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流体力学の基礎と数値シミュレーションによる損失予測および低減への応用

目次
はじめに
流体力学は、製造業の現場において数多くの課題解決に活用される重要な学問分野です。
特に、流体が原因となるエネルギー損失や流れのトラブルは、製造ラインの効率や製品の品質に直結します。
本記事では、流体力学の基礎知識から最新の数値シミュレーション技術を活用した損失予測および低減策まで、現場目線で解説します。
また、昭和から抜けきれないアナログ工程の現状や、それを打破するための具体的な着眼点についても深堀りしていきます。
流体力学の基礎知識
流体とは何か
流体とは、外部からの力を受けると変形し続ける性質を持つ物質を指します。
代表的な流体は「液体」と「気体」です。
製造現場では、水や油などの液体、空気や蒸気などの気体が頻繁に扱われています。
重要な物理法則
流体力学の基本にはいくつかの重要な物理法則があります。
その代表例が「ベルヌーイの定理」です。
ベルヌーイの定理は、流れの速度と圧力、位置エネルギーの関係を示しており、配管内の圧力低下やノズルからの噴射挙動、ポンプやファンの動作解析の基本となります。
また、「連続の式」も製造現場では欠かせません。
これは流入・流出が等しい(保存則)という考え方です。
これにより、配管設計や装置の連結部に発生するトラブルの予防策を立てやすくなります。
損失とその発生原因
流体が配管やバルブ、ノズルを流れる際に発生する「損失」は、製造業における効率化の大きな障害です。
主な損失には「摩擦損失」と「局所損失」があります。
摩擦損失は配管内壁との間で生じ、局所損失はバルブやエルボなど突発的な流路変化部で生じます。
これらの損失をいかに小さく抑えるかが、原価低減・品質向上のカギとなります。
数値シミュレーション(CFD)の活用
流体解析の進化
かつては紙上計算や現場での経験則による現象理解が主流でしたが、現在では「数値流体力学(CFD)」が主役となりつつあります。
CFDはコンピューター上で流体の動きを数式で解き、可視化まで実現する技術です。
この技術により従来見えなかった流れの内部構造や損失発生箇所を、設計段階で簡単に把握できるようになりました。
現場での適用事例
製造業の現場目線では、CFDを以下のような場面で有効に活用できます。
- 配管設計時の圧力損失評価
- 熱交換器や冷却装置の最適化
- ポンプやファン、コンプレッサの能力評価
- ダクトやチャンバー内の風量バランスの調整
たとえば、工場の冷却水ラインで撹拌や流速のムラが発生しやすい箇所をあらかじめシミュレーションすることで、現場でのトラブルや余計なコストを抑えることができます。
また、設備更新の際も「設計通りの性能が出るか?」を事前に確認できるので、投資対効果の最大化にもつながります。
損失低減への活かし方
CFDのメリットは、損失要因を科学的に特定できる点です。
これまで「ここは昔からこうだったから仕方ない」という暗黙の了解で見過ごされていた設計のムダが、数値で明らかになります。
そこで設計変更や現場改善を行うことで、エネルギー消費の削減やオペレーターの負担軽減を実現できます。
アナログから脱却するためのラテラルシンキング
なぜアナログ手法が根強いのか
日本の製造現場では、経験や勘に頼ったアナログな流体管理が今も主流です。
その理由は「過去の成功体験」「現場リーダーの属人化」「そもそもデータを測ってこなかった土台」など多岐に渡ります。
「昔からこのやり方でトラブルがなかったから変えたくない」という声もよく耳にしますが、これが技術革新の障壁となっています。
ラテラルシンキング(水平思考)とは
これまでの「縦割り」思考、すなわち部分最適志向から脱却し、「流れ全体」「ライン全体」「システム全体」を俯瞰する発想が重要になります。
たとえば、圧力損失ひとつとっても、単に太い配管に換えれば解決する場合ばかりではありません。
根本原因は流路の取り回しにある場合もあり、場合によってはレイアウトそのものを再設計すべきという大胆な発想が求められます。
現場が明日から使えるラテラルシンキングの一例
- 「なぜこのポンプはいつも高負荷で動いているのか?」をライン全体の流量バランスから再検討
- 配管洗浄の手間とコストを、CFDでスラッジ堆積位置を特定し重点洗浄化
- 省エネと歩留まり向上をリンクさせる「損失可視化」活動を現場日報に取り入れる
このように、一つの問題を多層的に捉えてアプローチすることで、従来型の製造現場でも新しい価値を生み出すことが可能です。
サプライヤー・バイヤー視点での流体損失対策
調達・購買担当者に求められる視点
バイヤーを目指す方には「損失=コスト増」を直感的に理解し、数値で示せる力が求められます。
たとえば配管やポンプの仕様選定時、「初期コスト」だけでなく、「運転中の電力量」「消耗品の頻度」「メンテナンスのしやすさ」まで含めたトータルコストの算定が肝心です。
現場から「このバルブは詰まりやすい」「このラインは流量が安定しない」という声を拾い、サプライヤーに説明できれば、より有利な交渉を進める武器となります。
サプライヤー側で意識すべきポイント
サプライヤーは、単なるモノ売りに留まらず「流体損失低減ソリューション」を提案できるパートナーであるべきです。
損失低減=顧客のエネルギーコストダウン=付加価値の提供となります。
シミュレーション技術や現場ヒアリングスキルを磨き、客先の「困りごと」を深掘りする姿勢が、他社との差別化に直結します。
DX時代における新潮流と今後の展望
データ駆動型モノづくりの到来
IoTやビッグデータ、AI技術の発展によって、流体の流量・温度・圧力などをリアルタイムで可視化し、さまざまなデータを組み合わせて解析できる時代が到来しています。
「見える化」した損失データを、現場改善や新製品開発に直結させるデータ駆動型モノづくりがこれからの主流になると考えられます。
人材育成と組織カルチャーの変革
先進技術を現場で活かすためには、人材の育成と組織カルチャーの変革も不可欠です。
流体力学やCFDのスキルだけでなく、「現場で実際に使うためには何が必要か」「どうやれば利益につながるのか」をチーム全体で議論し、PDCAサイクルを素早く回す文化を作りましょう。
まとめ
流体力学と数値シミュレーションは、製造業の現場改善やコスト競争力強化に直結する武器です。
昭和時代から続くアナログ手法の長所も活かしつつ、ラテラルシンキングで問題に多面的に挑むことが、これからの製造業には求められます。
調達・バイヤー・サプライヤーすべての立場で「損失」をただの数字で終わらせず、「未来の価値創造」の発着点と捉えて、実践的に活用していきましょう。
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