投稿日:2025年6月26日

伝わる文書と説得力ある資料を構成するためのフレームワーク実践法

はじめに―伝わる文書と説得力のある資料が製造業で求められる理由

製造業の現場では、どれだけ優れた技術やノウハウがあっても、それを正しく伝える文書力や資料作成力がなければ、現場の改善も調達・購買も、なかなか進みません。

図面、手順書、提案書、改善活動の報告、品質異常の分析…。
どの場面にも「伝わる・納得される」資料が求められます。
そして、調達・購買担当者がバイヤーであれば、社内外に対して下流・上流問わず、巧みに意思決定をリードする発信力が不可欠です。

一方、サプライヤーの立場なら、「この会社の資料や説明はわかりやすい」と評価される企業が選ばれる時代になりました。
しかし、いまだに昭和的な慣習、あうんの呼吸が強く残る業界構造のなか、「伝わる資料」に対する意識と実践が遅れていることも事実です。

そこで本記事では、現場目線の実践ノウハウをもとに、伝わる文書・説得力のある資料を構成するためのフレームワークと、その具体的な実践方法を解説します。

なぜ伝わらない?製造現場でよくある「ダメな資料」とは

情報が詰め込まれすぎているだけの報告書

現場でよく見かけるのが、「情報の量=説得力」と思い込み、写真・データ・文章を“とにかく詰め込んだ”だけの報告書です。
実際にはポイントが散らばり、受け取った側は「…で、何が言いたいんだ?」と迷子になります。

根拠やプロセスの説明不足により納得感がない

別のパターンは、結論や結果“だけ”を並べて、説明や論理展開がすっぽり抜けている資料です。
「なぜそうなったのか」「なぜこの案がベストなのか」という疑問に答える材料が不足していて、説明する本人すら自信を持てません。

独特の用語・略語や現場用語の“落とし穴”

製造業はとくに現場独特の略語や俗語が横行します。
(例:F/S、PPAP、トヨタイム…等)社内では通じても、社外や上司、異部署とのやり取りでは混乱のもとです。

その結果、共通認識が取れず、何度も説明し直す羽目になってしまいます。

文書・資料作成の基本フレームワーク「PREP」の応用方法

説得力ある資料を作る第一歩は、「型」に則って論理的に組み立てることです。
その代表が「PREP(プレップ)」です。

PREPフレームワークとは

– Point(結論)
– Reason(理由)
– Example(具体例・証拠)
– Point(再結論)

たとえば、新しい在庫管理システム導入の社内提案なら、

– Point:このシステム導入がコスト削減につながります。
– Reason:不要在庫の可視化と棚卸し頻度の最適化が進むからです。
– Example:過去事例で運用した類似システムを導入したA工場では、在庫圧縮率がXX%改善しました。
– Point:よって、このシステム導入が合理的です。

現場の購買・調達業務にはこう応用する

バイヤーの視点で価格交渉や仕様決定の交渉を行う際も、PREPで資料を構成すると「説得の道筋」が一本化されます。
社内稟議書や原価改善提案書、品質異常対策の報告にもPREPの型が有効です。

PREPだけに頼らず5W2HやMECEで深みを加える

PREPは“まとめの型”です。
あわせて「5W2H(いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どのように・どれくらい)」を整理項目として下支えしましょう。

また「漏れなくダブりなく(MECE)」分解して書くことで、論点の抜けや重複を防ぐことができます。

説得力ある資料への「ストーリーと可視化」の技術

数字やファクト(事実)を徹底重視する

感覚的な「多い・少ない」「良い・悪い」ではなく、具体的な数値・改善割合・リードタイム、実績データを挟むのが鉄則です。
例:「この改善で歩留まりが10%向上」「調達リードタイムが5日短縮」など、極力“数字で語る”姿勢を忘れないようにしましょう。

