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摩擦摩耗メカニズム解析と耐摩耗材料選定によるトラブル解決

目次
はじめに:摩擦と摩耗の本質を正しく理解する
摩擦、そして摩耗――これらは製造業の現場で避けては通れないテーマです。
部品や設備の寿命、製品不良、突発的なトラブルは、往々にして摩擦や摩耗現象が絡んで生じます。
昭和時代からのアナログな現場では「油をさせば大丈夫」「固い材料に変えれば長持ちする」という単純化されたノウハウが根付いています。
しかし、複雑化・多様化する現代の生産現場では、このような表層的な対応だけでは問題解決に至りません。
現場に根ざした知見と最新の解析技術による摩耗メカニズムの深掘りこそが、真の“トラブルレス生産”への近道です。
本記事では、摩擦・摩耗の基礎知識から、トラブルの真因追究、耐摩耗材料の最適選定、そして業界の最新動向とトレンドまで、現場に即した目線で徹底解説します。
摩擦・摩耗トラブルはなぜ発生するのか?
摩擦と摩耗、それぞれのメカニズムとは
摩擦は、固体同士や固体-流体の接触部で運動を妨げる力です。
摩耗は、その繰り返しによる材料の損失そのものを指します。
現場でよく見られる摩耗現象には、下記のパターンがあります。
・アブレージョン(こすり摩耗)
・アドヒージョン(焼き付き摩耗)
・疲労摩耗(繰り返し応力の蓄積によるはく離)
・腐食摩耗(潤滑油切れや錆による劣化)
「うちは何でも焼き付きが多い」「この部品だけすぐ減る」と、定性観察で対処している現場も多いですが、摩耗の種類により対策法はまったく異なります。
例えば、焼き付き摩耗が主因であれば、表面に付着した生成物や素材同士の親和性が要因かもしれません。
アブレージョンが多発する場合、硬さのアンバランスや異物混入が影響している可能性が高いです。
アナログな現場で見過ごされがちな“隠れ要因”
古くからの現場では、設備や部品の「異音」や「キズ」によってトラブルの発生を直感的にアラートします。
しかし、なぜ同じ部品で一方では摩耗が早く、他方ではそうでないのか。
製造条件・材料ロット・取扱い・隠れた外乱――複雑な因子が絡み合う「摩耗の多面性」を見落とすと、場当たり的な処方箋では根治が難しくなります。
製造現場でありがちな“昭和的運用”が、データやメカニズムに基づく根本対策を遠ざけているのです。
摩耗の真因を科学する――現象を分解して考える
摩耗現象の四面体モデルで整理する
摩耗メカニズムの解明には、「接触・運動・潤滑・環境」の4要素を多面的に分析する必要があります。
例えば、「部品材質を変えたが、摩耗抑制に繋がらなかった」という現場の悩みは、この4つの観点が全て改善されていない可能性が高いです。
1. 接触:材料同士、または材料と異物との接触状態
2. 運動:回転、摺動、衝撃など応力負荷のかかり方
3. 潤滑:潤滑油の種類・供給・保持の安定性
4. 環境:温度、湿度、腐食要因など周辺環境
この切り口でデータ収集や現場観察を行うことで、摩耗の真因に迫ることができます。
トラブル対策事例:分析からアクションへ
実際の現場でよくある一例をご紹介します。
「搬送ガイドレールの摩耗が激しい」という相談を受け、四面体モデルで要素分解します。
・接触:レールとワークの材質、および表面粗さ
・運動:ワーク投入時の振動衝撃や横方向荷重
・潤滑:グリスの給油頻度とその漏れ、飛散
・環境:切削油のミスト、温度上昇
実査により、グリスの堆積による摩耗粉の目詰まり→部分的な潤滑不全→焼き付き摩耗が進行していると特定。
単なる材質強化や潤滑油変更ではなく、グリス回収・清掃の定期工程と、断面設計の小改良で飛躍的に長寿命化に繋がりました。
耐摩耗材料の選定:何をどう考えるか
代表的な耐摩耗材料の特徴と選定ポイント
摩耗対策の王道ともいえるのが、接触部品の材料強化や材料変更です。
ただし、「硬い=摩耗しない」という短絡的な思い込みは落とし穴です。
実は、摩耗状況によりベストな材料も異なります。
主な耐摩耗材料例と特徴を整理します。
・焼入れ鋼(SK材、SCM材など)
耐磨耗性・強度バランスが良く、コストもリーズナブル
・高速度鋼(HSS)
高温耐性・高硬度にすぐれるが、脆性あり
・セラミックス(アルミナ、ジルコニアなど)
非金属ならではの化学安定・耐腐食性。ただし脆い
