投稿日:2025年10月22日

宿泊施設が自社ブランドルームフレグランスを作るための香料OEM実務

はじめに

現代の宿泊施設における差別化戦略には、さまざまな手法がありますが、その中でも「香り」によるブランディングはますます注目されています。
お客様が五感で体験する「空間演出」において、オリジナルのルームフレグランスは他社との差を生み、独自のブランド価値を構築する強力な武器となります。
本記事では、宿泊施設が自社ブランドのルームフレグランスを導入し、実際に香料OEMを活用して商品化するための具体的な実務について、製造業経験を活かした視点から徹底的に解説します。

なぜルームフレグランスが宿泊施設のブランディングに効くのか

宿泊施設を選ぶ基準は価格・立地・部屋の清潔さだけでなく、「ここにしかない体験」が重視される時代になりました。
その最たるものが「香り」です。
香りには感情や記憶と結びつく特別な力があり、お客様がその施設を再度利用したくなる重要な要素となり得ます。

さらに、「ここだけの香り」は空間のラグジュアリー感や清潔感を演出し、口コミやSNSでの話題化にもつながります。
コモディティ化した宿泊事業において、ブランドのアイコンとなる自社ルームフレグランスは、顧客ロイヤルティの獲得、サービスの付加価値化という面からも大きな武器になるのです。

香料OEMとは?基礎知識を押さえておく

OEMの基本——委託製造とプライベートブランド

OEMは「Original Equipment Manufacturer」の略称で、他社が設計・開発した製品を、自社ブランドで販売するために製造を委託する仕組みです。
香料やルームフレグランスの場合も、メーカーに依頼してオリジナルの香りを調香・製造してもらい、自社ブランドとして展開する形となります。

ODM・PBとの違い

OEMが「自社ブランドで他社に作ってもらう」ことに対し、ODM(Original Design Manufacturing)は企画・設計段階から委託する方式です。
小ロットの宿泊施設向けにはOEMが主流ですが、独自性が重要ならODMも選択肢となります。
PB(プライベートブランド)は、自社で企画・販売し、製造は外部に委託するものなので、基本はOEMやODM経由で実現します。

宿泊施設に最適なOEM依頼の進め方

1. コンセプト設計——誰にどんな体験を提供したいのか

まず最初に、「どのようなお客様に、どんな体験価値を届けたいのか」を決めることが非常に重要です。
例えば、ビジネスホテルなら仕事終わりのリフレッシュや快適な睡眠、リゾートなら非日常感・開放感・癒しなど、特定のイメージや感情を狙う必要があります。

どんな香りがその施設らしさ、サービス姿勢と合致し、お客様の満足度に繋がるか、現場スタッフや顧客の声を丹念に拾い上げて、明確な「香りのコンセプト」を定めましょう。

2. 香料OEMメーカーの選定方法

香料メーカーにも得意分野や実績に差があります。
化粧品・生活雑貨系に強いOEM先もあれば、業務用(空間芳香・業務ユース)を得意とするメーカー、天然系香料専門、海外からの輸入香料を扱うところまで種類は豊富です。

基準としては下記を目安に比較検討しましょう。

・ホテルや商業施設への納入実績があるか
・小ロット対応の可否
・オリジナル調香のヒアリング力と提案力
・サンプル提供や修正の柔軟さ
・製造から充填、パッケージ、納品までワンストップで行える体制

実績や担当者の対応力は、実際の工場見学や過去納品事例の見聞きから直接チェックすることをおすすめします。

3. 調香〜サンプル決定フロー

香りの設計(選定・調香)は、OEMメーカーの専門調香師と密な打ち合わせが不可欠です。
伝え方のコツとして、「ラベンダーのような香り」「ウッディで重厚感があり、落ち着きが出る香り」など、抽象的な表現だけでなく、実際に使わせたいシーン(朝・夜・寝室など)や、ストーリー、施設のロケーション・客層・ブランドカラーなども盛り込みます。

サンプルは1回で決まることは稀です。
何度かの修正を繰り返し、都度現場で実際に嗅いでみて、「お客様目線」で違和感なく受け入れられるかを評価しましょう。

4. 成分設計・法規制への配慮

昨今は身体への影響やアレルギー対応も非常に重視されています。
特に宿泊施設の場合、様々な国籍・体質・年齢の方が滞在するため、「安全性」と「汎用性」を重視した成分設計が求められます。

