投稿日:2025年6月30日

破損原因調査事例で学ぶ破断面解析と長寿命化対策ハンドブック

破損原因調査事例で学ぶ破断面解析と長寿命化対策ハンドブック

はじめに

製造業の現場では、あらゆる部品や構造物が「壊れる」リスクと隣り合わせです。
現場でトラブルが発生した際、最も早く求められるのは“破損の原因解明”です。
破断面解析は、「なぜ壊れたのか」を科学的に紐解く強力な手段となり、「再発防止」や「長寿命化」の要諦となります。
本記事では、実際の破損事例を交えながら、現場目線・管理職目線で徹底的に破断面解析の活用法と長寿命化への道筋を解説します。

1. 破断面解析の基礎知識

破断面解析の役割とは

破断面解析とは、壊れた部品や製品の破断箇所断面を詳細に観察・分析し、破損原因やメカニズムを明らかにする調査法です。
金属、樹脂、セラミックスを問わず、機械的な疲労破壊、応力腐食割れ、脆性破壊など、多様な破損形態の解析に応用されます。
この手法が明らかにするのは単なる「現象」だけでなく、発生した「背景」や「プロセス」までさかのぼることができる点です。

なぜ今、破断面解析が見直されているのか

2020年代に入っても、製造現場におけるトラブル調査の現場は昭和的アナログ調査のままというケースが散見されます。
例えば、「壊れた」→「新しいものに交換」→「再発」→「サプライヤーへクレーム」という繰り返しが温存されています。
しかし、グローバル化やIoT化が進行する今日、高度な製品信頼性と、バイヤー・サプライヤー間の建設的なパートナーシップが不可欠です。
その時、根拠に基づく破断面解析の活用が、現代工場運営の新たな基準となりつつあります。

2. 典型的な破損モードと解析ポイント

疲労破壊

多くの機械部品が繰り返し荷重を受けることで発生する「疲労破壊」。
破断面には、貝殻模様やストライエーションと呼ばれる特異な模様が確認できます。
現場目線では、設計値を下回る荷重でも短期間で壊れるケースがあり、疲労破壊特有の兆候を見逃さないことが肝心です。

過負荷破断

異常操作や過剰な荷重が一気に加わった場合、破断面には「ギザギザ」「剪断帯」など不規則・粗大な模様が現れます。
この場合、設備運用や工程管理の見直し、異物噛みこみのチェックが再発防止に直結します。

腐食割れ

金属素材でしばしば問題となるのが、「応力腐食割れ」や「水素脆化」です。
破断面解析時に、粒界沿いのきらわれや脆弱な箇所が連続する特徴的なパターンから、化学的要因を特定できます。
工場の環境管理や、材料選定の根本的見直しが課題となります。

樹脂製品の事例

樹脂部品では「クレイズ」と「環境応力割れ」が代表例です。
「銀色の線状模様(クレイズ)」が破断部に現れたら、添加剤や溶剤、そして成形条件の異常も疑う必要があります。

3. 破断面解析の実際〜現場事例で学ぶ〜

事例1:ベアリングの早期破損

ある自動車部品工場。
ベアリングが使用数ヶ月で脱落、多数のクレームが発生しました。
SEM(走査型電子顕微鏡)による破断面観察を実施したところ、疲労破断特有の「ビーチマーク」となだらかな滑らかな断面が観察されました。
グリース管理状況、粉塵混入などの二次的要因も含めて再調査の結果、工場内粉塵濃度が規定値を上回っていたことが判明。
その後、清掃サイクル見直しとグリース再選定による設計変更で再発を防止できました。

事例2:ボルトの頭部破断

物流用搬送装置で“ねじの頭が飛ぶ”トラブルが発生。
破断面の観察と脆性破壊・延性破壊の識別により、応力集中によるクラック発生と、製品焼入れ時の焼き戻し温度の不適正が判明しました。
現場では「作業員の増し締め不足」との初期推定もありましたが、破断面解析によって“設計工程”が根本要因であると特定。
サプライヤーとの協議の元、仕様書変更・焼き戻し条件見直しを行いゼロ化に成功しました。