・超硬合金(タングステンカーバイドなど)
極めて高い耐摩耗性と硬さ。ただし被加工難度が高い
・樹脂(POM、PEEKなどエンプラ系)
自潤滑性・軽量メリットあり。ただし耐熱・耐衝撃は限定的
・表面処理(浸炭、TiNコーティングほか)
低コストで表面改質、摩耗部だけ強化できる
これらのどれを選ぶべきかは、現象の見極め(焼き付き型か、アブレージョン型か)、運用条件、コスト要求など総合的な現場最適化が求められます。
失敗しない材料選定の実践プロセス
では、どうすれば失敗せず最適な材料を選べるのでしょうか。
重要なのは“ラテラルシンキング”、つまり「多角的・横断的」に条件整理し、時には定説を疑うことです。
1. 既存材の性能限界(寿命、摩耗発生パターン)を正確に把握
2. 摩耗要因を四面体モデルで分解
3. 摩耗粉の成分/断面観察――焼け、剥がれ、変形の状況
4. 素材変更だけでなく、設計/潤滑/清掃/運用もセットで考える
5. サプライヤー・メーカーと連携し試作/評価を繰り返す
「何か別の材料で」「どこかでいい事例ないか」ではなく、自社の現場条件にどれほど適応するか?という姿勢が本質的です。
デジタル化、自動化時代――摩耗トラブル対策の新潮流
データ駆動型の摩耗モニタリング
近年、IoTセンサーやAI解析技術が飛躍的に進化しています。
摩耗の予兆を検知するため、設備の動振計測やトルクセンサー、温度センサー、画像解析などを活用する現場が増えています。
これにより「止まってから調べる」ではなく、「異常兆候を早期検知し、未然対策・最適整備サイクルの実現」が可能になりました。
加えて、摩耗部品の交換時期最適化、省人化・自動化への布石といった副次効果も現れています。
昭和的“勘と経験”からの脱却
摩耗・摩擦の本質解析は、人の感覚や経験則の蓄積が大きな力を持ちます。
しかし、それだけにとどまっていると設備の多様化・生産品種の増加には追従できません。
データ連携やAI活用により、蓄積ノウハウの形式知化・属人化脱却が大きなテーマとなっています。
製造現場は「ハイブリッド型知見」に進化しています。
すなわち、「現場経験×数値的・科学的裏付け」が両輪となる時代です。
バイヤー・サプライヤー間で求められる共創力
“バイヤーの眼”から見る耐摩耗材調達の真意
バイヤー(調達購買担当)は、単なる価格交渉以上に、設備保全や生産効率・品質安定までの大局観が求められます。
長寿命化と低コスト化、互換性確保、サステナビリティ要件など、多様な観点から材料選定を進める必要があるのです。
じっさいには下記のような観点で提案力が評価されます。
・実働現場の摩耗状況・トラブル要因への理解
・材料の価格・性能だけでないQCD(品質/コスト/納期)のバランス
・リスク(トラブル未然防止、部品共通化、在庫圧縮)への配慮
バイヤーがサプライヤーに材料選定や改善提案を求めるとき、「正しく摩耗現象を分析したうえで、現場に即した多面的な解決策」が最も高く評価されるポイントです。
サプライヤー側から“想像力”ある提案を
サプライヤーには、「バイヤーは現場トラブルの本質的な解決策を探している」というマインドが極めて重要です。
新材料の提案だけでなく、摩耗メカニズムの解析・評価から関与し、共に最適案を模索するパートナーシップ姿勢が今後ますます価値を持ちます。
単なるスペック比較ではなく、現場課題・現象分解・リスク抽出・将来展望まで視野を広げた提案が、長期的な信頼関係を築くカギです。
まとめ:摩擦摩耗への“深い理解と多面的対策”が生き残りの鍵
摩擦・摩耗のトラブルは、製造業現場において「宿命」とさえ言えます。
しかし、伝統的な対処療法・場当たりの材料選定にとどまるだけでは、本質的なトラブル解決には至りません。
現象の多面性(四面体モデル)、材料特性・現場条件のマッチング、最新技術活用による根本原因解明がますます重要になります。
製造現場の方、調達購買担当を志望する方、材料メーカー・サプライヤーの皆さま――
それぞれの立場から摩耗メカニズムを“深く分解”し、最適解を共に追求する時代です。
昭和時代的な「経験と勘」に、デジタルの知見とラテラルな発想力を掛け合わせ、「現場目線の真因追求力」を武器に躍進していきましょう。
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