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破面解析・破壊力学の基礎と破損事故対策への応用

目次
破面解析・破壊力学の基礎と破損事故対策への応用
はじめに
製造業に携わる方々にとって「破損事故」は避けて通れない課題です。
大量生産、高効率化、コスト競争、新素材の活用など、めまぐるしく変化する現場の中で、部品や構造物の不具合・破損は今なお頻発しています。
その根本原因を突き止め、再発防止策を講じるために不可欠なのが「破面解析」と「破壊力学」です。
本記事では、現場管理職として実践してきた視点も交えて、基礎から分かりやすく解説するとともに、如何に工場の現場やサプライヤー選定、品質保証に応用できるのかを紐解きます。
本質的な課題解決の引き出しを増やしていただくきっかけとなれば幸いです。
1. 破面解析とは何か
1-1. 破面解析の意義
「なぜ壊れたのか」。
破面解析(フラクトグラフィー)は、破壊した部品や構造物の断面(破面)を観察し、破損原因やメカニズムを特定する技術です。
破損した表面には、破壊の進行履歴や応力のかかり方、材料不良、加工ミス、使用環境の過酷さといった、”事件の証拠”が細密に残っています。
故に、単なる「現場での目視」や「設計者の推測」だけでは判明しない隠れた真因も、破面解析によって明るみに出ることが少なくありません。
1-2. 観察の手法と視点
破面解析は、肉眼からマイクロスコープ(光学顕微鏡)や電子顕微鏡(SEM)、さらに近年は3D計測など、多様な観察機器を使い分けて行います。
それと同時に、以下のような工学的視点を持ち合わせることが重要です。
– どの部位から破壊が始まったのか(起点の特定)
– 破壊がどのように進展したのか(伝播パターン、き裂の走り方)
– 金属では「粒界割れ」か「粒内割れ」か、疲労のストライエーションは見られるか
– 溶接不良や介在物、腐食など材料特有の兆候がないか
これらは単なる観察結果だけでなく、「どんな応力環境で使われていたか」や「加工やメンテナンスの履歴」と合わせて総合的、論理的に読み解きます。
1-3. 現場での取組み例
大手自動車部品メーカーの現場であった事例で解説します。
トルクロッドというゴム一体成型部品で突然の破損が発生し、市場クレームとなりました。
目視の段階ではただの「割れ」としか判りませんが、SEMにて破面を拡大観察すると、「疲労破壊特有の縞模様(ストライエーション)」が明瞭でした。
原因は想定外の振動負荷による”繰返し応力”の蓄積で、設計にフィードバックをかけるきっかけとなりました。
このように破面解析は、設計改善・品質向上・顧客対応のすべての場面で活きる現場技術です。
2. 破壊力学の基礎
2-1. 破壊力学の役割
破壊力学(Fracture Mechanics)は、材料や構造物に割れ(き裂)が生じている状態での強度や破壊の進展を定量的に評価する学問分野です。
従来の材料力学では「き裂の有無を問わず、決まった範囲までの強度を測定」していました。
しかし実際の工場現場や現場のメンテナンスでは、傷やき裂が入った部品の “余寿命” をどう評価するかが非常に大事です。
従って「どこまで使ってよいか」、「置換や補修のタイミング」、「設計時の余裕度設計」を行う上で、破壊力学の基本理解は必須です。
2-2. 基本パラメータ:応力拡大係数と破壊靭性値
破壊力学では主に以下の2つの指標を重視します。
– 応力拡大係数(K):き裂先端の「局所的な応力集中度合い」を示すパラメータです。
– 破壊靭性値(KIC):その材料が耐えうる「限界の応力拡大係数」、耐割れ能力の目安です。
部品や構造物に例えば長さaのき裂が入っている場合、その先端には外部応力σと形状因子Yを掛け合わせた「K=Yσ√(πa)」の形でストレスが集中します。
そのKがKICを超えた時、材料はき裂伝播から一気に“破断”します。
これを知っていれば、
– 日常点検で微細な割れが見つかった時にも、すぐに「いつまで使えるか」の判断材料となる
– 強度設計の最初の段階から、「万一の微小き裂」を想定した設計余裕度を確保できる
のです。
2-3. 破壊メカニズムの種類
破壊現象には大きく「延性破壊(ダクタイルフラクチャー)」と「脆性破壊(ブリトルフラクチャー)」があり、現場判断において極めて重要です。
– 延性破壊:塑性変形を大きく伴い、”グズグズ”と時間をかけて壊れる
– 脆性破壊:変形をほとんど伴わず、”パキン”という一瞬で壊れる
部品の素材・設計用途・温度環境によって支配的な破壊モードは異なります。
具体的には自動車の足回りや大型構造物、あるいは寒冷地の低温化では「脆性遷移温度」に注意が必要です。
