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破面観察から読み解く破損原因の推定技術と破断面解析の基本

目次
はじめに―現場で重視される「破断面観察」の真価
ものづくりの現場において、製品の破損や不具合は避けて通れない課題です。
特に、思わぬタイミングや場所で製品が壊れた場合、その原因を的確に突き止め、更なる品質向上や再発防止策につなげることが重要になります。
その際に中心となるのが、「破断面観察(または破面観察)」と「破損原因の推定技術」です。
これは単なる理論やアカデミックな分野にとどまらず、現場の実務や日々の品質管理にも直結するスキルです。
本記事では、20年以上にわたり製造業の最前線で培ってきた経験と、現場目線のノウハウを交えながら、破断面解析の基本と実践技術をわかりやすく解説します。
破断面観察とは何か―見逃されがちな重要プロセス
破断面(破面)観察とは、文字通り製品や部品が破損した際に発生する断面を観察・分析する技術です。
肉眼はもちろん、光学顕微鏡や電子顕微鏡などを駆使し、破損のメカニズムや発生経路を検証します。
現場で特に重宝されるのは、「何が原因で壊れたのか」「どのタイミングで脆化が進んだのか」といった情報を合理的かつ簡便に読み解けるスキルです。
この技術がなければ、単なる「現象の報告」に終始し、根本的な改善には至りません。
バイヤーもエンジニアも、そして現場の作業者も、基礎知識として知っておくべき技術なのです。
昭和思考から脱却せよ―なぜ今、破断面解析が問われるのか
日本の製造業は長年、暗黙知や属人的な経験則で品質管理を進めてきました。
「職人の勘」「ベテランの目」など、ある種の神話が生まれやすい環境でした。
しかし現代は、グローバル化やデジタル化の波が押し寄せ、再現性・論理性が益々重視される時代です。
AIやIoTが現場に導入されても、壊れた実物から得られる情報価値は決して減りません。
むしろ、アナログな観察力とデータ分析力の融合が、新たな競争力を生み出します。
破損解析は、製造現場の常識をアップデートする突破口です。
昭和から続く「とりあえず原因不明」「人柱でしのぐ」という風土を脱し、誰もが納得する論理に基づいた対策を講じるために不可欠なのです。
破断面観察の基本ステップ―現場ですぐ使える実践手順
1. 破損部の取り扱い―最初の一手が決め手
破損が発生した直後は、現場担当者の緊張が高まる瞬間です。
ここでまず注意すべきは、「破断部に余計な手を加えない」ことです。
清掃や切削をしたくなる気持ちは分かりますが、現場のホコリや油シミ、熱の入り方ひとつでも、原因特定の重要な手がかりになります。
写真撮影や部品の保全も、できるだけ迅速かつ丁寧に行いましょう。
2. マクロ観察(肉眼・拡大鏡)
最初は全体像を肉眼やルーペで観察します。
ポイントは、破断面の「色」「模様」「輝き」「凹凸」など、肉眼で判別できる情報から異常の全体的な傾向を掴むことです。
例えば
– 疲労破壊特有の縞模様(ビーチマークやシャイニングストライエーション)は無いか
– 溶断や焼けによる変色はないか
– わずかな亀裂の走り方や、一部のみの錆びつきがあるか
等をしっかり記録に残します。
3. ミクロ観察(顕微鏡)
次に、光学顕微鏡や電子顕微鏡(SEM)を使って、破断面の詳細な組織観察を行います。
ここでは、結晶粒界の様子や微小なクラック、析出物、腐食跡など、経験がないと見落としやすい変化も洗い出します。
金属材料の場合は「延性破壊」と「脆性破壊」の判別が特に重要です。
延性破壊特有のディンプル(凹状のくぼみ)や、脆性破壊のリバー模様(平らでザラつきのある面)を識別できれば、破壊のメカニズムが一段と明確になるでしょう。
4. 分析結果の統合と原因推定
観察した情報を時系列・解析用途別に整理し、仮説を立てます。
たとえば、外部からの強い衝撃が加わった場合は、塑性変形の痕跡や局所的な圧痕も見られるはずです。
化学分析や硬度測定も併用し、材料特性の変化も評価します。
決して「何となくそれっぽい答え」に飛びつかず、事実とデータに基づいて粘り強く議論を重ねます。
