システム更新が頻発し追加費用が増える課題

システム更新が頻発し追加費用が増える課題

製造業の現場において、今や切っても切り離せない存在となっている生産管理システムや調達購買システム。これらIT化の波自体は決して新しいものではありませんが、こと現場のリアルな運用に目を向ければ、いまだ“昭和的アナログ企業文化”が根深く残る一方で、システム更新やバージョンアップによる追加費用の負担が年々増加しています。この課題を放置していては、利益の圧迫、ひいては競争力の低下へとつながりかねません。

そこで今回は、システム更新が頻発する根本原因と解決策、さらにバイヤーやサプライヤーの立場から捉えるべき視点も交え、現場目線で実践的に解説します。

なぜシステム更新が頻発するのか？その背景

1. ビジネス環境の変化とルール改訂

製造業は絶えずビジネス環境が変化する業界です。

顧客ニーズや法規制の変更、新しい調達先の追加、品質管理の厳格化などが日々発生します。

その度に運用ルールは見直され、システムも柔軟に対応する必要があります。

この現場発の“ちょっとした仕様変更”の積み重ねが、頻繁なシステム更新の一因となっています。

2. システム導入初期の要件定義不足

現場のリアルな運用まで深くヒアリングせず、表面的・標準的な運用フローでシステム要件を定義してしまう。

これにより導入当初から「想定外機能」「現場にフィットしない画面」「マスタ登録が煩雑」などの不満が生じ、稼働後に絶えず改修・追加対応を要求されることになります。

実際、ある大手自動車部品メーカーでは、システム導入1年目で15回以上のカスタマイズ依頼が発生した事例もあります。

3. サプライヤー依存とブラックボックス化

自社内でIT人材をほとんど育成できておらず、システムベンダー頼みの企業文化。

その結果、細かな仕様変更でも高額な改修費用が発生し、費用感も「言い値」になってしまいがちです。

また、内製化や運用マニュアル整備を怠ると、システムがどんどんブラックボックス化。

「誰も中身が分からない」→「更新のたびに追加費用」という悪循環が起こります。

追加費用が膨らむ主な原因

1. 保守契約の内容不十分

“基本保守”にはバグ修正や小規模なトラブル対応しか含まれず、仕様追加や法令対応といった「運用発の仕組み変更」は別契約（都度見積もり）が一般的です。

長年運用すればするほど、細かな「例外対応」の多発により追加開発費が膨らみます。

2. クラウド/パッケージ化での「外部依存」

近年、クラウド型のERPやパッケージシステムが普及しています。

これらは汎用機能はリーズナブルに使えますが、自社独自仕様となると「追加カスタマイズ費」が想像以上に高額化します。

そのうえ、アップデートや法改正対応料として毎年保守料・サブスクリプション費用が自動的に値上がりしがちです。

3. 「将来像の描き不足」とパッチワーク化

先を見据えた全体最適よりも、「目先の困りごとを個別改修で穴埋め」的な運用に陥ると、システムがパッチワーク状態になり、複雑化・手戻り多発を招きます。

追加工数や仕様確認・テスト負担も増え、トータルコストが爆発的に膨れ上がります。

現場目線で考えるシステム更新費用抑制の具体策

1. 要件定義は「現場密着＆将来志向」で

現場ヒアリングを徹底し、「実際に誰がどんな手順で使うのか」「約5年～10年でどんな運用変化が起こり得るか」を見越した要件定義を行うことが重要です。

現場リーダー層を巻き込み、“属人的な運用フロー”や“例外対応”がどの程度発生しているかを事前に洗い出すことで、後からの追加費用を大きく抑制できます。

また「将来的にはこの業務は縮小する」「デジタル技術で自動化可能」といった中長期像も議論に取り込むことがポイントです。

2. 追加費用の発生条件をベンダーと明確化

