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価格改定の頻度が高く内部調整だけで時間が消える本音

目次
はじめに:現場目線で語る、価格改定の頻度とその“重み”
昨今の製造業は、原材料価格やエネルギーコストの高騰、グローバルなサプライチェーンの乱れなど、数年前には想像できなかったほど価格改定の頻度が高まっています。
価格改定といえば、従来であれば年に一度あるかないかというのが一般的でした。
しかし、2020年代に入ってからというもの、四半期ごと、ひどい時は月次で価格改定の波が押し寄せるのが現実となっています。
現場で調達購買、生産管理、品質管理、工場長として培ってきた身からすれば、価格改定が表面に現れる「金額」のみならず、その裏で莫大なエネルギーが使われていることを痛感します。
この記事では、「価格改定」という業界に根付く“見えない時間泥棒”の実態と、アナログな因習が根強く残る製造業ならではの課題、さらにラテラルシンキングで見えてくる新たな改善の道筋について、実践的な視点で深掘りしていきます。
価格改定要請が常態化する理由とは?
理由1:急激なコスト変動とサプライチェーンの混乱
近年、原材料や物流コストの暴騰、半導体不足など、かつてないほど不確実性が高まっています。
1年に1度の価格交渉で済んでいた時代は終わり、調達先からの「価格引き上げ要請」が毎月のように舞い込むのが当たり前になってきました。
特に、鋼材・樹脂・電子部品といったグローバル調達比率の高い品目では、数ヶ月ごとに値上げの打診がされています。
理由2:競争力維持と収益確保のジレンマ
バイヤーとしてはコストを抑え、最終製品の競争力を維持しなければなりません。
一方で、サプライヤー側も薄利多売のビジネスモデルから抜け出し、収益を守るため頻繁な価格改定に踏み切るケースが増加しています。
双方の思惑がぶつかり合い、従来の年次定例交渉から、継続的な価格の見直しへと移行しています。
現場では何が起きているか?実態と“消えゆく生産性”
価格改定調整の“泥沼”プロセス
価格改定通知が調達に届いてから、社内で承認を得るまでの手順は想像以上に繁雑です。
まず原価計算部門で値上げの妥当性検証、その後調達部門長・工場長・経理・営業が順に承認フローをたどります。
特に大手メーカーではコンプライアンスや内部統制を重視するあまり、慎重な意思決定が求められます。
この承認プロセスだけで早くて数日、多くの場合数週間を要します。
価格改定のたびに「社内調整会議」
「また値上げか」「なんでこんな価格で承認するんだ」といったネガティブな声が飛び交い、
部門横断的な調整会議が繰り返されます。
本来であれば“価値を生む仕事”に使われるべき時間が、価格改定関連の内部調整でがんじがらめになる現実があります。
私が現場にいたときも、月初の1週間はほぼ値上げ対応に追われ、改善活動や新規取引開拓など優先順位の高い施策が後回しになっていました。
システムがアナログな現場ほど負担が深刻
昭和から抜け出せないアナログな現場では、エクセル台帳、紙による申請書、押印文化が根強く残っています。
各部門間で物理的に書類を回覧しているため、ちょっとした価格変更でも決裁に何日もかかってしまいます。
結局、「現場力」と言いながらも、現場のリソースが“事務作業”で食い潰されているのです。
価格改定頻発で“埋もれる”本質的業務
見えなくなる「戦略的購買」と「サプライヤーとの信頼構築」
日々、価格調整・承認作業に追われていると、バイヤーとして本来求められる役割――
中長期的なサプライヤー開拓や、競争力のある条件の探索、サプライヤーの生産現場を見て改善提案する行動などが後回しになってしまいます。
また、サプライヤー側も短期の価格攻防に終始し、両者の信頼関係が築けにくくなるという弊害も生まれています。
生産性向上への投資が“後回し”
内部調整が常態化すると、プロジェクト型の改善活動への投資も後ろ倒しになりがちです。
例えば、自動化設備やDXによる調達・購買プロセスの効率化に関する企画も「今は目の前の値上げ対応が優先」という理由で進みにくくなります。
製造現場で生まれるイノベーションやトライアルが、価格改定対応に吸い取られてしまうわけです。
アナログ文化が根強いメーカーで生き残るには?
