FTIRとSEMを活用した異物分析スペクトル解析と元素評価手法

はじめに：製造現場における異物分析の重要性

現在の製造業において、品質管理は企業の競争力に直結する重要課題です。
納品時に混入する異物や、現場で発生する微細な汚染物は、顧客クレームや不良品率の増加、さらには重大なリコールにつながるリスクとなります。
こうしたトラブルの根本原因を突き止め、再発を防止するためには、精度の高い異物分析が不可欠です。

現場のアナログなやり方がいまだに根強く残る製造業界ですが、近年では高度な分析機器の導入とノウハウの蓄積が進み、異物の成分や混入経路の特定が格段に進化しています。
この記事では「FTIR（フーリエ変換赤外分光法）」と「SEM（走査型電子顕微鏡）」による分析手法について、現場目線で詳しく解説します。

製造現場における異物問題の全体像と課題

異物の種類と混入経路の多様性

工場現場で発生する主な異物には、金属片、樹脂片、繊維、ゴム、紙、油脂、塗膜片、粉塵などが挙げられます。
それぞれ異なる混入経路があり、「原材料由来」「加工プロセス起因」「搬送設備由来」「作業者由来」「外部環境起因」など、原因の切り分けは非常に困難です。

現場での伝統的アプローチとその限界

アナログな対応では、現物の観察や比較的単純な化学試薬を用いた分析が行われてきました。
しかし人間の目と経験だけでは、異物の本質的な成分特定や詳細な解析は困難です。
結果、「対処療法的な原因推定」や「場当たり的な対応」に終始してしまい、根本的な再発防止に結びつかないケースが後を絶ちません。

FTIR（フーリエ変換赤外分光法）による異物スペクトル解析

FTIRの基本原理と特徴

FTIRとは、物質に赤外線を照射し、その吸収スペクトルから化学構造を特定する分析手法です。
微量な異物の成分が「何であるか」（有機・無機の判別や高分子材料、塗料など）を、非破壊かつ短時間で推定できます。

現場でのFTIR活用事例

たとえば、金属粉と外観が酷似した樹脂系異物の特定、ライン内で混入したガスケット片やシール材、皮脂や油脂分の判別に大きな威力を発揮します。
近年はμ-FTIR（顕微赤外分光装置）が一般化し、100μm以下の微粒子も詳細に分析可能です。

実務への応用ポイント

FTIR分析結果は、現場にとって「異物が何由来か（外部・内部）」、「製造工程のどの段階が原因か」、「どんな材料や資材に起因するか」を推定する重要な情報源です。
多くの現場では、得られたスペクトルデータを基準データベースと照合することで、迅速に類似物質をリストアップし、対策の方向性を決定します。

SEM（走査型電子顕微鏡）による微視的構造・元素評価手法

SEMの役割と基本原理

SEMは、電子ビームを試料表面に照射し、二次電子・反射電子の検出から高倍率画像を取得する装置です。
異物の表面構造や微細形態観察、付着・接着の状態解析で威力を発揮します。
また、EDX（エネルギー分散型X線分光分析）を併用することで、元素組成の定性・定量解析が可能です。

現場でのSEM+EDX応用事例

たとえば、白色微粒子の異物が「塗装ブース起因の塗膜片」か「外来性シリカ系粉塵」かを判定する、黒色粒子が「タイヤ由来カーボン」か「金属摩耗粉」かを識別するといった場面で活用します。
ニードル状、球状、板状など粒子形態の違いから、混入経路の推定も進みます。

ライン不良との因果関係追跡

SEMで観察できる「貼り付け状態」「バインダーの有無」「異物内の層構造」といった情報は、成因解明や再発防止策の検討時に不可欠です。
EDXによる元素分析では「Al・Si・Ca」などの無機成分の分布、「Fe・Ni・Cr」などの合金元素判別、「Cl・S」など汚染起因物質特定に直結します。

昭和的な現場文化と最新分析技術の融合

デジタル技術受容の壁とファシリテート

古き良き「匠」の勘や経験主義が根強く残る昭和的工場現場では、先端分析技術への忌避感や、データ活用力の不足が課題となりがちです。
「分析は専門部署だけがやるもの」との先入観が、現場全体の課題解決スピードを低下させるケースも目立ちます。
現場リーダーや管理職が、FTIRやSEMの分析結果を現場目線の言葉に変換し、改善活動へ橋渡しするファシリテーターとしての役割を果たすことが今後ますます重要です。

バイヤーやサプライヤーとの連携強化

サプライチェーンの複雑化に伴い、バイヤー目線できめ細かな異物情報や技術データの提供・共有が求められています。
サプライヤー側からも「どんな分析結果があれば顧客品質を守れるか」、「相手バイヤーがどういうアウトカムをもとめているか」を把握し、積極的提案型で異物管理の取り組みを深化させましょう。
分析データに即した報告書やトレーサビリティ体制も、信頼関係強化の非常に重要な要素です。

これからの異物分析：AI×自動化の新地平

AI活用によるラテラルシンキング拡張

分析スペクトルやSEM画像データをAIで自動判定する仕組みが、今や現実となりつつあります。
過去分析結果との照合や、異常傾向の自動抽出、潜在的混入パターンの見える化など、AIによる助走で人の発想が大きく強化されます。
「データの裏を読む」発想、「前例主義を超えた再発防止」につながるラテラルシンキングが求められています。