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系統連系制御の基礎と安定運用技術

目次
はじめに:製造業における系統連系制御の重要性
系統連系制御という言葉を耳にして、すぐに「電気のスマートな管理」というイメージを思い浮かべる人は少ないかもしれません。
しかし、現代の製造業工場では、この技術が極めて重要な意味を持っています。
電力網(系統)と自社工場の発電システム(太陽光発電、燃料電池、ガスタービン等)を連系し、安定かつ効率的にエネルギーを活用する。
言葉にすると簡単ですが、実際は奥が深く、昭和時代の「単独自家発運用」とは根本的に違う課題とチャンスが存在します。
本記事では、調達購買、生産管理、品質管理、さらに工場自動化まで経験してきた筆者の実体験に基づき、系統連系制御の基礎から、現場目線での安定運用のポイント、今後求められるバイヤーやサプライヤーの視点までを網羅的にやさしく解説します。
系統連系制御とは何か
系統連系とは?
系統連系とは、発電された電気を電力会社の電力系統(グリッド)と接続し、相互に電気をやり取りする仕組みです。
系統連系制御は、この接続点で「安全かつ安定的に」電力のやり取りを維持・制御する技術群のことを指します。
製造現場では、大型の太陽光発電や自家発電設備・非常用発電機などを連系運転するケースが増加しています。
カーボンニュートラルや省エネが叫ばれる昨今、系統連系制御は”工場の電気運用最適化”を支える根幹といえます。
なぜ系統連系制御が必要なのか
単純に自家発電するだけなら、工場の回路と発電機を接続すれば良いと思われがちです。
しかし、実際は
– 発電側と系統側の電圧・周波数の差
– 電力の逆流を防ぐ仕組み
– トラブル発生時の分離(アイランド)動作
– 法的基準(系統連系規程やJEM規格など)
といった課題があります。
現場でよくあるのは「連系したら機械が誤動作した」「周波数が安定しない」「設備導入時に電力会社との調整に手間取る」といったアナログ時代の名残りトラブルです。
これらを解決し、生産活動を止めないためにも、系統連系制御は不可欠となっています。
系統連系制御の基礎技術
1.電圧・周波数の自動調整(同期運転制御)
系統と工場の発電設備が安定して連系できるよう、電圧と周波数を自動調整・同期させる装置(シンクロナイザ)が活用されます。
製造現場では、同期前の電圧急変で突入電流が流れ、他の設備に悪影響が出るケースも。
最新型のインバータやPCS(パワーコンディショナ)は、高速かつ高精度な同期制御が組み込まれており、業界標準となっています。
2.逆潮流防止・保護システム
自社発電設備から系統側への「逆潮流」(電気の逆流)は、系統事故や近隣トラブルの最大要因。
とくに昭和~平成初期の古い配電板では逆潮流機能が不十分で、想定外の事故をまねきます。
最近では「逆潮流リレー」や「監視装置」「デマンド監視」などが導入され、瞬時に逆潮流を検出→遮断するシステム構築が常識となっています。
3.アイランド(単独運転)検出制御
系統トラブルや災害時に自社だけ発電し続け、近隣住宅等を停電復旧してしまう(単独運転=アイランド)と、重大な人身事故や感電を引き起こします。
これを確実に検出・遮断する「アイランド検出回路」が、正しい系統連系制御の要です。
最近のPCS/インバータには標準搭載されていますが、古い設備はリプレースや追加工事が必須です。
4.電力量・需給バランス監視(デマンド制御)
生産変動やライン停止・再稼働等による電力量変化をリアルタイムで監視し、過負荷やパワーマネジメントを最適化する技術も重要です。
「30分デマンド監視」「ピークカット制御」「余剰電力の売電最適化」など、買電コストと省エネを両立させる知恵が現場のバイヤー・調達担当者に求められています。
現場目線で見た安定運用のカギ
現場の課題「まだ昭和のまま」問題
多くの製造業現場では、1990年代以前の建屋、配電盤、旧式発電機が「そのまま」使われている現実があります。
