地元企業が“見た目の良さ”より“使われる価値”を追求するための思想転換

はじめに――「見た目の良さ」から本当に必要な「使われる価値」への視点転換

日本の製造業、特に地方に根付いた地場企業では、古くから「見た目の良さ」や「丁寧な仕事ぶり」が美徳とされてきました。
それ自体に疑問の余地はありませんが、デジタル化の波やサプライチェーンのグローバル化、そして顧客ニーズの多様化が急速に進む令和の時代、「本当に顧客から求められる『使われる価値』とは何か？」という問いに、改めて深く向き合う必要があります。

私は20年以上にわたり製造業の現場で調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化に携わり、管理職として数多くの現場改善に取り組んできました。
その経験を踏まえ、「なぜ見た目の良さを重視してきたのか」「なぜこれから“使われる価値”への転換が鍵となるのか」、その答えを実践的な視点から紐解きます。

見た目主義からの脱却――昭和から続く“丁寧なものづくり”の落とし穴

“丁寧なものづくり”が生んだ現場の意識と課題

私たち日本のモノづくりの現場は、「とにかく見た目がきれいで丁寧であること」に強い価値を置く文化が深く根付いています。
たとえば溶接のビード（溶接跡）がまっすぐでなければ“やり直し”、微細な傷であっても「お客様にご迷惑をかけるかもしれない」ということで、再仕上げや手直しが当たり前でした。

ときには「現場監督（リーダー）の目が厳しすぎる」「小さな失敗も許されない空気が重い」など、職場の雰囲気もピリつきがちです。
その根っこには、「見た目の良さこそが品質の証明」という意識が色濃く存在してきました。

しかし、そこに大きな落とし穴があります。
「見た目が美しいこと」だけでは、お客様が実際に使う場面で本当に求めている価値——たとえば「長く安全に使える」「簡便でトラブルが少ない」「必要な機能が過不足なくそろっている」といった本質的な価値——を見逃してしまいがちなのです。

時代遅れになる“見た目重視”の危険性

グローバルで戦う時代、世界のビジネスパートナーは「コスト」「性能」「納期」など、トータルでの“使われる価値”を重視しています。
過度な見た目主義は、時に本来必要のない手間や時間、コストを生み、「無駄なこだわり」と評価されかねません。

また、デジタルの時代には製品の供給スピードや柔軟な仕様対応、保守メンテナンスのしやすさなど、「使う場面」での価値が重視されつつあります。
ここに対応できない会社は、「品質はいいはずなのに選ばれない」というジレンマに陥るケースが目立っています。

“使われる価値”を最大化する転換思想とは

“価値”の定義を見直す――「誰が」「どこで」「どう使うか」への問い直し

「使われる価値」とは、製品やサービスが実際に使われる場面でいかに顧客の問題解決に役立つか、その“価値の伝わり方”までを指します。
従来の「見た目がきれいであること」は、あくまで“価値の一要素”に過ぎません。

ここで大切になるのは、「自分たちが誇る丁寧さの裏に顧客が本当に求めている価値がちゃんと組み込まれているか？」と深く立ち返ることです。

昔は「とにかく傷ひとつない製品を作れ」と上から下まで厳しく指導したものですが、今は「この工程の手間は本当にお客様の役に立つのか？」「溶接跡よりも耐久性やメンテナンスのしやすさが重視されないか？」など、顧客目線、現場での“使われ方”を問い直す癖をつけるべきでしょう。

現場へのフィードバックと“ラテラルシンキング”の実践

ここで重要なのは、現場から上がってくる声や不具合報告、納品後の改善要望を、とことん掘り下げてみることです。
単純に「次回からもっと丁寧に」と表面的に修正指示を出すのではなく、「なぜこの仕様で問題が出たのか」「どんな状況で不便が生じたのか」など、現場や顧客の声を水平的（ラテラル）に多角的に分析する姿勢が不可欠です。

私の経験では、「見た目が良くても現場作業者がメンテしづらい」「部品交換が工具なしで出来ると助かる」「梱包を簡素化して欲しい」といった、見た目には分かりにくい“使い勝手”こそ真の改善点である場合が多くあります。
一つの価値観に縛られず、複数視点から製品やサービスの価値を見直すラテラルシンキング＝水平思考の導入が、これから求められます。

現場が変わる！“使われる価値”追求の具体的アプローチ

1.サプライチェーン上流（バイヤー）の求めるものを知る

調達側のバイヤーは、今まで以上に「コストパフォーマンス」「サポート体制」「イレギュラー対応」など機能全体での価値を評価しています。
品質が良いのは前提で、「トラブル対応のスピード感」「納期厳守の信頼」「いざという時の柔軟さ」を重視する傾向が明確です。

地元メーカーの現場がこれらバイヤーの視点を深く理解し、自社体制の改善サイクルに組み込むことで、「見た目だけ」から「トータルで信頼されるサプライヤー」への進化が促されます。

2.サプライヤーの立場だからこそ現場の問題を積極的に伝える

多くのサプライヤーは、お客様（バイヤー）の指示や仕様書に黙々と従う傾向が強いです。
しかし近年は「現場でしか気付けない問題」や「効率化の提案」が高く評価されるケースが増えています。

たとえば「この工程を見直せば納期短縮とコストダウンが可能になる」という現場発の提案は、今やパートナーシップ強化の武器です。
自分たちの目線＝“現場のリアル”を、臆せずバイヤーにぶつけてみましょう。

3.使い手との距離を縮め共創型開発を進めよう

「使う人の生の声」を現場で吸い上げ、開発や改善にダイレクトにつなげる姿勢も不可欠です。
工場の自動化やIoTが進む昨今、使い手の働きや安全に直結する機能やサービスほど現場ならではの知見が光ります。

町工場や地元企業ならではの“小回りの良さ”を活かし、ユーザーとの共創開発やアフターフィードバックの仕組み強化に積極的に取り組みましょう。

守るべき「ローカルの哲学」と、変えるべき「使われる価値」への投資

変えてはいけない“作り手の誇り”と“オリジナリティ”

「何十年も磨いてきた現場のノウハウ」「手間を惜しまない職人の思い」など、ローカル企業には他にはない強みがあります。
これら「作り手の誇り」「仕事への責任感」は変えてはいけません。
むしろ、こうした哲学や姿勢に“使い勝手”や“実用性”の視点を掛け合わせてこそ、製品の独自性や企業の魅力がさらに光るのです。

“使われる価値”への投資は「値下げ」とは違う

「価値に見合った価格をしっかり取る」ことも、今後強く意識すべきポイントです。
無理なコストダウンや見た目主義による過剰な工程追加からは脱却し、「使って初めて分かる便利さ」や「万一の時のサポート力」にしっかり投資しましょう。
適切な値付けと価値説明ができれば、お客様との関係性も深化し、価格競争から脱却することができます。