スプリッツフレグランスボトルOEMが空気圧ポンプでガス不使用ミスト化

はじめに：業界の常識を覆す“ガス不使用ミスト化”の波

製造業の現場において、昭和の時代から根付いてきた常識やアプローチは根強く残っています。
特にフレグランスボトルやスプレーボトルの分野では、「エアゾール＝ガス式」という図式がいまだに強く意識されています。
しかし、世の中の「安全・環境配慮」に対する要請や化学物質規制の厳格化などにより、これまで当たり前とされてきた仕様に変化の兆しが訪れています。

そんな中、OEMでスプリッツ（スプレー）フレグランスボトルを手がける各社が、相次いで“空気圧ポンプ方式”によるガス不使用のミスト化を提案し始めているのです。
この記事では、長年製造現場に携わってきた筆者だからこそ見える現場の裏側、そして調達・購買やサプライヤー（部材メーカー）・OEM各社が今まさに直面している動向と課題、さらに今後の新たな地平線について、実践的かつ現場目線で深く掘り下げていきます。

ガス不使用ミスト化とは？—スプリッツフレグランスボトルの新常識

エアゾールとポンプ式：基本構造の違い

まず押さえておきたいのが、「エアゾールスプレー」と「ポンプ式スプリッツボトル」の基本的な構造と仕組みの違いです。
エアゾールは、ボトル内部にLPGやDMEなどの噴射用ガスとフレグランス液を封入し、ボタンを押すことでガス圧によって液体が霧状（ミスト状）に噴出されます。
一方で、ポンプ式スプリッツは、ボトルキャップ内の小型ピストンを反復作動させることで内部を減圧し、大気圧との差で液体をノズルからミスト化して噴霧させる構造です。
ガスを一切使用しないので、安全・環境配慮、輸送や保管の面で大きなメリットが生じます。

ガスを使わない“空気圧ポンプ”のキモ

ガス不使用の空気圧ポンプでは、極めて微細な穴が開けられたミストノズルや、液体を細かく分散させる特殊な構造を持つパーツの組み合わせによって、エアゾール以上に繊細な噴霧性能すら実現できます。
また、ガス噴射式と違い噴出力の微調整や連続的なスプレーがしやすいという利点もあります。

OEM現場目線での導入動向と実践課題

“昭和の常識”が足かせになる現場

筆者が担当した案件でも、クライアント（ブランドオーナー側）から「スプレーボトル＝ガス入りですか？」と質問を受けることが多くあります。
これは、長年にわたって現場や商品開発の思考がエアゾールを標準と考えてきたためです。
実際には、現在は大手日用品メーカーや化粧品OEMの多くが、空気圧ポンプへの切り替えを加速させています。
一方、外注先の部品サプライヤーや資材メーカーでは、新方式への理解不足や部品点数の違い、生産ラインの再整備コストに対する心理的抵抗が根強いのが実情です。

部材・仕様調整の“現場ストレス”

現場でよく直面するのが、
「従来ガス式の既製品と互換パーツは使えるのか？」
「新たな型や金型をどこまで流用できるか？」
「OEM先に求められるテスト項目や検証頻度は？」
といった、部材互換や投資回収を巡る疑問です。
多品種少量化が進む昨今では、1ラインごとに数種類のポンプ・ノズルが混在するため、管理工数や品質管理工程が一時的に増大するストレスも無視できません。
このような現場の声やリスクは、上層部や企画担当よりもむしろ資材・調達現場で強く感じられる部分です。

サプライヤーとバイヤーの“温度差”調整術

現実的には、サプライヤー（部材メーカーやポンプサプライヤー等）は自社の既存設備・在庫・型を有効活用しつついかに新しい空気圧ポンプをラインナップに追加できるか悩んでいます。
一方、バイヤー（調達・購買担当者）は、安全性・環境性・コストメリット等を武器に、取引先とのパートナーシップ拡大やサスティナブル調達のPRに繋げたい意向が強くなっています。

この温度差をうまく埋めるためには、単なるコスト交渉だけではなく「情報共有と現場見学」「試作によるテスト工程の共同開催」「生産設備投資の一部シェア」等、お互いの負荷低減に繋げる現場レベルの工夫が不可欠です。

なぜ“ガス不使用”が求められるのか？時代背景とOEMへの影響

環境規制の強化と安全性重視の世界的潮流

ガス入りエアゾールは、その利便性の一方で、LPGやDMEによる引火事故・爆発、VOC（揮発性有機化合物）排出による環境負荷、廃棄時のガス抜き問題といった社会的課題を常に抱えています。
欧州を中心にRoHS、REACH、VOC規制等が年々厳格化し、「ガス式はいつ海を渡れなくなるか分からない」と身構えているバイヤーも増加中です。
国内市場でも廃棄インフラや労働安全衛生法改正、グリーン調達基準の強化によって、OEMとしては「いち早くガスフリーラインを整備し、サプライヤーの将来選択肢を増やしておく」ことが重要度を増しています。

想定外コストと調達“チャンスロス”のリスク

一方で、新しい空気圧ポンプやノズルの実装には、開発コストや法規制認証、設備投資が避けられません。
特に、ガス式で長年受注生産してきた小規模金型メーカーは「既存の手組みラインを止めてまで新規ラインを作るのはリスク」と現場から強い反発も生まれがちです。
このため、バイヤー（購買・調達担当者）は現場の納得と自社経営層の投資判断、サプライヤーへのインセンティブ設計をどう設計するかが“バイヤーとしての腕の見せどころ”とも言えます。

現場を動かす！ラテラルシンキング型アプローチ

ニッチ領域の成功例を業界横断で共有する

まだ大手しか導入できていない…と思われがちなガス不使用のスプリッツフレグランスボトルですが、実は民間中小OEMや一部業務用（美容室向け・工業薬品等）では、独自のポンプ式改善モデルをいち早く導入し、新たな市場ポジションを獲得している例が存在します。
特に「ガス禁止現場・病院・教育機関」「引火性の低い特殊用途」「持続可能性やリサイクル訴求がカギとなる欧州向け製品」など、従来の大量消費型市場とは異なるニッチ領域に着目した横展開・応用事例を、OEM同士、バイヤー・サプライヤー横断で積極的に共有していくことが新たな突破口となります。

生産現場での“擬似アナログ”対応でリスク低減

全自動化やDX化よりも、まずは混在現場での“アナログ仕掛け”によるポンプ新旧方式の管理法、「一時的な増員投入やマニュアル化（指差し確認・目視工程強化）」など、小規模現場でも取り組める改善策を段階的に進めましょう。
最先端でなければ現場は変われない、と思い込まず「昭和アナログの良き部分を生かしつつ、現実的な一歩を積み重ねる」ことが調達・生産双方のストレスを減らす秘訣です。