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破断面マクロ観察で行う破損原因推定とフラクトグラフィ活用術

目次
はじめに ― 破損原因解明の第一歩「破断面マクロ観察」とは
製造業の現場では、製品の破損や不具合は避けて通れない課題です。
「なぜ壊れたのか?」
「今後、同じトラブルをどう防ぐのか?」
この答えを探る上で最初に取り組むべきが、破断面のマクロ観察です。
本記事では、20年以上の現場経験に基づく視点から、破断面マクロ観察の実践ノウハウや、古くて新しいフラクトグラフィ(破壊組織観察)の活用価値を解説していきます。
また、調達・購買、生産管理、品質管理など、現場ごとの着眼点にも触れ、購買担当者やサプライヤー側にも役立つ「現場に根差した破損解析」の視点を共有します。
破断面マクロ観察とは何か ― まず「見て」「考える」徹底した現場力
現物を「見る」ことからすべてが始まる
「マクロ観察」とは、破損した部品の破断面を、肉眼やルーペ、実体顕微鏡などで低倍率で観察し、破損形態・特徴・進展方向などを捉える調査手法です。
これは誰でもできる「基礎」ですが、実は最も多くの情報・ヒントを与えてくれる工程です。
機械工場や建設現場では、ベテラン職人がよく
「まずは現物をジッと見ろ」
と教えてきました。
実際、破断面マクロ観察は、形として表れる「破損の言い分」を黙って聴き、自己流に決めつけず、地道に“観て・考える”現場文化から生まれた原則です。
マクロ観察で得られる主な情報
1. 破断面の全体形状(割れ方・曲がり・欠け)
2. 破断進展方向や初発位置の特定
3. 破壊面の色調、光沢、粗さ、模様
4. 二次的な変状(変色、腐食、摩耗の付着物)
5. 異常発熱や外部衝撃の痕跡
これらを絵や写真で記録し、複数人で共有、意見交換する習慣が、昭和から円熟してきた日本のものづくりの「現場知」であり強さでもあります。
「昭和」のアナログ現場文化がもたらした観察眼の厚み
現代は簡単に「電子顕微鏡」「分析装置」に頼りがちですが、実は経験豊かな技術者ほど、まずは「あえて」肉眼や数倍率の拡大観察を優先します。
なぜでしょうか?
理由は二つあります。
1.異変や全体像は“低倍率”・“広い視野”で捉えやすい
高倍率の分析では、わずかな領域しか見えません。
全体の割れ方、異常がどこで始まり、どこに広がったのかなど、大局的な兆候は「引いて見た」マクロ観察でこそ発見されやすいのです。
2.分厚い「現場目線のヒント」が得られる
長年の現場経験者は、破断面の「色」や「模様」、汚れの付き方、金属光沢など、理屈では説明しにくい微細な違いを嗅ぎ分ける嗜好(センス)を持っています。
例として、疲労破壊と一括りにしても、荷重の種類や破壊雰囲気、応力集中の有無は、肉眼でのグラデーション模様や微妙な手触りとして現れます。
この「現場力」こそ、AIや機械には代替できない、昭和から脈々と流れる日本の製造業ならではの高度な知恵なのです。
破断面観察の定石 ― 疲労・脆性・延性、それぞれの見極めポイント
破壊には様々なメカニズムがありますが、最も出会うのが「疲労破壊」「延性破壊」「脆性破壊」です。
マクロ観察で役立つ典型例をいくつか紹介します。
疲労破壊(フェイルセーフ設計にも直結)
・破断面に貝殻模様、筋状模様、進展線(ビーチマーク)が表れる。
・きれいな艶、滑らかな破断面、境界線が鮮明。
・初発部からジワジワと進んだ後、最終的に破壊が拡大(最後はザクザクの延性破断面へ移行)。
現場では「この模様が何層あるか」「どの方向に進展したか」で負荷履歴や使用環境を解析できます。
脆性破壊(割れる・パリッといく)
・破断面はツルツル、光をよく反射、貝殻模様は出にくい。
・亀裂進展が一気に進み、「突然パーンと割れた」形。
・溶接部端、溶込み不良や応力集中部で発生しやすい。
これが現れた場合、材料自体の靭性不足や熱処理不良、極端な低温等が疑われます。
延性破壊(ねじれる、塑性流動)
・破断面がザラザラ、繊維状、バリ(カエリ)が出ることも。
・大きな塑性変形、「伸びた」「ねじれた」という破壊痕。
・材料自体の延性が高いと、このような割れ方になる傾向。
現場養生・フィードバック時には、「この破れ方=よく粘った!」と評価になることも。
現場・バイヤー・サプライヤーそれぞれの着眼点 ― 調達購買のための破断面観察の価値
バイヤーが破断面を「読める」と何が違うのか
