投稿日:2025年7月15日

FTIRSEMの原理測定時の留意点分析事例前処理方法ポイント

はじめに:製造業現場におけるFTIRとSEMの重要性

製造現場では、日々数多くの材料や部品が生産されています。
それら一つひとつの品質を維持し、不良率を低減することは、企業の競争力を左右する大きな要素です。
特に調達購買、生産管理、品質管理の分野では、工程や納入された部材の分析・解析が求められる場面が非常に多く存在します。

FTIR(フーリエ変換赤外分光法)およびSEM(走査型電子顕微鏡)は、そうした材料解析・異物分析において必須の測定機器です。
しかし、昭和時代から続く製造現場のアナログ的な運用や、測定ニーズの言語化が難しい現場では、「なんとなく」「先輩のやり方を踏襲」のまま活用されているケースが少なくありません。
本記事では、FTIRとSEMの原理、測定時の留意点、分析事例、前処理方法、そしてプロならではのポイントについて、徹底的に現場目線で解説していきます。

FTIR(フーリエ変換赤外分光法)の原理と現場での役割

FTIRの基本原理とは

FTIRは、サンプルに赤外線をあて、反射または透過した光を分光して解析する装置です。
物質に含まれる分子がそれぞれ固有の赤外吸収特性を持つことに着目し、取得したスペクトルから有機・無機化合物の特定や、異物混入物の推定などを行うことができます。

従来は単純な「目視確認」「リーダーの勘」に頼っていた異物分析も、FTIRを用いることで客観的な根拠を持った解析が可能となりました。

FTIRが活躍する現場の業務例

・調達品のコーティング材質違いや代替品混入の判定
・生産工程中の異物混入の原因究明
・クレーム品の異物正体や混入ルート推定
・原材料の事前確認と品質標準化

FTIRを効果的に活用するには、分析対象の形状・大きさ・状態に合わせた前処理や測定モードの選択が不可欠です。

SEM(走査型電子顕微鏡)の原理と現場へのインパクト

SEMの測定原理と特長

SEMは、電子ビームを試料表面に照射し、その反射や二次電子を検出することで、超高倍率で試料表面の微細構造を観察できます。
加えて、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)と組み合わせれば、元素組成の分析も並行して行えます。

部品の接合面やコーティング厚さなど、「人の目視では判定不能」だった工程異常や微小異物の観察が可能になります。

製造業でのSEM活用場面

・金属部品のクラックや破断面の微細組織観察
・樹脂材料内包異物やフィラー分散状態の確認
・電子部品基板のはんだ付け不良や接点異常の解析
・塗膜やコーティング表面の厚み分布評価

SEM解析は、QC工程のみならず、不具合再発防止やサプライヤー指導にも大きな説得力を持ちます。

FTIRとSEM測定時の留意点〜昭和から抜け出せない現場の“罠”〜

FTIR測定の落とし穴と解決法

FTIRの測定は「サンプルを台に乗せて測るだけ」という誤解が、長年現場に根付いています。
しかし、正しい測定には以下のようなポイントがあります。

– 対象が固体か液体か、微粒子かフィルムかで測定モード(透過、反射、ATR)の選択が違う
– サンプル表面に油や水分、埃があるとスペクトルがブレやすい
– 測定部位が多い場合、ロット間での分散、均一性も意識する
– 装置が古い・校正不十分だと誤判定リスクが高まる

また、「マニュアル通りに測れば誰でも同じ結果が出る」という認識も現場に多いですが、微粒子やフィルムなど複雑な試料では“分析者個人の経験値”が大きく結果を左右します。
日々の測定記録の蓄積や、NG事例からのフィードバックが重要です。

SEM測定ならではの現場的注意点

SEMの場合は、高真空下での測定となるため特有の留意事項があります。

– 導電性の無い樹脂や粉体は、金や炭素などのコーティング(前処理)が必須
– 油分や湿気が付着していると、真空引きが難航するリスク
– 測定倍率や加速電圧の選定で観える情報が大きく変わる
– 測定結果は“2D写真”で現れるため、測定者の視点や解釈力も大事

