投稿日:2025年7月2日

破断面観察で学ぶ破損原因分析と長寿命化対策の進め方

はじめに:なぜ今「破断面観察」が重要なのか

製造業の現場では、機械や部品の突然の破損・破壊により、ラインが停止して多大な損失が発生することが少なくありません。
技術者や管理職、バイヤー、サプライヤーなど、製造業に携わる誰もが「なぜ壊れたのか」「同じトラブルを未然に防げないか」と頭を悩ませた経験があるはずです。

昭和の時代から破損分析の要として極めて重要な役割を担ってきたのが「破断面観察」―いわゆるフラクチャサーフェスアナリシスです。
部品や部材の”壊れた面”(=破断面)を詳細に観察・分析することで、単なる「現象の記録」ではなく「根本原因の発見」と「再発防止策への道筋」をつけられるからです。

IoTやAI導入が進む一方で、現場にはまだまだアナログ的な勘や経験則に頼る風土が色濃く残っている企業も多く見られます。
そんな製造現場で実践的に活きる「破断面観察」の基本から、最新動向までを事例を交えて解説していきます。

破断面観察とは?―基本知識とその目的

破断面とは何か

破断面とは、部品や材料が破壊された際に露出する「新しい面」を指します。
例えば、ボルトが引きちぎれた部分やギアが欠けてしまった現場を想像してください。
その断面には、その瞬間まで”隠されていた秘密”が刻まれています。

何のために破断面を観察するのか

破断面観察の主な目的は、以下の3つです。

・損傷原因(力、応力、環境要因、材質不良など)の特定
・破壊メカニズム(脆性破壊、延性破壊、疲労破壊、腐食破壊など)の推定
・今後の長寿命化・強度向上対策につなげるための手がかりの収集

単に壊れた事象を「再発注して終わり」とするのではなく、損失を最小限に抑え、製品と工程の信頼性を高めていくためには不可欠な技術です。

破断面観察の進め方:現場で押さえたい実務ポイント

ステップ1:現場保存・初期観察

破損発生時、最も重要なのは「状態そのままを保存」することです。
発生から回収までの間に、破断面を指で触れたり、洗浄したりすることで本来の痕跡が失われる危険があります。
現場写真の撮影や、破面が空気や水分と反応しないようビニール袋に入れるなど、基本動作を徹底しましょう。

ステップ2:目視・実体顕微鏡での観察

いきなり高度な分析に進む前に、まずは肉眼、次に実体顕微鏡(低倍率10〜50倍程度)で全体像を把握します。
・どこが起点でどのように破壊が進展したか
・模様(ストライエーション、シェブロン模様等)はどうなっているか
・明らかに異物、腐食、摩耗などがないか
一流の技術者ほど、ここでの観察と推察に多くの時間を割きます。

ステップ3:詳細観察(SEM/EDSやマイクロスコープ)

さらに詳細な情報が必要であれば走査型電子顕微鏡(SEM)やエネルギー分散型X線分析(EDS)を活用します。
特に微小な異物混入、材料内部欠陥の検出、元素分析などはこの段階で行われます。

ステップ4:原因究明・対策立案

各観察結果から総合的に損傷原因を推定します。
仮説を立てて実験やシミュレーションで裏付け、再発防止策や設計変更、サプライヤーへのフィードバックにつなげていきます。

よくある破断面パターンとその意味

疲労破壊とそのサイン

「疲労破壊」とは、繰り返しの応力が原因で徐々に進行する損傷です。
破断面には、発生箇所を起点に「貝殻状模様」や「放射状模様(シェブロンパターン)」などの特徴があります。
この模様を正確に読み解くことで、設計値を上回る応力集中や本来想定されていない使われ方(マウント方法など)が明らかになるケースも多いです。

脆性破壊と延性破壊の違い

「脆性破壊」では、破断面が平滑で光沢が出やすく、外力が加わると一瞬で亀裂が伝ぱします。
対して「延性破壊」では破断面が荒れており、ダクタイルカップ&コーン形状(中央にくぼみ・縁に盛り上がり)となるのが特徴です。

