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アコースティックエミッション技術の基礎と設備診断への応用事例

目次
アコースティックエミッション(AE)技術とは
アコースティックエミッション技術は、材料や構造物内部で発生する微小なひずみエネルギーが弾性波として放射される現象を捉え、欠陥の発生・進展をリアルタイムに検知する非破壊検査手法です。
超音波探傷や振動診断と混同されやすいですが、AEは「欠陥が動いた瞬間のエネルギー」を直接とらえる点が最大の特徴です。
センサーはピエゾ素子を用い、高周波(数十 kHz~1 MHz)の信号を電気信号に変換して解析します。
この技術は1960年代に基礎研究が進み、発電・化学プラントの圧力容器検査などで実用化が始まりましたが、近年はIoT化・センサー低価格化により製造現場でも採用ハードルが急速に下がっています。
なぜ今、AEが注目されるのか
・設備の老朽化と熟練保全員の退職が重なり、現場に「経験と勘」が不足してきた。
・IoTデバイスの低価格化により、常時監視でもコストが合うフェーズに入った。
・サプライチェーンの混乱で予防保全の重要度が増し、突発停止は許容されなくなった。
・SDGs対応として「作っては壊す」から「長く使う」へ経営方針が転換している。
AEによる設備診断の原理
AEは欠陥が動くたびにパルス上の波形を生成します。
これを時刻・周波数・振幅の三次元で捉え、発生源の位置推定(ひずみ波動の到達差法)、事象識別(摩耗、割れ、腐食割れ、漏えいなど)を行います。
例えばボルト締結体が弛むと、ねじ山が滑る瞬間に「カチッ」というAEが出ます。
ベアリングでは転動体が欠けた瞬間に高周波パルスが立ち上がり、その後の繰返し周波数からフェーズ判定が可能です。
従来技術との比較
超音波探傷:欠陥の「位置と大きさ」は分かるが、止めてから探査するバッチ検査。
振動診断:回転機械の「異常兆候」を把握できるが、欠陥発生と断定しづらい。
AE診断:設備稼働中に欠陥進展を検出。休車不要、リアルタイム性が高い。
現場導入のステップ
1. 目的と対象の明確化
AEは万能ではありません。
圧力容器、回転機械、高温配管、FRPタンクなど「進展型の欠陥」が致命傷になる設備ほど効果が高いです。
まずは「止められない設備」「ダウンタイムが高コストなライン」を対象に絞ります。
2. センシング設計
センサー設置位置は経験則でなくAE到達経路をCAE解析すると効果的です。
磁石取付タイプなら溶接不要で既設ラインにも後付け可能。
外乱ノイズ(エアハンマー、搬送振動)はゲイン、フィルタ、イベントカウントで遮断します。
3. データ収集と教師データ作り
AEは「欠陥が動かないと音がしない」ため正常データが続く点が課題です。
そこでイレギュラー時の波形を模擬的に発生させて教師データを作る、あるいは異常検知アルゴリズムで教師なし学習を採用します。
最近のAIエンジンはFew-shot学習に対応し、初期データ不足を克服しつつあります。
4. 運用・評価・改善
AEは発報閾値のチューニングが肝心です。
現場では「鳴りっぱなしアラーム」は即座に無視されます。
統計的に発生頻度と重大故障の相関をレビューし、PL(もしもしボックス)式に第一報→経過観察→停止判断の3段階アラームを設計しましょう。
応用事例
圧延設備のバックアップロール割れ検知
大型圧延機のロールは鍛造鋼で高コストです。
割れが進展し突然破断するとライン停止だけでなく火災につながります。
AEセンサーをロールネック部に設置し、割れ由来の高周波パルスを検知すると5日前後で故障予測が可能になり、定期交換サイクルを25%延伸できました。
高圧水素タンクの漏えい監視
水素ステーションでは水素脆化による微小クラックが問題です。
遠隔AE監視を実装し、クラック進展時のAEヒット数とエネルギー総和からフラクトグラフィ解析を行い、安全弁開放前に停止制御を掛けるシステムを構築しました。
ベアリングの早期損傷検出
振動診断では回転数依存の成分がマスキングされる小容量モーターにもAEは有効です。
転動体のピッチ周波数×n倍成分をキャプチャし、異常発生後3日以内に計画保全へ切替えられ、予備品在庫の適正化につながりました。
調達・バイヤー視点で押さえるべきポイント
・AEシステムはセンサー、前置増幅器、解析ソフトの構成だが、ライセンス体系がベンダーで大きく異なる。
・既設DCSと連携可能か、MODBUS/TCP・OPC UAなど通信規格を要確認。
・エンジニアリング費(CAE配置解析、アタッチメント設計)が本体と同等かかるケースもある。
・サブスクリプション型なら初期費用を抑えられ、費用対効果を実運用で検証できる。
サプライヤーがバイヤーの期待に応えるために
・デモ機貸出とオンライン解析サービスをセットで提案し、導入リスクを下げる。
・成功事例を同業種・同規模ラインで提示し、ROIシミュレーションを共創する。
・昭和的に「一括納入して終わり」ではなく、データドリブンで伴走するサポート契約を準備する。
昭和からの脱却:アナログ保全と共存するコツ
AEはデジタルツールですが、現場は未だ点検ハンマーと聴診棒文化が残ります。
重要なのは「置き換え」ではなく「共存」。
熟練工の打音検査とAE波形を比較し、ナレッジをデジタルに翻訳するプロセスを組み込むと抵抗感が減り、技術継承にもなります。
まとめ
アコースティックエミッション技術は、稼働中設備の欠陥進展をリアルタイム検知する強力な非破壊検査手段です。
IoT・AIの後押しで導入障壁は急速に低下し、設備の信頼性向上と保全コスト削減を同時に実現できます。
バイヤーは費用対効果とインテグレーション性を重視し、サプライヤーはエンジニアリング支援と伴走型サービスで差別化することが鍵となります。
昭和のアナログ保全にAEを掛け合わせることで、現場知とデジタルが融合し、新しい製造業のスタンダードが生まれます。
今こそ、AE技術で止まらない工場を実現しましょう。
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