この基礎知識は現場の設計者やバイヤー、サプライヤーの”相互理解の基盤”となっています。
3. 破面解析・破壊力学の現場の活用法
3-1. 不具合解析と再発防止の柱
重大な破損事故が起きた時、その場しのぎの「部品交換」や「場当たり的な再検査」では本質的な課題解決にはなりません。
破面解析を徹底することで、現物の“壊れ方”から詳細なメカニズムを解明し、以下のような再発防止のアプローチが可能となります。
– 設計エラー、負荷の見落とし → 構造見直し、大きな安全率設計
– 材料不良、熱処理ムラ → 材料選定・製法工程の変更、ベンダー指導
– 加工ミス、組立工程調整 → 検査工法の最適化
このプロセスは、製造業全体の品質向上のみならず、長期的な顧客信頼や利益率の改善に直結します。
3-2. バイヤーとしてのリスクマネジメント
バイヤー(調達担当者)は、部品の調達だけでなく「万が一」のリスクや事故時の対応力までを考慮した供給網(サプライチェーン)を築く責任があります。
それゆえに、破面解析・破壊力学の知識は極めて重要です。
– サプライヤー工場の工程評価時:過去の破損トラブル事例の分析内容をヒアリングし、原因究明力、フィードバック力を見る
– サンプル納入時:材料スペックや技能試験だけでなく、「実使用時の微小き裂・疲労」などを想定した余裕度まで議論する
– 新規取引先選定時:品質保証部門に「破面解析の専門家」が在籍しているかどうかも一つの評価軸となる
これにより、“万が一”の際の保険的側面だけでなく、自社の製品信頼性やブランドイメージを守ることにもつながります。
3-3. サプライヤー側からの提案力
一方でサプライヤー(部品メーカーや下請け加工会社)にとっても、破面解析・破壊力学の技術は“差別化の武器”となります。
クライアント(バイヤー、完成品メーカー)からの厳しいQCD(品質・コスト・納期)要求に対し、自社での解析技術レベルや原因追究力を提示できれば、高付加価値取引や長期的パートナーシップの糸口となるでしょう。
具体的には、
– 不具合やクレーム発生時、破損部の解析画像+わかりやすい解析報告書(SEM画像+破壊メカニズムの推定+改善案)をセットで提出
– 定期的なFA(故障解析)レポートをバイヤーと合同で作成し、設計段階から巻き込む体制提案
こうした一歩踏み込んだ提案力・調査力は、毀誉褒貶を問わず製造業のバリューチェーン全体の「安心」を底上げします。
4. アナログ現場の昭和的手法からの脱却
4-1. 勘と経験だけに頼らない解析文化
今なお多くの工場・加工現場では、「長年の経験者による目視判定」や「過去事例の記憶やノウハウ資産」だけで運用されているケースが見受けられます。
もちろん熟練工の勘や経験値は現場力の源泉ですが、これだけでは設計変更や新素材、新しい使われ方への追従が難しくなります。
破面解析や破壊力学は「客観的・科学的根拠に基づいた品質保証プロセス」の土台を作ります。
特に新人教育や技術の形式知化が求められる時代には、“見れば分かる”から“誰でも同じ結果を出せる”体制作りが不可欠です。
4-2. ICT・デジタル技術との融合
昨今では破面解析のDX(デジタル変革)も急速に進展しています。
ハンディタイプの高解像度顕微鏡や、破断画像AI判定、クラウドを使った死因データベース共有など、「デジタル×現場」を活用する事例が増加中です。
– 故障解析のナレッジベースを整備し、トラブルシューティングを半自動化
– 類似した破損事故の画像AI診断で、属人的な見落としを半減
– QMS(品質マネジメントシステム)と連動する故障・解析レポートの蓄積
これにより従来の「場当たり」から「予防保全」へのパラダイムシフトが加速します。
昭和的な“属人技術”を活かしつつ、デジタル活用で“誰もが使いこなす”時代へアップデートしていきましょう。
5. まとめ:製造業に不可欠な“解析リレーション”の時代へ
製造業の最前線では、高度な生産性・競争力とともに「いかに不具合・事故リスクを極小化できるか」が重要なテーマとなっています。
破面解析・破壊力学はその核心を担う技術であり、現場管理・バイヤー・サプライヤーすべての立場で“小さなヒント”を大きな価値に変える鍵です。
目の前の不良品現物を手掛かりに原因を徹底究明し、科学的根拠で社内外を納得させる。
現場の実践的な解析力とデジタル技術を融合させた先に、次世代の製造業発展があると確信しています。
不具合は必ず起きます。
けれど、“壊れた理由が分かればリカバリーできる”――そうした現場の自信を積み上げるためにも、ぜひとも破面解析・破壊力学を明日からの工場・調達業務に活かしていただきたいと思います。
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