調達・購買担当、バイヤーが破断面の基礎的な観察知識を持っていると、サプライヤーや品質管理部門とのやり取りに深みが生まれます。
・不良品クレーム時、「どこが不良だったのか」を根拠ある形で伝えやすい。
・相手サプライヤーの説明(疲労破壊です、溶接不良です、等)に対して納得できる質問や提案が可能。
・現物確認を重ねることで、再発防止や設計フィードバックのループが速くなる。
「破断面観察なんて技術屋の仕事」と線引きせず、
「現物を目で見て、なぜ?を考える」習慣は、コスト低減や品質向上の根っこを支えています。
サプライヤーの立場で知るべき「バイヤーの視線」
サプライヤーにとっては、バイヤーが破断面観察に知見を持つかどうかで、説明や資料作りの説得力が大きく変わります。
・破断面の特徴を写真付きで提示、可能な限り説明を添付する
・原因推定を分かりやすく図解、イラスト化する
・「この画像・現象は疲労破壊の典型です」という過去事例・文献やJISとのひも付け
こうした資料を用意することで、バイヤーが理解、納得しやすくなり、信頼関係の向上、安定供給につながります。
フラクトグラフィの活用術 ― 最新解析と現場観察のハイブリッド
マクロ観察だけがすべてではありません。
昨今は電子顕微鏡(SEM)やX線CT、さらにはデジタル画像解析も普及しています。
これらの「フラクトグラフィ(破壊組織観察・微視的破断面解析)」は、小さく目立たない初期欠陥の特定や、材料レベルでの原因推定までを精緻に行える強力なツールです。
フラクトグラフィのポイント・メリット
・顕微鏡観察で微細なクラック発生位置、粒界割れの有無、金属組織の状態まで可視化
・SEMによる微細相解析で、異物・介在物が起点となる破損原因の究明
・デジタル画像解析で、進展速度や方向を数値化・統計化
・X線CTによる非破壊・3D観察で内部構造まで把握
これらはマクロ観察で「当たり」をつけたうえで、ピンポイントかつ“論理的根拠”を与えるものです。
現場のベテランがまず「ざっくり」全体像をつかみ、次に専門家集団が「精密に」分解・検証する。
このハイブリッドが、21世紀型の製造業の品質・信頼性の根幹を成しています。
実際の現場トラブルから学ぶ―破断面マクロ観察のケーススタディ
ここで、実際の現場で繰り返し遭遇するケースと、マクロ観察、フラクトグラフィを組み合わせた原因究明事例を紹介します。
ケース1:ボルト脱落クレーム ― 疲労か、施工不良か?
自動車部品の締結ボルトが走行中緩み、脱落しました。
リコールに直結する大問題です。
現物ボルトの破断面は、初期部に滑らかな「貝殻状模様」、途中からザクザクの延性破断面に移行。
これは明らかな「疲労破壊」の典型。
さらに電子顕微鏡観察で、初発部近傍にガス孔(気泡)が確認され、製造時の鋳造不良も関与。
サプライヤーとの協業で、材料管理と検査体制の強化、新しいボルト締結手順の導入で、再発防止策を確立。
このように、“現場の観察力”+“解析技術”の融合が現実解を導きます。
ケース2:設備部品シャフト割損―脆性破壊か?材料トレースの重要性
生産ラインの主要シャフトが突然真っ二つに割れました。
現場は騒然。
破断面はガラスのようにツルツル、応力腐食割れかとも疑われましたが、マクロ観察で溶接部からの割れ進展を確認。
金属組織観察で熱処理欠陥(マルテンサイト残留)が判明しました。
材質証明書にロット記載漏れがあり、材料手配段階でのトレーサビリティの必要性も再認識されました。
このようなケースでは、破断面観察+サプライチェーン管理が再発防止の鍵を握ります。
まとめ ― 破断面マクロ観察はすべての製造業従事者が持つべき「現場知」
破損原因の推定は「現場力」の結晶です。
最新の分析技術とAI時代のデータ活用はますます広がっていますが、昭和から培ってきた
“まず現物を見て・考え・仲間と議論する”
この姿勢こそが現場の力、サプライチェーン全体の競争力になります。
バイヤーを志す方、サプライヤーの立場の方、すべての製造業従事者へ。
破断面マクロ観察は決して昔の技術ではなく、最新技術と手を組むことで、より強力な武器となります。
今日も現場で、「まず観察から考える」こと。
これが、再発防止も、製造現場のイノベーションも生み出す第一歩であることを、ぜひ自信を持って実践してください。
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