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振動・騒音の基礎と自動車騒音の低減策および事例

目次
はじめに:なぜ今、振動・騒音対策が重要なのか
現代社会において、快適な生活基盤を支える自動車産業は、ますます厳しい環境規制とユーザーニーズの高まりに直面しています。
その中でも、「振動」や「騒音」は自動車に欠かせない品質要素となっており、製造業に従事する私たちにとっても極めて重要なテーマです。
機械の発展とともに進化してきたこの分野ですが、一方で現場では「昭和型」のアナログ的な対応が根強く残っているのも事実です。
本記事では、振動・騒音の基礎から自動車業界での低減策、そして実際の取り組み事例まで、業界で20年以上経験を積んできた視点で詳しく紹介します。
また、調達・購買や生産現場でのバイヤー目線、サプライヤーが知っておくべき内容も盛り込み、製造現場全体の知見共有とレベルアップに役立つ内容を目指しています。
振動・騒音の基礎知識
振動とは何か?
振動とは、物体が平衡状態から繰り返し動く運動、あるいは周期的・非周期的な揺れのことです。
自動車ではエンジン、ドライブシャフト、タイヤ、そして車体そのものの共振など、多くの部品が振動源となります。
この振動がそのまま伝わると、快適性が損なわれるだけでなく、部品の寿命や安全性にも直結します。
現場では「単なる揺れ」として放置しがちな振動ですが、メカニズムと発生源を理解し、その対策が品質向上と生産性向上のカギを握ります。
騒音とは何か?
騒音は、広義には「望ましくない音」の総称です。
自動車の騒音源は多岐にわたり、エンジン、排気、タイヤ、エアコン、ベアリング、ギア、外部風切り音などがあります。
法規制上はdB(デシベル)で表現されますが、実際のユーザー感覚では「耳障り」「不快」「異音」として認識されます。
このようなサウンド・クオリティは製品価値に直結し、他社との差別化、リピート購買にも影響を及ぼします。
振動・騒音の相関関係
振動と騒音は、密接に関係しています。
例えば、エンジン部品の微小な摩耗やガタつきがやがて異常振動を招き、それが構造を伝わって最終的には車室内の騒音となって現れます。
また、振動をコントロールすることで二次的な騒音低減が図れるケースも多くあります。
「目には見えないが耳には届く」現象を技術的・科学的に捉えることが、製造現場での本質的解決への第一歩となります。
自動車業界における振動・騒音の現状と課題
強まる規制とユーザーニーズ
欧州、北米、アジア諸国を中心に自動車騒音規制が年々強化されています。
新車開発段階での車外騒音値はもとより、走行シーン、加速時、アイドリング時など複数ケースでのクリアが要求される時代です。
さらに、電動化・ハイブリッド化によって、従来エンジン音がマスキングしていた「微小異音」や「キャビン内部の突発的なノイズ」も顕在化しやすくなっています。
顧客の期待も「静かさ」と「心地よい音の質」両面で厳しくなっており、現場はますます高度な対応が求められています。
工場・現場に根付くアナログ対応の実態
一方、現場レベルでは「昭和の熟練工頼み」の感覚や、経験値重視の音判別に依存している職場も少なくありません。
試作車両での打音検査、現場担当者の主観での品番選定、測定データのアナログ管理など、非効率なプロセスも多く残存しています。
バイヤー側は、こうした属人的・場当たり的な対応が、最終的な品質リスクやクレーム増加の温床となりかねません。
サプライヤー側も客観的指標を提示できなければ、継続取引や新規受注獲得で優位に立つことは難しい時代です。
自動車騒音の主な低減策(技術的アプローチ)
1.発生源対策
まず最優先すべきは「騒音・振動を発生させない設計」です。
具体的には、部品の精度向上や公差管理、可動部の不要な摩擦抑制、バランス取り、静粛設計(NVH設計:Noise,Vibration, Harshness)が挙げられます。
材料面では、減衰性に優れる樹脂や複合材の採用、動的シール構造の見直しなども効果的です。
生産段階では、ねじ締付けや組付け精度の低下が後工程での不具合につながりやすいため、熟練 operator の勘頼みから脱却し、自動化・標準化を徹底することが求められます。
2.伝達経路対策
どうしても発生源ゼロにできない場合、二次的な対策が不可欠です。
例えば、エンジン搭載ゴムマウントの材質変更・最適化や、遮音材・吸音材の部位別配置がこれに当たります。
最近ではCAE(数値解析)を活用し、振動モードや音場シミュレーションを事前に行い、最適な部品レイアウトや材料厚みを設計段階で織り込む手法が主流です。
工具レスで部品交換可能な新構造設計などもユーザー評価向上に寄与します。