これが新しい系統連系設備の導入時に障壁となり、事故リスクやトラブルのもとになっています。
原因は
– 設備更新コストの後回し
– 電力会社や保安協会との調整ノウハウ不足
– アナログ設備の運用維持(紙台帳・手書き管理)
– 「連系制御」担当者が不在(属人化)
などですが、ひとたび事故が発生すれば、甚大な生産損失・賠償リスクにつながります。
現場目線では、「安全余裕がありすぎる仕様」より「必要な対策はしっかり・無駄は削る」バランス感覚が肝心です。
設備選定とバイヤー・サプライヤーの間にある壁
バイヤー(調達担当)は、価格とスペックばかりを重視しがちですが、現場運用では
– 保守性(消耗品・ユニット交換)
– 導入後の教育・ドキュメント整備
– 既設設備とのI/F(インターフェース)相性
– 電力会社との協議サポートの有無
といった”運用しやすさ”が本質的な評価ポイントです。
一方、サプライヤー側は仕様書通りの納入に終始しがちで、現場の困りごとや使い勝手まで掘り下げられないケースも見受けられます。
バイヤーは「カタログスペックの落とし穴」に陥らず、現場担当者と密に意見交換し、サプライヤーにも「導入後のお守り」的な責任意識とノウハウ提供を求めたいところです。
インシデント事例と学び
過去の実体験から、特に印象深いインシデント事例を一つ紹介します。
大型工場で新型ガスタービンを導入、系統連系制御装置も最新型へ更新。
しかし、現場の「他の既設設備」と細かな信号インターフェースが未調整のまま立ち上げてしまい…
– 連系切替時にラインロス発生
– 複数生産装置でバランス崩壊、全体停止
– 原因特定に72時間、3,000万円以上の損失に
この事例からわかるのは、「単体装置の性能」だけでなく「総合設備としての連携性」「切り替え手順・ドキュメント化」「試運転時の立ち会い・想定外シナリオ検証」がきわめて重要であること。
バイヤー・サプライヤー・現場が三位一体となったPDCAサイクルが、安定運用への近道です。
今後のバイヤー・サプライヤーに求められる視点
デジタル化とアナログの共存が必須
IoT、AI、クラウドという時流がある一方で、製造現場はまだ昭和アナログの世界観が根強く残ります。
たとえば
– 紙運用の稟議プロセス
– 手書き日報・点検票
– 電力会社とのFAXベース申請
といったプロセスが現実に存在します。
ここで必要なのは、「現場が混乱しないデジタル化の設計」と「アナログ部門との橋渡し役」です。
バイヤーはデータ収集・見える化ツールを提案できる柔軟性、サプライヤーは現場説明・サポート体制づくりを重視する時代です。
カーボンニュートラル政策と系統運用の両立
2030年・2050年のCN(カーボンニュートラル)達成に向けて、工場の再エネ導入推進は加速しています。
これに伴い、系統連系制御の重要性と運用難易度はますます高まります。
バイヤー・サプライヤー双方が「脱炭素」「持続可能な運用フロー」まで見据えた提案・知識武装が必須です。
特にバイヤーは、ZEB(ゼロエネルギービル)、RE100、国・自治体の補助金申請まで含めて、事業性と安全性のバランスを見極める”俯瞰力”が求められます。
まとめ:現場・バイヤー・サプライヤーが共創する未来へ
系統連系制御の世界は、単なる「電力技術」ではありません。
工場の安全・生産性・BCP(事業継続計画)から、コスト削減・環境対応まで、製造業の未来を支えるプラットフォームです。
現場、バイヤー、サプライヤーがそれぞれの立場から
– 日々の運用・保守課題に向き合う力
– 最新動向の把握・知識アップデート
– 協働によるトラブル未然防止
を積み上げていくことで、安定運用と業界の進化が実現します。
これからの製造業にこそ、業界の垣根や昭和アナログの限界を超える「新しい連系・共創」の動きが求められます。
ともに未来を切り拓いていきましょう。
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