投稿日:2025年6月26日

凍結乾燥の失敗を防ぐスケールアップとプログラム最適化による応用手法

凍結乾燥とは? ~基礎から振り返る製造現場の要点~

凍結乾燥(フリーズドライ)は、素材を凍らせた状態のまま減圧下で昇華させ、水分を飛ばして乾燥させる手法です。

医薬品やバイオ、食品といった多様な分野で活用され、熱や酸化による劣化を最小限に抑えた保存が可能となります。

しかし、凍結乾燥の普及は「昭和の勘と経験」が色濃く残る現場が少なくありません。

そのため「スケールアップの壁」や「プログラム最適化の難しさ」に、現場は幾度となく苦しめられてきました。

この記事では、私自身の20年超に及ぶ製造現場の経験から、凍結乾燥のスケールアップ失敗例と対策、さらに近年の先進的な業界動向について解説します。

スケールアップの落とし穴 — なぜ現場は失敗するのか?

現場で頻発する「うまくいかない」

少量サンプルでは完璧に見えた乾燥なのに、大量生産ラインに移行したとたんに

・乾燥不良(中心だけ残存水分が高い)
・形状崩壊(収縮やひび割れ)
・過剰な乾燥でコスト高騰

といった問題が頻発します。

現場の多くは「ラボでできたものは工場でも再現できる」と思いがちですが、スケールアップは単純な比例計算で語れません。

失敗の根源は“物理現象のズレ”にある

凍結乾燥では、トレイやバルク量が増大すると、内部の熱移動・質量移動(特に昇華速度や下層の温度分布)が大きく変化します。

また、装置ごとの真空度や熱伝導も、設計値から微妙にズレているもの。

これが

・時間や温度の“ムラ”
・製品品質ばらつき

を発生させる元凶となっています。

<現場経験談>
昔、私が担当したプロジェクトでも、パイロットスケールの小さな凍結乾燥器から、500Lクラスの生産機へ一気に移行した際、仕上がりの層構造が完全に変質し、歩留まり50%未満という悲惨な結果に陥ったことがありました。

スケールアップ成功のコツ ~昭和流からの脱却~

“温度・圧力・時間”三要素の見える化

凍結乾燥のスケールアップで最も重要なのは、熱・質量移動の「見える化」です。

具体的には、

・侵入温度センサーによる層内各ポイントのリアルタイム温度監視
・真空圧の詳細ロギング(装置全体だけでなく、ポイントごとのマッピング)
・水分移動速度のトレンド解析

こうしたデータを集め、「感覚」ではなく「根拠」で制御プログラムを作り上げます。

現場では、センサー設置すら嫌がられることも多いですが、最終的な歩留まり・クレーム低減を実証することで、徐々に理解を得てきました。

試作→量産への“スケーリング則”適用例

たとえば、「層厚(バルク厚さ)が2倍」になれば、乾燥に必要な昇華時間は単純に2倍ではなく、拡散現象などを勘案して1.7~2.5倍になる場合もあります。

このため、あらかじめ小型機・中型機・大型機で同種原料を使って多変量プロットし、

・層厚(mm)
・伝熱面積(m2)
・昇華圧力(Pa)
と製品仕上がり(残存水分、物理特性)との相関を可視化しました。

この蓄積が、次なる製造移管や新製品導入時の「現場の頼みの綱」となってきたのです。

プログラム最適化の重要性 — デジタル技術との融合

属人的プログラム設定の限界

従来の凍結乾燥現場は、「ベテラン担当者」の勘と経験が重視され、装置ごと・製品ごとに手作業でプログラム(温度、時間、圧力)を決めていました。

しかし、技術伝承の途絶や異動時のブラックボックス化により、再現性が崩壊するケースを多く見てきました。

MES/IoT/AIによるプログラム最適化

近年では

・MES(製造実行システム)やIoTセンサーによるデータ自動収集
・過去のバルクデータを活用したAIシミュレーションによる昇華曲線の最適化
・デジタルツインによる仮想検証と現場フィードバック

が現場に入り始めています。

現場ベースで言えば、
「今年の今の原材料なら、プログラムはパラメータB3が最適」
というような調整が、数時間単位→数分単位へ進化しつつあるのです。

サプライヤーとバイヤーの協業がカギ

バイヤー視点では、「量産品質の再現性」をいかに維持し、異常をどれだけ早期発見できるかが生産委託やサプライヤー評価の重要ポイントです。

サプライヤー側に「現場データをもとに最適プログラムで乾燥している」仕組みがあるか、
突発的な原材料変動やライン異常でも「データ根拠で迅速是正できる」体制があるか。

現場の自動化・デジタル化ノウハウは、単なるコスト・スピード競争以上に、
双方の信頼構築に直結します。

昭和的アナログ現場でも始める「小さな最適化」

1. センサー投資から始める小改革

莫大な開発費用や先進ITがなくても、現場でいま手軽に始められるのは

・各段階での必須温度センサー
・加熱トレイの均一性評価
・乾燥終了後のサンプリング数増加

です。

まずは「今の工程が本当に計画どおり動いているのか?」を継続的に計測し、データ基準で現象を説明できるようにします。

2. パラメータの標準化・共有

ベテラン社員が一人で握っていた昇華プログラムシートや日報を、デジタル又は紙でも構わないので標準ドキュメント化し、終業時に全体共有します。

新人や部署異動でも「今なにを基準に運用しているか」が見える体制が第一歩になります。

これからの応用手法 — 持続可能な現場構築への提言

スケールアップで活動分野拡大

凍結乾燥技術は、今後

・再生医療やmRNAワクチン材料
・サーキュラーエコノミーに資する原材料
・異種混合原料(食品+バイオなど)対応

など応用範囲が拡大しています。
複数素材対応には、物理現象の理解と最適なプログラム作成が必要です。

バイヤー・サプライヤーをつなぐ「現場可視化」価値

日本の製造現場では、昭和的な隠し味・ブラックボックス化体質が今も根強く残っています。
しかしグローバル市場では「再現性」「品質証明」「トレーサビリティ」がますます重視されます。

現場のサプライヤーが「この作業で、なぜ・何が起きているのか」を数値と根拠で語れる体制づくりが、これからのバイヤー側評価で最大の武器となります。

まとめ — 凍結乾燥スケールアップ&最適化がもたらす現場革新

凍結乾燥現場でのスケールアップとプログラム最適化には、

・物理現象に根差したデータ収集と解析
・従来の属人性からデジタル化/標準化への転換
・サプライヤーとバイヤーの情報・ノウハウ共創

が欠かせません。

小さなセンサー投資やドキュメント整備から始め、大規模MESやAI活用まで、現場状況に応じて一歩ずつ最適化を進める姿勢が、これからの製造業現場価値の源泉となります。

製造業の現場力が、いかにして新時代の競争力・信頼力に進化していけるのか。
凍結乾燥という技術を通じて、その具体的なヒントを現場目線で提案していきます。

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