3.受側対策(最終的な被騒音者の保護)
それでも取り切れないケースでは、最終的な乗員の快適性確保のための受側対策が必要です。
シートのクッション性改善、車室内インテリアの多層化、サウンドアクアスティック(音響工学)の導入など、心地よい滞留環境そのものを高める工夫が重要となります。
また、マイクやセンサーによるAI異音判別システムの導入も急速に拡大しており、「音の品質」取り組みそのものが大きな商材価値となる時代です。
現場目線の改善事例
データ活用×現場の勘所で“検知ロス”を削減
ある大手自動車メーカーの工場では、組立ライン終端での「異音発生車両」の検知率が課題になっていました。
従来は、熟練作業者が走行しながら耳で判別し、基準に満たない車両は再検査するという極めてアナログな方法でした。
そこで導入されたのが、加速度センサーと集音マイクを各ポイントに設置し、そのデータと従来の「カン・コツ判定」のハイブリッド化です。
これにより、工数削減と判定精度の可視化を同時に実現し、さらに異音発生個所のフィードバックを工程管理データと結合。
調達購買担当者はサプライヤー選定基準に「可視化データの積極提供」を標準化し、現場⇔サプライヤーの連携を強化できたのです。
リモート監査&AI判定で、省人化と標準化を実現
コロナ禍以降、対面での工程監査が難しくなり、ある部品メーカーではリモート監査・AI異音判定を本格導入しました。
専用の音響ブースと解析ソフトを使い、最終工程で自動判定。
その判定動画と結果データをバイヤー部門へ即時共有することで、従来1日がかりだった判定・連携プロセスが1時間以内に短縮されました。
この成功事例を契機に、AIベースの異音学習モデル構築や、デジタルツールを絡めた改善も現場で加速しています。
調達購買・バイヤー視点で重視すべきポイント
1.サプライヤー評価に「見える化」「定量化」を組込む
取引選定時には、「どこまで客観的指標で品質を語れるか」が大きな差別化となります。
例えば、「XXdB以下の異音データ保証」「DEQ(Digital Engineering Quality)の定点観測」などが評価対象となります。
また、「どんな測定機器・手法を使い、どのように数値化→是正までを回しているか」チェックリスト化して交渉材料にするのも有効です。
現場で言われがちな「量産現場はアナログ対応でいい」という発想から、積極的に脱却していきましょう。
2.現場の声や不良クレーム実態にも目を向ける
バイヤー現場はつい価格や納期、スペック達成に目が行きがちです。
ですが、「どの工程で・どんなレベルの騒音不良が出ているか」「現場作業者やユーザーから“うるさい”など生の声が上がっているか」を日常的に把握し対策に反映させることが大事です。
購買部門が情報伝達のハブになることで、製販一体の現場改善サイクルが出来上がります。
サプライヤー視点でやるべきこと
1.データによる信頼づくり
長期的な取引継続に不可欠なのは、「数値データで納得性を示す」ことです。
自社の品質管理レベルを客観的に明示できるよう、dB値・加速度波形・振動周波数分布などアウトプットできる体制を整えておきましょう。
可能なら第三者機関での測定証明書を付加価値として使うのも一案です。
2.“ユーザー想像力”を持つ
バイヤーや最終ユーザーが“どのような場面で不快に感じるのか”を日頃からキャッチアップし、細やかな改善提案や、使いやすい測定レポート(グラフやコメント付き)をタイムリーに提出することが有効です。
「現場のコスト意識」と「使いやすさ・説明しやすさ」の両立が、これからの選ばれるサプライヤー像だと言えるでしょう。
今後の展望と課題
技術的にはAIとIoTを活用した異常検知や、自動 修正フィードバック制御など「自律型品質マネジメント」が主流になっていきます。
一方で、現場ではヒューマンスキルと機械判定のベストバランスが求められる時代になるでしょう。
製造業各社は「脱・昭和的アナログ」「デジタル×人知融合」を合言葉に、品質の新たな地平線を切り拓く必要があります。
まとめ
振動・騒音対策は、単なるクレーム削減や法規制対応だけではなく、顧客価値を生む“攻めの品質”戦略にもなります。
「発生源」「経路」「受側」の三段階、さらには現場の知恵と最新技術のベストミックスを追求すること。
その過程で、調達・購買部門とサプライヤーが共通言語と評価軸を持ち、現場全体で品質向上に挑戦できることが、今後の日本の製造業にとって不可欠です。
この記事が、日々現場で悩み、工夫を重ねている皆さんにとって、一つの新しいヒントとなれば幸いです。
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