロメンタル・ストレスクラック≒ESC)が発生します。

これは一見“耐薬品グレード”のようでも、分子鎖が外部ストレスによって弱体化し、内部から亀裂進行するため、現場では突発的に認識されがちです。

特にABSやポリカーボネートなどはESCに弱く、設計・使用環境の両面で配慮が必要です。

溶接・接合部からの破面進展

アッセンブリ品(溶着・接着)については、「異種材料の界面」「加熱不足/過度」「未硬化接着剤残り」「界面クラック」から破壊が始まりやすいです。

破面では、境界に沿った剥離形状や、界面材の溶融・未溶融が追跡ポイントとなります。

これらは、安易な工程短縮や経験則のみでラインを回すアナログ管理下で特に顕在化しやすいトラブルです。

材料・添加物・リサイクル材の影響

近年のコストダウン・SDGs対応の一環としてリサイクル材導入や、フィラー・難燃剤等の多用が進んでいます。

しかし、混練ムラや析出による脆性化、吸湿・分解による特性劣化が破断面からしばしば確認されます。

生産管理が材料ロットをトレーサビリティ管理できない現場では、材料起因のトラブルが長期化しやすいのが現実です。

破面解析のプロセスと現場導入のアプローチ

多部門連携の重要性

破面解析は品質保証部だけの仕事ではありません。

設計、生産技術、材料調達、現場オペレーターと情報共有し、「何故今ここで起きたのか?」を徹底的に多角的視点で紐解くことで、初めて根本原因が見えてきます。

現場では「サプライヤーが悪い」「設計が手を抜いた」という責任転嫁も起きがちですが、現物・工程・設計・材料の全てを“見える化”し、冷静にファクトファインディングする姿勢が大切です。

解析手法の選定と活用例

– 目視・ルーペ・拡大観察
– 光学顕微鏡:表面状態、微細亀裂の観察
– 電子顕微鏡(SEM):ミクロンレベルの破断面・異物同定
– FT-IR/ラマン分光:異物や材料組成判定
– DSC/TGA:熱劣化、添加剤分解状況把握
– 応力解析(CAE・FEM):設計段階での応力集中点確認
高度な設備が無い場合も、協力会社や外部ラボとの連携で一時的なアウトソーシングが有力です。

現場でできる破損不具合の防止策

設計段階からできる“壊れにくい形状”

– エッジを丸め、応力集中を避ける
– 肉厚バランスの調整
– 強度シミュレーションを導入し、実際の加重・環境を想定
– 必要に応じリブ補強やインサートナットを活用

設計と材料特性を“感覚”だけで決めるのではなく、数値根拠に基づいた設計文化の醸成が再発リスク低減の鍵です。

現場での製造条件管理・見える化

成形履歴(条件、ロット、温度、圧力等)をデジタル記録し、異常があった際の即時フィードバックを仕組み化しましょう。

現代では設備のIoT化、MES連携によるデータトラッキングも容易になっています。

昭和の手書き伝票や「申し送りノート」だけではなく、全現場情報の“デジタル可視化”が重要です。

材料・サプライヤーチェンジのリスク管理

サプライヤー変更時・材料ロット切り替え時は、物性値だけでなく、加工挙動・耐薬品性まで追試しましょう。

必ず小ロットでの事前テスト、製造現場での“使い勝手”・“初期不良”観察を実施し、リスク察知の早期PDCAを回すことが重要です。

ユーザーによる誤使用・外乱対策

使用説明書や組立指示への注意喚起ラベル、現場従業員への教育コンテンツも、破損事故防止に効果があります。

“思い込み”による組付け方向違い、強引な力の入れ方などは現場でよく起きます。

現場ヒアリングとIoTセンサー等を活用し、“現実の使われ方”を可視化する取り組みも有効です。

まとめ:破面解析で未来のものづくりを変える

プラスチック部品の破損解析は、頼りにならない勘や経験則だけでは真因に辿り着けません。

科学的根拠に基づく破面観察、現場から経営層まで一体での“情報見える化”、そして業界全体でのオープンな知恵の共有こそ、再発防止・信頼品質の礎です。

アナログな慣習が根強い製造業界においても、“新しい知識へのアップデート”と“現場からの挑戦”を恐れず、破面解析を通じて自らの現場力を高め、サプライヤー/バイヤー問わず競争力ある企業づくりを目指しませんか。

未来のものづくりを支えるのは、現場一人ひとりの小さな一歩と、変化を恐れず挑戦する姿勢です。

破面解析という武器を持ち、ともに新たな製造業の地平線を開拓しましょう。

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