デジタル化・システム化の“本質”を理解する
「アナログのままでは限界がある」「ハンコ文化は生産性の敵」――こんな言葉がDXの流れとともに叫ばれていますが、現場から見れば表面的なデジタル化(紙をPDFにしました、申請をメール受付にしました程度)では根本解決にはなりません。
承認フローの見直し、現場判断の権限委譲、価格改定ルールの標準化など“本質的な業務設計変革”を行わなければ、システムを導入しても摩耗するだけです。
部門を超えた「ロジックと感情」のバランス取引
昭和的な「談合」や「付き合い」だけでは、現代のスピード感に取り残されます。
しかし、すべてロジックで押し通そうとすれば各部門の摩擦が強くなる一方です。
重要なのは、価格改定の根拠が客観的で説明責任を果たせる仕組みと、
部門間の“感情的なしこり”を残さないコミュニケーション、この両輪で業務改善を進めることです。
バイヤーの視点で「提案型」交渉の重要性
バイヤーは、価格改定を単なるコスト増ではなく、業務全体の生産性向上や構造改革の契機と捉える視点が必要です。
「このサプライヤーの値上げは一時的か、構造的か?」「他社比較、代替案は?」といったロジカルな分析に加え、「長期的な取引関係でどんな付加価値が出せるか」という観点からの提案型交渉力が、これからのバイヤーには求められます。
サプライヤーがバイヤーの本音を知るには?
バイヤーの内部調整と意思決定の実情
サプライヤー側から見れば、「なぜ値上げをすぐに承認してくれないのか?」という疑問が湧きます。
実情は、調達・購買部門が社内の複数部門の利害調整に追われ、“本音ベース”では値上げの妥当性を認めているものの、立場上“厳しい姿勢”を見せざるを得ない場合が多いのです。
したがって、値上げ要請の際にはエビデンスや合理的な説明、将来的な取引継続によるメリットを明示できることが信頼関係を築くカギとなります。
“価格交渉”だけでなく“共創”の姿勢を
調達とサプライヤーが「価格だけ」で密な攻防を続けている限り、どちらも生き残りが難しくなります。
価格改定の頻度が高まっている今こそ、協働で生産性向上策を探ったり、技術提案や共同改善プロジェクトを持ち込んだりする“共創”志向が重要です。
現場で感じたことですが、「一緒に課題を乗り越えましょう」という言葉を言えるサプライヤーは、信頼度が格段に上がります。
価格改定の時代に“強い現場”を作るには?
手間を削る内部プロセスの“オープン化”
日々の値上げ調整に現場が振り回されては、未来への投資は進みません。
意思決定プロセスの見直しや、調達から現場、生産管理、経理までが「協働」できるオープンなコミュニケーション体制を築くことが重要です。
週一回の“価格改定会議”ではなく、常時オープンな情報共有チャネルや、案件ごと迅速に決裁できる「権限委譲型」プロセスが必要です。
値上げ交渉に対応“しすぎない”仕組みの構築
根本問題は、「値上げ通知=すぐに社内稟議」の風土を当たり前としないことです。
一定の範囲であれば自動承認、閾値を超えたら初めて稟議、逆に顧客への価格転嫁の迅速化など、ルールとシステムの整合による現場負荷の低減が可能です。
デジタル化するなら、この自動化・省力化ロジックが組み込めるかどうかが、本当のポイントです。
まとめ:価格改定の時代を“変革のチャンス”に
価格改定が頻発する今、「またか…」と無力感に陥る現場は少なくありません。
しかし、表面だけのデジタル化や属人的な調整に終始するか、それともこの混乱の時代を“変革のチャンス”と捉えて新たな地平線を切り拓くかは、現場一人ひとりの意識と行動にかかっています。
バイヤーもサプライヤーも、価格交渉に追われるだけでなく、共創・業務設計の全体最適化へと一歩踏み出しましょう。
現場の叡智と、課題に立ち向かう“当事者意識”こそが、これからの製造業における最大の武器となるはずです。
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