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単価のみに注目され品質・納期の重要性が理解されない嘆き

目次
はじめに:製造業における単価至上主義の弊害とは
製造業の現場で長年仕事をしてきた経験から、一つだけ声を大にして言いたいことがあります。
それは、「単価だけに目を奪われてしまうと、品質や納期という本質的な価値を見失ってしまう」という事実です。
サプライヤーはもちろん、バイヤーや設計、生産管理、品質管理など、多くの関係者が「コストダウン」を至上命題として掲げます。
確かに価格競争が激化する現代において、原価低減は企業活動に不可欠な要素です。
しかし、コストダウンの追求が行き過ぎるあまり、品質面や納期の信頼性が損なわれてしまう現場を何度も見てきました。
本記事では、製造業の調達購買や工場の運営現場で生じている「単価至上主義」の実態、その背景事情、そして納期・品質重視こそが中長期的な企業価値向上に繋がるという視点を、現場目線で解説します。
現場の実態:なぜ単価だけに注目されてしまうのか?
短期的な利益追求が生む「見せかけのコストダウン」
大手製造メーカーでは、経営層から「毎年3%の原価低減」といった厳しい目標が課されます。
管理職、部課長、バイヤーもその数値目標にこだわらざるを得なくなり、とにかく「調達単価が安いサプライヤー」が自動的に評価される文化が根付いてしまっています。
そもそも単価という指標は非常に分かりやすく、数値として比較しやすいという特徴があります。
これが「短絡的なコストダウン競争」を生みます。
例えば、部品単価を5円削減した実績は経営会議資料に華々しく載りますが、その裏で品質不良や納期遅延による隠れコストが発生していても、数字に表れにくい現実があります。
調達現場で起きている実際のエピソード
私は現場責任者として調達購買や生産管理部門を長年監督してきました。
その経験の中で、「価格優先で決められたサプライヤーからの部品が、納期遅延や品質トラブルで稼働停止につながった」事例や、「不良品率が高く結局手直し費用や現場混乱による機会損失が増大した」ケースを幾度となく見てきました。
そのたびに「安さ」にだけ注目する会議体の空気に、現場目線の意見がなかなか通らないという虚しさと危機感を覚えていました。
昭和型マネジメント文化の残滓
多くのメーカー工場では今なお、上意下達・数値目標偏重の「昭和型マネジメント文化」が色濃く残っています。
「安ければ何でもいい」「トラブルは現場で何とかしろ」という精神論が根強く、真に中長期的な視点での調達パートナーシップやサプライチェーンの最適化が遅れています。
単価至上主義のリスクとは何か?
品質軽視による致命的損失リスク
価格だけでサプライヤーを選ぶ「単価主義」は、一見企業にコストメリットをもたらしているように見えます。
しかし実際は、納入品に不備やバラツキ、初期不良などが発生するリスクが高まり、リコールやクレーム対応、再検査、手直しなどの「隠れコスト」が発生します。
重大な場合は製品事故や信頼失墜に発展し、企業全体に計り知れない損害を与えることさえあります。
納期遅延が生む生産ロスと顧客クレーム
また、単価重視で選定した結果、サプライヤーの体制が十分でなく、納期遵守率の低下やサプライチェーン途絶といった問題が頻発します。
その影響で工場のラインがストップしたり、顧客への納品が遅れてクレームやペナルティの対象となったりします。
こうした「目に見えないコスト」は、経営資料には現れにくいものの、現場を預かる管理職としては深刻な頭痛の種です。
サプライヤーとの信頼関係悪化
不当に価格だけで値切られ続けたり、契約条件が一方的に変更されたりすると、サプライヤー側のモチベーションや品質管理意識が低下します。
その結果、とりあえず毎回ギリギリのコストで納品し、もうかならなければ撤退、といった悪循環に陥ります。
価格だけの「取引相手」になってしまえば、困った時に力になってもらえる「共創パートナー」にはなれません。
なぜ単価以外の視点が必要なのか?
