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調達業務がブラックボックスだと言われることへの苛立ち

目次
はじめに:調達業務の「ブラックボックス」批判に思うこと
調達部門は企業活動の基盤を成す重要な存在です。
それにも関わらず、「調達業務はブラックボックス」「何を考えて動いているか分からない」といった批判や疑問をしばしば耳にします。
これに対し、現場で20年以上調達を経験した私としては、苛立ちとともに、「なぜ未だに調達がブラックボックスと言われるのか」「根源にある業界の本質的課題は何か」を深く考えずにはいられません。
本記事では、製造業現場のリアルな視点を交え、業界の慣習や構造、変化しつつあるトレンドとともに、調達業務の“見えない部分”の正体を掘り下げます。
調達バイヤー志望の方や、サプライヤーとしてバイヤーの思考を読み解くヒントにしていただければ幸いです。
調達業務とは何か:本来の役割とミッション
製造業における調達部門の地位と機能
調達部門の主な仕事は「必要な時に、必要な品質・数量の資材・部品・サービスを最適なコストで確保する」ことです。
適したサプライヤーを選定し、見積・契約、納期・品質管理、さらにはコストダウンまでも担います。
実際の働き方は多岐にわたり、各現場の生産計画や設計変更、在庫状況、品質異常への即時対応なども求められます。
この範囲の広さこそが、調達担当者の腕の見せ所であり、同時に外部からは“何をしているか分からない”ように映る要因でもあります。
調達業務の価値と責任
調達の善し悪しは企業収益を直撃します。
優れた調達は競争力の源です。
品質、コスト、納期(QCD)を高次元で維持しながら、サプライチェーン全体のリスクマネジメントもこなさなければなりません。
少数精鋭が多い調達部門では、“見えにくい調整業務”や意思決定が集中します。
結果的に、内実を細かく知らない部署やサプライヤー側には「ブラックボックス」と映りやすいのです。
なぜ調達業務はブラックボックスだと思われるのか
守秘義務・利害関係・透明性のジレンマ
調達における“ブラックボックス感”の背景にはいくつかの事情があります。
まず第一に、商談情報・原価情報は極めて機密性が高く、社内外の多くの関係者から厳重に守る必要があります。
また、コストを巡る社内外の利害関係や力学、時に政治的な駆け引きもしばしば生じます。
こうした状況で、あまりに調達情報がオープンになりすぎると、企業競争力やリスク管理上不都合が生じるため、ある程度の“閉鎖性”が意図的に組み込まれているのです。
昭和的な業界慣習とDX遅れの影響
加えて、製造業には昭和時代から続く根強いアナログな商習慣やカルチャーがあります。
「取引先とは直接会ってナンボ」「電話とFAXが未だ主流」「紙サインや手作業の調整」などが、今も多くの現場に根付いています。
情報共有や見える化のデジタル化(DX)は遅れており、サプライヤー・他部門との情報格差がブラックボックス感を生む温床となっています。
これは現場目線で言えば、「やるべき仕事を確実かつ早急に処理するためのローカルルール」「無駄なトラブルを避けるための暗黙知の蓄積」とも言えるのですが、現代のグローバルなビジネス環境にはそぐわなくなりつつあるのも事実です。
バイヤーとして感じる苛立ちと葛藤
信頼されたい、だけど守るべきものがある
私自身、工場長・調達バイヤーとして多数のプロジェクトを牽引してきました。
常に痛感したのが、「社内外から信頼され、協力して進めたい」という願いと「守秘義務や企業方針ゆえに情報開示に限界がある」という現実の板挟みです。
たとえば新規プロジェクト立ち上げ時、「なぜそのサプライヤーを選んだのか」「もっと安く・早くできないか」という質問が必ず飛んできます。
根拠は社内会議で厳密に検討されていますが、関係者に詳細を説明しすぎるとサプライヤー情報漏洩や価格交渉力低下のリスクがあります。
最適解は「必要最小限、かつ誠実に説明する」ことですが、外部から見れば「どうせ裏があるんだろう」という猜疑心を完全に払拭できないのです。
現場の実態とサプライヤーとの協業難
さらに、サプライヤー側から見れば「何を基準に評価・選定されているのか分からない」「価格以外の所で何が重視されているのか不明確」など、不信感や不透明さが根強いのも事実です。