これこそが、現場レベルでの再発防止・設計改良につながるのです。
破損原因の主な分類と正しい見抜き方
破断面から原因を読み解くうえで、代表的な破壊パターンを知ることは基本中の基本です。
1. 疲労破壊
繰り返しかかる応力で、内部に微小なクラックが生じ、次第に拡大して破断します。
ビーチマーク(貝殻状縞模様)が特徴です。
案外、「小さい荷重×多回」による破損は、現場で見落とされがちです。
2. 延性破壊
荷重が限界を超えてゆっくり変形し、ディンプルが破断面一面に現れます。
じわじわ壊れるため、事前に「いつか壊れるな」という予兆が見えることも。
3. 脆性破壊
外力に対して、ほとんど伸びずにパキッと割れるタイプ。
リバー型破面や階段状の断面が特徴です。
材料の冷却不足や組織の不均一分布が主因になります。
4. 環境起因(腐食など)
応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)や水素脆化など、金属の特性変化による破断です。
化学分析と破断面観察の合わせ技が求められます。
現場で役立つ具体的トラブル事例
理論を押さえただけでは実務で活かせません。
ここでは、現場で頻発するトラブルと、破損解析から原因推定に至った代表例を紹介します。
ケース1:プレス部品の不意の割れ
急な破損が生じた場合、まずは加工時の熱履歴や金属組織の変化、加工ひずみの有無を観察します。
ミクロ破面に残るクラック線や、局所焼きなまし跡から、加工条件見直しや材料ロット替えにつなげます。
ケース2:ボルト破断による機器停止
ボルト破断の多くは、疲労破壊によるものです。
ねじ山の根元からビーチマークが拡大し、最終的には延性破壊部が生じます。
規格外の締付や、繰返し応力に耐えられなかった証拠を突き止めることが、ベンダーへのフィードバックや設計応力値の見直しにつながります。
ケース3:樹脂部品の割れ・破壊
樹脂は金属よりも環境要因の影響が大きく、成型時の応力残りやUV劣化、薬液付着が破損要因となることが多いです。
破断部の観察により、脆化部分の色や破面模様から、成型条件や保管・使用環境の見直しが可能となります。
サプライヤー・バイヤーの視点で活かす「破断面解析」
多くの品質トラブルは、発注者―サプライヤー間の認識ギャップや、原因特定へのアプローチの違いから、必要以上に拡大してしまうことが珍しくありません。
バイヤーの立場としては、
– どの段階で壊れたのか、再現試験で「全く同じ現象」が起こせるのか
– 原因特定のために、「現物の破損部品」をどこまで保全・共有してもらえるか
といった点が大きな関心事になります。
一方、サプライヤーとしては、破断面の客観的データを提示することで、不当な責任追及のリスクを大幅に下げることができます。
また「ここまで調べた」という姿勢が、新たな信頼関係や提案ビジネスの種にもなります。
特に現在は、海外サプライヤーや関連拠点との連携で、「論理立った検証・報告」が標準となりました。
昭和的な談合や口約束ではなく、破断面解析のロジックと再現性が、品質保証・信頼関係の基盤となります。
破断面解析が拓く未来―人とデジタルの融合へ
AIや画像認識技術の進化で、破断面解析も自動化される時代が到来しています。
しかし、「異常の検知」や「定量的な特徴抽出」はできても、現場固有のヒストリーや実際の使用環境との照合・ interpretation には、熟練者の知見が不可欠です。
現場力とデータ駆動の両輪で、サプライチェーン全体の品質を底上げする。
それこそが、真に現場起点で進化する「ものづくり力」だと考えます。
まとめ―破断面観察をものづくり現場の共通言語に
破断面観察と破損原因推定の技術は、管理職・バイヤー・サプライヤーなど、製造業に携わるすべての人々にとって不可欠な素養です。
現場の「なんとなく」を「確固たる証拠」に変え、「昭和の勘」から「誰もが納得する論理」への橋渡しを担います。
ものづくりの根幹を支え、より強靭なサプライチェーン・製品開発へ貢献する破断面解析を、ぜひ日々の業務に取り入れていただきたいと思います。
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