投稿日:2025年6月27日

破断面から破損原因を見抜く破面解析と不具合対策の実践ノウハウ

はじめに 〜製造業を襲う“突発的な破損”というリスク〜

製造業の現場では、ある日突然、部品や製品が「割れた」「折れた」「壊れた」という連絡が届くことがあります。

とりわけ量産後の納品先から「突然壊れた」とクレームが上がると、調達購買やものづくりの担当者、品質管理の責任者は一気に緊張が走ります。

こうした突発的な破損のほとんどは「破断面」──すなわち割れた・折れた面に、その原因が残されています。

本記事では、20年以上にわたり現場管理と品質トラブル対応を担ってきた私の経験をもとに「破面解析」の基本から応用、不具合対策の実践ノウハウまでを解説します。

サプライヤー・バイヤー双方にとって知っておきたいポイントも盛り込んでいますので、ぜひご一読ください。

破面解析とは何か?現場でのリアルな意義

破断面にすべての“真実”が現れる

破面解析とは、部品・製品が破損した際の「破断面」(割れ目や割断面)を観察し、破損要因を突き止める工学的手法です。

金属、樹脂、セラミック、複合材など素材を問わず、破断のメカニズムは破断面に痕跡として残ります。

破面解析は専門家しかできないイメージを持たれがちですが、実際の現場対応に必要なのは観察眼、そして素材や工程に関する基礎知識です。

自社やサプライヤーの「なぜ壊れたのか?」に応えるために、誰もが知っておくべき重要な技術です。

昭和的“勘と経験”からの脱却が急務

かつての製造現場では「なんとなく原因がこれだろう」と勘や経験に頼った対応が主流でした。

しかし近年、グローバル化や品質保証要求の高まりによって、「エビデンスに基づく技術的説明」が強く求められています。

破面解析は不具合の真因を科学的に裏付けて説明し、再発防止・信頼回復の要となる技術です。

破断面(破面)から見抜く主な破損原因の“型”

典型的な破面パターン(事例と共に紹介)

製造現場でよく遭遇する破損事例は、大きく分けて以下の4つの型に分類されます。

– 脆性破壊(ブリトル)
– 延性破壊(ダクタイル)
– 疲労破壊
– 環境応力割れ(ESC)、腐食・応力腐食割れ(SCC)

実際の現場写真や手元観察レベルの特徴を、以下に具体的に説明します。

1. 脆性破壊(ブリトル破面)

金属や樹脂などが“カチッ”と一気に割れるパターンです。

破面は非常に平坦かつ光沢があり、貝殻模様(シェルパターン)が見られることが多いです。

急冷や、材料の欠陥(例:鋳巣、異物混入)、設計ミス(極端な薄肉・応力集中部位の存在)などが原因で発生します。

2. 延性破壊(ダクタイル破面)

金属材料がぐにゃっと塑性変形した上で破断した場合、破断面は繊維状または“ディンプル”(小さな凹み)が多数見られるのが特徴です。

この場合、想定外の荷重や衝撃によるオーバーロードが多く、溶接部や接着部では「不十分な強度設計」なども疑うべきポイントとなります。

3. 疲労破壊

繰り返し荷重がかかる中で小さな亀裂が成長し、やがてパチンと割れる形が「疲労破壊」です。

破断面には、進展の証である「ビーチマーク(波紋模様)」が現れ、その末端に脆性破面または延性破面が露出しています。

見落としがちな“微小な起点”が本質原因であることが多く、工程管理や設計時のピットフォールになりがちです。

4. 環境応力割れ・応力腐食割れ

使用環境下の薬品や水分、温度変化などが外部応力と組み合わさることで材料が割れる現象です。

特にプラスチック部品やメッキ部品、またSUS(ステンレス)でも起こり、破断面は独特の“ラジアル状模様”や“粒状組織”が見られる場合があります。

工程現場での油・薬品付着や、想定外の環境下(例:屋外設置品)への配慮も対策のポイントとなってきます。

破損原因究明のための“9つのチェックポイント”

破面解析を効率良く実施するには、現場で以下9項目を必ず実施・確認する習慣を身につけるのが肝要です。

1. 破損したタイミング・状況をヒアリング

いつ(納入時/使用中/組立中)、どんな環境・作業で壊れたのか、現場の証言を収集します。

2. 破断面の観察(肉眼・ルーペ・顕微鏡)