これは調達部門としても本意ではありませんが、気安く情報共有できない制度的・文化的な縛りが強く作用しています。
また、現場実態として、短納期・コストダウン・急な設計変更など、調達担当者が一方的に被るプレッシャーも膨大です。
調達担当者自身が疲弊し、より閉鎖的になりやすい悪循環も昭和型業界によく見られます。
業界に根付く慣習とその限界
「ガラパゴス化」と呼ばれる日本製造業の弊害
日本の製造業界は、独自の商習慣や現場オペレーションに強みを持つ反面、「ガラパゴス化」と揶揄されるほど、外部との情報連携や標準化が遅れています。
例えば
– 「見積はエクセルで手直し」
– 「原価は担当者だけが知る絶対機密」
– 「稟議・回覧には紙サインが必須」
など、デジタル化や標準化を阻害する要素が多く、調達バイヤーの仕事の属人化とブラックボックス化に拍車をかけています。
変わる調達観、世界の新潮流
グローバルで見ると、調達は「サプライヤーと共に価値を生み出す協創パートナー」へと役割が変わってきています。
欧米ではサプライヤーとリスクやノウハウ、利益をシェアし、オープンな情報共有こそが競争力となる時代に移行中です。
調達部門のDX化、サプライチェーンプラットフォームの導入、AIによる予測購買やサプライヤーマネジメントなど、日本企業にも大きな変革の波が押し寄せています。
調達業務の“見える化”とその現実的なステップ
まずは“なぜブラックボックス化するのか”を言語化する
表面的な「開かれた調達」を目指す前に、「なぜブラックボックスにならざるを得なかったのか」を現場主体で言語化することが大切です。
調達には“表から見える仕事”と“絶対に可視化できない秘匿業務”、“社内稟議や企業体質が絡む非効率業務”など、複雑な事情があります。
過去からの慣習、経営リスク、担当者保身だけでなく
– 「本当に会社全体の価値を高めるためどこまでオープンにするか」
– 「どこが既得権益となっているか」
を現場視点で可視化することから、変革の糸口が生まれます。
現場主導による情報開示とサプライヤー連携
例えば、以下のような実践的な取り組みが効果的です。
– サプライヤー向けに「評価基準の一部を開示」「年に1度の施策説明会を開催」「現場工場の視察会」など、部分的な透明化を進める
– 社内部門にも「調達がどこに苦労しているか」「こうなればもっと早く安くできる」など具体例を示し、“属人化”を未然に防ぐ意識醸成
– 市場価格情報や景況感、リスク動向も「バイヤー個人の知見」ではなく、部門全体で共有する
こうした「一部見える化」が、ブラックボックス批判を減らしつつ、本来の守るべき企業競争力も失わない現実解になると考えています。
これからの調達バイヤーに求められるもの
コミュニケーション力と全体最適視点
今後の調達バイヤーには、価格交渉や法務知識だけでなく、
– 部門横断的な情報共有力
– サプライチェーン全体を俯瞰するリスク感度
– 既成概念に囚われないラテラルシンキング
などが極めて重要です。
単なる“物買い”から、“価値創出の戦略家・調整役”に進化すること、業界全体で「調達=企業価値そのもの」と認識し直すことが必要です。
“昭和からの脱皮”は現場から始まる
繰り返しになりますが、調達業務のブラックボックス化は、企業文化と制度慣習、その積み重ねの結果です。
だからこそ、現場の一人ひとりのバイヤーが「私はこうやって透明性に取り組みたい」「この業務は本当はもっと開示できる」「サプライヤーと一緒にここまで考えた」など、実践例を社内外に発信し続けていくことが突破口となります。
今こそ製造業調達は、「見える化」を恐れず、全体最適・新たな協創へと舵を切るべきです。
まとめ:現場目線で調達の価値を伝え続ける
調達業務が“ブラックボックス”と言われるのは、管理職としてもプロのバイヤーとしても悔しさと責任を感じるテーマです。
しかしその内実には、“守るべき企業競争力”と“変わるべき業界慣習”のせめぎ合いがあります。
この記事が、現場のバイヤーおよびサプライヤー、調達を目指す全ての方々に、“調達の本質”や“これから進むべき方向性”を考える一助となれば幸いです。
時代を切り拓く調達担当者こそ、昭和のアナログから抜け出す突破口になれると、私は信じています。
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