トータルコスト(TCO)という考え方
製造業先進国では、調達先評価において「単価」「品質」「納期」以外にも、「サービス力」「柔軟性」「過去の対応履歴」などの多様な観点を重視するようになっています。
特に近年では「TCO(Total Cost of Ownership)」――調達によって発生する全コスト――の最適化こそが企業価値を左右するという認識が浸透しはじめています。
たとえば単価が安くても、
・初期不良率が高い
・納期遅延が多い
・流動的な設計変更に対応できない
・取引のたび人件費や管理費が増大する
などのマイナス要素があれば、総合的なコストはむしろ高くなる場合がほとんどです。
「柔軟性」「協調性」こそ新時代のサプライヤー価値
近年のサプライチェーンリスク(自然災害、パンデミック、半導体不足、地政学リスク拡大など)を考えると、単価以外にも「BCP対応力」「緊急時の臨機応変な対応」などがサプライヤーに期待される新たな価値となっています。
単なる値引き要員でなく、「このサプライヤーなら製品品質も納期も信頼できる、非常対応も迅速だ」といった本質的な信頼関係の構築が、これからの製造業競争力の鍵となるのです。
バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場から見た「本音」
バイヤーとしての苦悩と葛藤
バイヤーの立場に立てば、経営層からは常に厳しいコストダウン目標が課され、少しでも高単価のサプライヤーを使うと「なぜ高いのか?」と詰問されるプレッシャーがあります。
本当は「これだけの品質や納期対応力を考えると、むしろ安い」「代替不可の技術力がある」と分かっていても、社内会議で説得材料として活かしにくいという苦悩があります。
バイヤー自身が「単価一辺倒ではいけない」と分かっているものの、評価指標や予算制度、周囲の空気によって「仕方なく単価優先せざるを得ない」という現実も根強いでしょう。
サプライヤーの本音:なぜ安値競争に消耗してしまうのか
一方、サプライヤーの立場に立つと、本当は安値受注によって品質管理や納期対応に十分なリソースを割けない苦しい胸の内があります。
「値段だけで比べられ、その後の手間や信頼の積み上げが反映されない」
「無理な要望に応えても、次の調達で容赦なく切られてしまう」
といった徒労感や不安がつきまとうケースも少なくありません。
価格だけでなく、技術力やサービス、納期遵守・BCP対応など、総合力で評価してくれる「パートナー調達」を望んでいるサプライヤーが多いのが実情です。
どうすれば単価以外も評価されるのか?これからのバイヤー・サプライヤー共創のヒント
社内で「トータルコスト視点」の重要性を啓蒙する
まずはバイヤーや現場マネジメント層が「安さ」に潜むリスクや、品質・納期重視の重要性を論理的に発信することが不可欠です。
単なる「価格重視」の調達評価表から、「TCO視点」「納入実績・対応履歴」を加えた多面的な評価指標を導入しましょう。
実際に「安値で発注した部品の後始末に掛かったコスト」や「優良サプライヤーがもたらした現場支援の事例」を可視化・数値化して経営陣に報告することで、社内文化を少しずつ変えていくことができます。
サプライヤーと現場レベルの対話を重視する
どうしてもバイヤーは契約条件や価格交渉ばかりが仕事になりがちですが、工場見学や技術者同士の対話を通じて積極的に現場を知る努力が大切です。
「どこまでが許容コストか」「納期遅延の真因は何か」「品質リスクに対してどんな努力をしているか」など、表面的な単価比較では見えない本質的なパートナーシップ構築を目指しましょう。
デジタル化による情報の見える化・標準化
IoTやERPなど工場自動化・調達デジタル化の波も、単価依存からの脱却を後押しする材料です。
業務プロセスをデジタル化することで、納入実績や品質トラブル、納期遵守率、協力姿勢などをデータとして蓄積し、「見える化」できます。
こうした客観的指標があれば、価格以外も加味した合理的なサプライヤー選定や、継続的な改善活動がしやすくなります。
まとめ:本質的な価値創出の時代へ――単価だけでなく、真のパートナーシップを
製造業の調達現場で「単価だけを重視する文化」に嘆く声は少なくありません。
しかし今、サプライチェーンの複雑化や企業間競争の激化を背景に、単なるコスト削減では乗り切れない新たな時代へと移りつつあります。
「安物買いの銭失い」に陥ることなく、品質・納期・サービス・BCP対応力など、総合力で価値を評価するパートナーシップへと舵を切ることが、製造業全体の競争力向上に不可欠です。
バイヤーもサプライヤーも「共創」に向けて、現場目線の対話・数字に見えない価値の掘り起こし・既存の評価軸変革に取り組み、真の競争優位を築いていきましょう。
今こそ、単価主義からの脱却を。
私たち現場OBこそ、次世代に伝えるべき「現場の真実」なのです。
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