割れ方、艶、模様、方向性、色味の違いなどをじっくり観察し、前述のパターンを当てはめます。

3. 破断部の寸法・形状測定

割れた部位の厚さ、幅、応力集中の有無などをノギスやマイクロメーターで調べます。

4. 隣接部品や使用環境のチェック

その場限りの破損なのか、周辺に“初期変状”が見られないかも重要です。

5. 材料ロット&素材サンプルの追跡

同ロット品のほかサンプルも破壊試験を実施し、再現性・Lot不良の疑いを切り分けます。

6. 製造履歴および溯及調査

製造日時、担当者、工程異常、不良報告などを追跡し、現場変動の有無を探ります。

7. 使用条件・荷重条件の再検討

本当に想定通りの力・荷重が掛かっていたのか、現場作業手順・治具・機械設定も再確認します。

8. 設計図面との突合せ・設計上の問題点の抽出

厚み、幅、肉取り、応力集中点がないか、図面と現場を突き合わせます。

9. 類似品・過去事例との比較分析

自社過去のトラブルや業界事例データベースなどから参考事例を照合し、教訓を活かします。

現場ですぐ使える!不具合対策の実践ノウハウ

根本原因まで掘り下げる”なぜなぜ分析”のコツ

破断面からパターンだけで原因を決めつけず、なぜなぜを繰り返して真因にたどり着くことが必要です。

たとえば「脆性破面」=材料不良、と即断せず「なぜこの工程で脆くなった?」「なぜ応力集中した?」と複数視点で掘り下げます。

現場と設計、調達、品質保証の連携が不可欠です。

百聞は一見に如かず!現物・現場・現実主義を徹底

トラブル発生時は、まず破断品の写真・現物保管を“第一優先”にしてください。

その場で破片を廃棄・紛失したり、現場清掃で証拠品が消えてしまう――。こうしたミスで原因究明が困難になった事例は枚挙にいとまがありません。

初動での「現物保存」「現場写真記録」は、今や品質問題対応の鉄則です。

サプライヤー管理で大切にすべき視点

購買側・発注側のバイヤーは「価格」だけでなく、不具合時の“初動対応力と再発防止力”を重視する姿勢が問われます。

一方サプライヤーは「エビデンスに基づく原因説明」「現場主導の再発防止」を示せることが取引継続や信頼向上に直結します。

双方向での技術情報・調査ノウハウの共有は、アナログ中心の昭和的調達現場でも、今後ますます重要性を増すでしょう。

現実に即した「再発防止策」の具体策

破面解析と原因分析の結果から、現場で即実行可能な再発防止策(例:設計変更、工程追加、作業手順の再教育、品質検査の強化)に落としこみましょう。

QCストーリー(問題把握〜原因分析〜対策立案〜効果確認)をロジカルに展開することが、説得力ある報告・改善活動につながります。

アナログな“昭和”現場にも活きる、破面解析&ノウハウ共有文化のすすめ

職人技から、科学的解析へのパラダイムシフト

高度成長期からの製造現場は、長年にわたり「ベテラン職人の勘」が重視されてきました。

しかし現代では、技術伝承の断絶やグローバル標準への対応が大きな課題となっています。

破面解析を含めたノウハウのマニュアル化・標準化は、次世代育成・現場力の底上げに直結します。

見える化、議論の場の創出が“再発防止”を加速

破断面写真や解析結果を「見える化」してミーティングを行い、部門をまたいだ技術討論や全員参加の改善活動を推進しましょう。

こうした文化醸成が、ダイバーシティ化など現代的な組織課題の解決にも大いに寄与します。

バイヤーもサプライヤーも“真因”を共通言語に

不具合原因へのアプローチや再発防止の着眼点については、業界・会社を超えて共通化しやすい技術です。

バイヤー、サプライヤー、品質保証、現場すべてが「破面解析」という共通言語で議論できれば、品質リスクの低減・ものづくり基盤の強化が実現します。

まとめ 〜破面に刻まれた“技術の真実”を活かす〜

破断面は、物理的な割れ目を超えて「なぜものが壊れたのか」「設計・現場・調達のどこに課題があったのか」という技術の真実を雄弁に物語ります。

表面的なパターン認識だけにとどまらず、徹底した観察、ヒアリング、設計・現場との突合せによって真因を掘り下げることが、製造業における真の品質力となります。

そしてアナログ的な昭和カルチャーに新しい科学的な解析文化を融合させ、ベテランも若手も一丸となって「不具合ゼロ」「再発防止力最大化」をめざしましょう。

破面解析という“技術の目”を、ぜひ明日からの現場でご活用ください。

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