図表、フローチャート、グラフを活用

いくらPREPや5W2Hで文章を整理しても、「図」にして示すと一目瞭然です。
工程図、フロー図、相関図、ガントチャート、損益分岐図など、伝えたい内容に合わせて可視化を意識してください。

「パワポで伝える」場合も、1スライド1メッセージ、キーメッセージを太字で囲う、小さすぎる文字や色使いを避ける、といった視覚設計も重要です。

ビフォー・アフター “対比”で共感を引き出す

「現状→課題→どう変わるか」を示すことで、聞き手は「なるほど、だから必要なのか」と納得しやすくなります。

たとえば物流工程の自動化提案であれば、手作業時のトラブルやムダ・制約、導入後の効率化像を“ビフォーアフター”の絵や表で対比させましょう。

製造業現場目線の「伝わる資料作成フロー」

ここからは、筆者が現場で実践し、効果を実感した「資料作成の流れ」を紹介します。

1. まず“何のため”に作るかを関係者で揃える

資料作成は「ゴール設計」が9割です。
“この報告で何を意思決定してほしいのか”“何に合意してもらうか”を、上司・関係者と共通認識にしておきましょう。
(例:A案で仕様確定したい/追加投資の承認がゴールなど)

2. 事実データ・現物・現象から必ず入る

データ、現場の写真・動画・計測値など、事実から出発してください。
個人の意見や感覚(肌感覚や伝聞情報)は資料の外に置くべきです。

3. 論理構造を型に沿って組み立てる

PREPなどの論理構造を利用して下書きすると、話が迷子になりません。
流れ:結論→理由→根拠(例・データ)→再結論/アクション

4. 可視化・イラスト・現場写真で説得力を増やす

読む相手に“現場を体感”させるため、できる限り図・写真・イラスト・フローを追加しましょう。

5. 現場用語や略語の“凡例・注釈”を明記

業界用語や現場固有ワードには、必ず注釈や解説を入れてください。
異部署、取引先、グローバル対応が進む時代、ローカルルールを止める一歩です。

6. 本当に伝わるか、現場の他者に試読してもらう

出来上がったら、現場の同僚(専門外の人)に見せて「何が伝わった?」と確認しましょう。
“わかりにくい”部分があればコメントをもらい、必ず修正してください。

アナログ体質な現場こそ「伝わる資料」が価値を生む理由

変化の遅い業界や、言葉より現場を重視しがちな日本の製造現場では、「資料や文章は形だけ」という刷り込みが根強く残っています。
しかし今、大手企業ほどサプライチェーンマネジメントやDX化、グローバル調達が進み、業務の多様化、複雑化が増しています。

こんな時代だからこそ「形式だけでなく、読む人目線で本当に伝わる資料」を作れる人材は、組織に不可欠な存在になります。

また、バイヤーとして現場から大きな改善やコストダウン提案・品質向上提案の承認を得たい場合、“納得してもらう力、構造化された説明力”にこそ競争力が生まれるのです。

サプライヤー側の立場でも、市場をリードする企業は、仕様提案・不具合報告・改善要望の文書化と資料化で「この会社は話が早い、信頼できる」と評価され、取引拡大につながります。

まとめ:業界を変える「伝わる資料作成力」を味方にしよう

伝わる文書と説得力ある資料は、製造業の高度化・グローバル化・デジタル化の中で、今後ますます重要度が増していきます。

昭和から続くアナログな現場文化の中でも、今すぐ実践できるフレームワーク(PREP、5W2H、MECE)や、データ可視化の技術、“一目で伝わる資料”の工夫を活用してください。

「この人の資料はわかりやすい」「説明が的確」という評価は、あなた自身の価値を底上げします。
バイヤーやサプライヤー、現場リーダーや管理職…どの立場でも、この力は現場と会社と業界を一歩先に進める原動力となるでしょう。

本記事を参考に、“伝える力”を磨き、新しい製造業の姿をともに切り拓いていきましょう。

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