昭和時代からの“カリスマ的熟練者依存”では技術継承が困難ですので、ナレッジの形式知化・現場での勉強会・サプライヤーとの情報共有が未来志向の運用に不可欠です。

分析事例:異物混入・部材不良の解析フロー

1. 外観観察とサンプリング

まずはルーペや光学顕微鏡で異物・不良の位置、数、特徴を観察します。
現物試料の状況に応じて、できるだけ異物のみをピックアップ、分析用サブサンプルとして回収します。

2. FTIRによる成分特定

固体微粒子であればATR法、もしくはミクロケルセルにてFTIR測定を行います。
得られた赤外スペクトルを市販ライブラリおよび自社知見と照合し、「有機系異物・無機系異物」「樹脂系ならポリカーボネート、EVAか」など、同定していきます。

3. SEM/EDXによる微細構造と元素分析

次に、SEM観察を実施し、異物の形状・表面付着物・クラックなどを高分解能で確認します。
同時にEDX(元素分析)で「主成分がFe系かAl系か、Mg混入有無」などを確認します。

4. 分析結果の現場展開と改善提案

FTIRとSEMの結果を総合的に考察し、「異物混入の起源」が工程由来か、外部起因か、ロット特有かを推理します。
その上で、調達部門や生産現場と共有、再発防止策やサプライヤー指導に活かします。

このフローを回すことで現場の「勘」から「事実ベース」への転換が実現します。
それはまた、メーカー現場・サプライヤー間の信頼構築にも直結します。

前処理方法のポイント:測定結果を大きく左右する“最初のひと手間”

FTIR前処理の重要テクニック

・異物回収のためには、ピンセットやスパチュラの材料にも注意(ケミカルコンタミ防止)
・微小粒子は定量的に集め、バックグラウンド(台紙材)との重なりを避ける
・フィルム状なら、厚みを均一にし、シワや折れを極力なくす
・油分や水分の除去は、必要ならイソプロパノール洗浄等を組み合わせる

これらの前処理が雑であると、FTIRは正確なスペクトルが得られず、結論が出せなくなります。

SEM前処理の現場ノウハウ

・樹脂や粉末、表面絶縁性材料は金・パラジウム等で数nm程度の薄膜蒸着コートを施す
・サンプルを台座上にしっかり固定し、観察箇所がズレないよう配慮する
・異物が微細領域限定なら、アルミテープで導電パスを施すことで帯電抑制
・水分や溶剤が残存しないよう、慎重な乾燥・シーリング作業

これらの工夫を“丁寧かつ効率よく”実施するため、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底が技術力向上の要です。

プロ現場で大切にしたい“ラテラルシンキング”のススメ

FTIR、SEM分析において、最も怖いのは「いつも通りやっているから大丈夫」という思考停止です。
たとえば、目の前の異物に「以前同じだったから今回も同じ」と断じてしまうと、重大ミスの温床となります。
実際には「同じ異物に見えて、今度は別の起源だった」ということも多々あります。

バイヤーや設計担当者が求めるのは、過去の慣習ではなく、現場が本質的に変革し、課題を発見・解決できる分析力です。
疑うこと、視点を変えること、違和感を大事にすること。
そのためには、分析結果の多面的解釈や、「なぜこの工程で?」「サプライヤーの他ロットは?」など、周辺情報と現物解析をつなぐラテラルシンキングの姿勢が重要となるのです。

個々の分析から得たデータは、現場DX、品質保証、トレーサビリティ強化にも応用できます。
デジタルツールやRPA、AIとの連動でデータ解析を自動化する流れ(デジタル化推進)においても、FTIR・SEMは今後ますますその需要が高まっていくでしょう。

まとめ:明日の現場力へ、FTIR・SEMを使いこなす

FTIRとSEMは、製造業現場を客観的根拠にもとづき“見える化”するための強力な分析ツールです。
しかし、それらを「単なる分析装置」としてではなく、現場で起こる課題、工程の不良、サプライヤー管理にどう活かすか、が最大のポイントと言えます。

正しい原理理解と、サンプルの状態・工程背景・相手の意図まで考えぬくラテラルシンキングが、真の現場力・バイヤー力となります。
昭和時代からの「属人化」「勘と経験の現場」から脱却し、分析力・考察力・改善力の三位一体こそが、これからの製造業の競争力を支えるはずです。

バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの思考を知りたい方には、FTIR・SEM解析の現場ノウハウを理解することは大きな武器となります。
業界の課題を解きあかすカギを、一歩ずつ現場から積み上げていきましょう。

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