事例3:インジェクション成形樹脂の欠損

OA機器用樹脂カバー。
出荷前検査で「欠け」が断続的に発見されました。
マクロ・ミクロ双方の破断面解析にて、金型からの離型時の温度管理不備(冷却不足)が原因と特定できました。
成形条件と冷却時間を再設計し、歩留まり率が大幅に改善しました。

4. 破断面解析を支える技術とフロー

三種の神器〜装置を駆使する

破断面解析においては、肉眼観察から始まり、光学顕微鏡、さらにはSEM・EDSまで多段階の観察がカギとなります。
光学顕微鏡=一次スクリーニング
SEM(走査型電子顕微鏡)=ミクロ組織観察
EDS(エネルギー分散型X線分光分析)=異物や腐食組成特定
この三段階を押さえておくことで、現象・原因・プロセスの三位一体で対策が立案できます。

手順の詳細

1. 問題事象の整理(使用環境、発生条件、使用期間、材料仕様など)
2. 破断面観察(肉眼→顕微鏡→SEM→EDS)
3. 検証仮説の立案(「何故壊れたか」をMECE(漏れなくダブりなく)で整理)
4. 過去トラブルとの照合・サプライヤーへのヒアリング
5. 改善・長寿命化対策の立案、実装
ここに、IoTセンサー情報や実機の稼働データも組み合わせれば、再現性・信頼性がさらに高まります。

5. 長寿命化へのステップバイステップ

設計・材料選定の見直し

「現場で起きるトラブルは設計段階での想定不足から生まれる」——
各種破断面解析の蓄積データは、設計標準やFMEA(故障モード影響解析)へとフィードバックします。
たとえば、新材料の導入時には、事前に小規模の耐久試験・加速試験を繰り返し、破損パターンを事前把握し、素材選定の精度を上げることが肝心です。

工程管理・現場の標準化

再発防止策を会議室内だけで終わらせないためには、現場の作業品質を標準化し継続するオペレーター教育が欠かせません。
破断面写真付きの「不良事例集」や「KYT(危険予知トレーニング)」に組み込み、現場力強化を目指しましょう。

調達・購買のフローも刷新を

バイヤーや購買部門は、取引先(サプライヤー)との単価交渉だけでなく、技術的根拠に立脚した品質要求や監査を主導する時代です。
破断面解析データを指標に持つことで、「歩留まり保証」「品質保証協定」「成形・加工条件の適正化」が“感覚”から“科学的根拠”にシフトします。
下請けとなるサプライヤー側も、バイヤーの考え方や品質要求事項を正しく理解したうえで自社の改善活動を推進すれば、持続的成長が可能になります。

6. 昭和的アナログからの脱却とこれからの潮流

デジタル時代の破断面解析

AI画像認識やIoTの発展により、異常検知や状態監視の“自動フィードバック”が実用化されています。
破断面画像をAIでパターン認識し、類似トラブルとの一致度をリアルタイムで提示するシステムが今後加速すると予想されます。
これにより、現場力の個人差が縮小され属人化が薄れ、業界全体の技術底上げが進むでしょう。

現場と管理部門の連携の重要性

調達・生産管理・品質管理など、部門横断での情報共有・解析フロー確立が今後の工場運営の常識です。
現場発トラブル情報を的確に管理部門へ伝達し、解析データを速やかに生産や設計へフィードバックする体制が企業競争力を左右します。

まとめ:現場知と科学の融合が製造業を進化させる

破損原因調査の主役である破断面解析は、単なる「壊れた部品の写真」を超えて、強固なエビデンスを持つ経営資源です。
設計・調達・生産・品質、それぞれの立場の方が現場知と科学的なアプローチの重要性を共有し、部門連携とサプライヤーとの共創を進めることで、製造業の競争力は大きく高まります。
昭和のアナログから未来のデジタルへ――ラテラルシンキング(横断的思考)を武器に、現場の「なぜ?」を徹底的に掘り下げ、ものづくりの質と寿命を飛躍的に向上させる一助となれば幸いです。

You cannot copy content of this page