両者は材料や温度条件、環境要因により現れ方が異なりますが、「どう壊れたか」から「なぜそうなったか」を逆算していくことが肝心です。

腐食破壊・応力腐食割れ

腐食破壊は、材料が化学的腐食と同時に機械的応力を受けて破断した場合に起こります。
破断面は不均一で、ピットやクラック、局所的な着色などが見られます。

ここでは、現場環境(水分、薬液、洗浄剤、雰囲気など)の調査も重要な手順となります。

実践事例:破断面観察が切り拓く「真因究明」の現場

ケース1:ボルト折損―設計に潜む落とし穴

ある自動車部品ラインで、重要な固定用ボルトが定期的に折損。
現場からの要請で破断面を観察したところ、典型的な疲労模様と、起点付近に微細な傷(バリ取り不良)が発見されました。
工程を遡ると、下請けでの仕上げ作業に一時的な不適合が生じていたことが発覚。
設計条件の再評価と仕上げ工程の標準化・自動化(目視検査から画像処理へ移行)で再発ゼロを達成しました。

ケース2:ギア破損事例―材料品質問題か仕様選定か?

工場の搬送装置で使われていたギア歯が突然折損。
ベンダー(サプライヤー)は「材料欠陥」と主張、ユニットバイヤーは「過負荷運転」の疑いと主張の食い違いが生じました。
破断面を電子顕微鏡で詳細観察、内部気泡(鋳造欠陥)が割れ起点となっているエビデンスを確定。
同時に外部応力履歴を回収し検証した結果、仕様選定ミス(オーバースペック使用)とサプライヤーでの品質外れロットが重なったダブルカウントを導出。
双方が納得のいく技術的解決と調達戦略の見直しが実現できました。

破断面観察と業界トレンド:アナログからデジタルへの移行

現場力を活かしたデジタル技術の活用

近年、大手メーカーでは破断面観察の自動化やAIによるパターン認識も試みられるようになりました。
スペシャリストの経験をもとにアノテーションを作り、異常画像をAIに学習させるといった試みが進みつつあります。

しかし、現場では「実物を手に取り、五感で確認する」アナログ的なアプローチが今なお大切です。
画像データや測定値だけに頼ると、全体像を見失ったり、異常の”兆し”を捉え損なうリスクもあります。
現場で培った観察眼・着眼点と思考力こそが、高度なデジタル解析を正しく使いこなすカギとなります。

昭和的アナログ風土を活用する

実際、多くの職人やベテラン技術者は「匂い」や「手触り」、「周囲のノイズ」まで観察します。
そうした現場知の蓄積と最新ツールを連携させることが、”昭和から抜け出せない”と揶揄されがちな日本のものづくりにこそ必要なイノベーションといえるでしょう。

破断面観察の今後:すべての現場人の必須スキルに

破断面観察の知見は、現場の生産技術者だけでなく、調達・品質・設計・開発・営業といった各部門、そしてバイヤーやサプライヤーにとっても必須の共通基盤です。

「破面から語る」技術的コミュニケーションを身につければ、真因追及と論理的な改善に基づいたパートナーシップが築かれます。

スマートファクトリーやグローバル調達が進む現代でも、現場を知り、現物を見て「なぜ壊れたか」を追求する”現地現物主義”はますます価値を高めています。

まとめ:破断面観察で未来を切り拓く

破損事故は、ものづくり現場にとって避けて通れない課題です。
しかし、その「壊れた現場」こそが、課題の本質を知り、製品とビジネスを進化させる最大のヒントになるのです。

破断面観察を通じて、単なる現場検証を超えた“新しい発見”を積み重ねていくことは、製造業の現場力の底上げ、製品の長寿命化、高品質調達と安定供給、サプライヤー連携の強化に直結します。

どんなにテクノロジーが進化しても、人が「現場で直接観察する目」と、それに裏付けられた「原因追及への執念」はものづくりの生命線です。
未来の工場・現場の姿を描く皆様へ。
明日からの破断面観察にプロ意識と探究心を携えて、「壊れたモノの声」を聴き、より強い現場・サプライチェーンを一緒に築いていきましょう。

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