ホルムアルデヒド・芳香族化合物など指定成分に注意した上で、アレルゲン低減やグリーン系(エコ認証)成分、動物性原料の有無など、顧客に安心してもらえる説明責任を果たせるよう、OEM先との協議を重ねます。

5. パッケージ・デザイン・導入形態の検討

ルームフレグランスはボトルやラベル、リードディフューザーなどの見た目もブランド体験の一部として極めて重要です。
OEM先の標準容器から選ぶのか、オリジナル設計するのか、デザイン会社への外注など検討範囲は広がります。

また、客室据え置きだけでなく、フロントや共用スペースでの展開、お客様への販売(ノベルティやECサイト)、サブスクリプションなど、導入形態を広げることで投入コストの回収にも繋げましょう。

6. 発注、製造・品質チェック、納品管理

OEM製品の量産には、適切な生産管理と品質保証が必須です。
製造計画の立案、納期管理、サンプルと同一レベルの品質担保(成分・濃度・見た目)、出荷検査、万が一のクレーム・不良品対応まで、細かな取り決めを詰めておきましょう。

工場の見学や監査対応、ロット管理、トレーサビリティの整備は昭和的な商習慣が今なお根強く残る業界です。
現場目線でOEM先と信頼関係を築き、不透明な点は小まめに確認しましょう。

現場で守るべき「生産管理」「品質保証」

生産計画の立て方

ルームフレグランスのOEMは、多くの場合小ロット数(例えば100本〜)から始めることが可能です。
とはいえ、プロモーションや販売の進捗に合わせ、追加発注・在庫管理の計画をしっかり立てましょう。

短納期依頼が続くと香料OEM側も対応力が落ちるため、不良在庫を抱えない範囲で余裕を持った発注サイクルを現場と連携して築きます。

品質管理におけるポイント

安定した香り、液の色や粘度、容器封止の精度はもちろん、航空輸送や保管時の変質リスクも管理が欠かせません。
宿泊施設で実際に使い始めた後も、「香りが薄い」「変質・変色が起きた」「ボトルが漏れる」など現場の声をOEM先にフィードバックできる体制を維持します。

また、ロットごとに保管サンプルを残すなど、トレーサビリティ管理を必須の業務フローに組み込みましょう。

サプライヤーから見た「バイヤーの考え方」を知る

香りOEMでバイヤー(発注側)の存在は極めて大きく、サプライヤー側としては「現場の声」を如何に正確に拾い上げるかが成功のカギとなります。

昭和的な押し付け型調達から脱却し、「お客様が本当に欲しいものは何か?」を突き詰めてディスカッションできる関係が理想です。

サプライヤーとしては、
・要望を曖昧にせず、的確にヒアリングする
・提案時は、コスト、納期、安全面も含めてバイヤー側の事情を最大限汲み取る
・出来上がった製品へのフィードバックを受け、継続的な改善へ活かす

このように対等なパートナーシップを築くことこそが、今後の香料OEMビジネスで覇権を握る鉄則といえます。

昭和から抜け出せないアナログ現場を変革するには

香料やOEM業界には、いまだにFAX、紙伝票、電話対応などアナログな企業文化が根強く残っています。
しかしDX化や業務システム導入が進むことで、現場の生産管理、品質保証、トレーサビリティが格段に精緻になります。

宿泊施設側も受注・納品・在庫の自動連携や、IoT芳香機器(空間ごとの香り配合の自動制御)導入など、アナログ主義からの脱却がサービス品質向上には不可欠です。

そのためにも、
・メーカー・OEM間のデジタル発注フローの構築
・品質データのクラウド化
・現場スタッフの香り教育・社内研修

といった「地道な現場改革」を進めましょう。

まとめ——ルームフレグランスOEM実務はブランド価値の未来を変える

自社ブランドのルームフレグランス導入は、宿泊施設の空間価値を一気に高める大きなチャンスです。
香料OEM実務は、コンセプト設計から調香、成分設計、安全管理、デザイン・パッケージ、品質管理、DX化に至るまで、ものづくりの本質的なノウハウが問われます。

ブルーオーシャン戦略と言えるこの領域でリードするためには、現場目線での執念ある試行錯誤、確かなパートナーシップ、現状に満足しない進化への投資が欠かせません。
昭和から続くアナログ慣習を打破し、次世代の宿泊事業へと進化させていきましょう。

現場で培った知見を最大限活かし、宿泊施設ならではの香りのストーリーを形にできるよう、ぜひ取り組んでみてください。
製造業のプロとして、心から応援しています。

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