保守契約・開発契約時に、「どういったケースが保守範囲内で、何が別料金となるのか」、また「見積単価（人日単価）や費用算出根拠」をはっきりさせておくこと。

短納期・突発対応の値上げルールや、年次アップデート費用の上限・交渉条件も初期契約時点で交渉すると良いでしょう。

3. 内製・セルフメンテナンス力の強化

キーとなる担当者をSIerやベンダーの現場研修に送り込み、社内でも基本的な設定変更・データメンテナンスは内製できる体制づくりを推進すること。

「他部門のサブ業務を寄せ集めた情報システム部門」ではなく、「現場の困りごとを一人称で解決できる少数精鋭」内製チームを育成することで、追加費用を圧倒的に抑えられるようになります。

4. シンプルな標準化主義へのシフト

「うちの現場では過去からこうやってきた」という業務の慣習や個別最適を見直し、カスタマイズ依存から脱却することも大切です。

標準的な業務パターンを軸に組織ごとシンプル化することで、以降のバージョンアップ・新規機能対応の追加費を極限まで下げることが可能です。

5. データドリブン経営で“費用対効果”を見える化

「システムにこれだけ手間や費用がかかっている」という現場感覚でのコスト把握ができていない経営層もまだ多いのが現実です。

現場の工数と追加費用（メンテナンス費・カスタマイズ費）を定期的に集計し、「費用対効果が本当に見合っているのか」「最新のベンダー比較価格はどうか」を経営会議レベルで可視化しましょう。

その上で次世代のシステム投資・運用方針を決めることが重要です。

サプライヤー・バイヤーの視点：提案型パートナーシップの重要性

バイヤー（システム発注側）の心得

発注時には「追加コスト発生の予兆」に敏感になることが大切です。

システム仕様書・RFPを自社の“理想像”だけで書くのではなく、必ず現場担当・ITベンダーと三者対話の場を設け、現実的な運用シナリオでの不明点や曖昧部分を一つひとつ潰していきます。

さらに「5年後も使える仕様か？」「将来のAI自動化やIoTとどう連携しうるか」など、長期視点も持ちましょう。

サプライヤー（ベンダー・開発パートナー）の心得

旧態依然とした「言われたことだけやる御用聞き型」から脱却し、追加費用・システム更新が本当に必要かどうかまで顧客にズバリ提案できる“共創型パートナー”を目指すべきです。

例えば、
– このカスタマイズは現場運用フロー自体を見直せば要らなくなりませんか？
– 逆に、社内ルールの一部をシステム側に合わせてもらえますか？

といった「一歩攻め込んだ」提案で、顧客のトータルコスト低減に貢献できれば、信頼関係も強まります。

昭和のアナログ業界から脱却するヒント

いまだ“紙の帳票”や“エクセル集計”“現場エース依存”が色濃く残る製造現場。

こうした昭和流の風土ゆえ、システム更新で路頭に迷ったり、ベンダーにお金を吸い取られたりしがちです。

しかし、「現場主導で業務フローをデジタル基準にリデザインする」「自走できるリテラシー教育を社内で根付かせる」など、小さなテコ入れから始まります。

決して一朝一夕には仕組化できませんが、「アナログからの脱皮＝追加費用との戦い」だという視点を共通認識にし、全員が一丸で改革に取り組むことが、これからの製造業の競争力を決するカギとなるでしょう。

まとめ

システム更新頻発と追加費用増加という課題は、単なるIT運用上の“コスト問題”で済むものではありません。

その根底には、「業務とシステムの最適な融合」や「現場力の底上げ」「パートナーとの共創姿勢」といった、製造業経営の本質的な課題が潜んでいます。

バイヤー・サプライヤー問わず、現場目線で本質を見極め、ラテラルシンキングで深掘りしながら、追加費用発生の連鎖を断ち切る挑戦を始めていただきたいと思います。

そうした積み重ねが、日本のものづくり現場を一歩先の地平へと導く強力な原動力となるはずです。