投稿日:2025年6月25日

金属材料のガルバニック腐食防食技術基礎と異種金属接触トラブル対策ノウハウ

はじめに:金属材料におけるガルバニック腐食の重要性

現代の製造業では、さまざまな金属材料を複雑に組み合わせて製品が作られています。

特に自動車、電機、機械、重工業などの分野では、コストや性能、軽量化などの要請から、異種金属の複合化がますます進んでいます。

こうした中、現場で最も気を付けなければならない課題の一つが「ガルバニック腐食(異種金属接触腐食)」によるトラブルです。

ガルバニック腐食は、設計段階から生産現場、調達購買、品質管理まで幅広く影響し、不良やクレームだけでなく、場合によっては大規模なリコールや修理費用の増大にもつながるリスクを持っています。

本記事では、現場目線での実践的な防食技術や、異種金属接触によるトラブル事例、そしてそれを未然に防ぐための具体的なノウハウを徹底解説します。

今なお昭和的なアナログ型体質が根強く残る業界だからこそ、知っておきたい内容をお届けします。

ガルバニック腐食とは何か?仕組みを正しく理解する

ガルバニック腐食とは、二つ以上の異なる金属が電解質(主に水分や湿気)の存在下で接触しているとき、電位差のある金属同士が電気化学反応を起こして、一方の金属が著しく腐食する現象です。

これは「異種金属接触腐食」や「二金属腐食」とも呼ばれます。

腐食が発生するメカニズム

異なる金属を導電性の水分下で接触させると、電気的な回路が形成されます。

電気化学的な貴金属(イオン化傾向の低い金属:たとえばステンレスや銅)が「カソード」になり、卑金属(イオン化傾向の高い金属:鉄や亜鉛、アルミなど)が「アノード」となります。

アノードとなった金属は電子を失い、どんどん腐食します。

この現象が「ガルバニック効果」です。

日常の製造現場でよく見るトラブル例

例えば、自動車ボディー(鉄)とアルミ製部品をボルトで締結したケース、電装機器での銅線とアルミ端子の接続、あるいは亜鉛メッキされたボルトと真鍮ナットの組み合わせ。

これらは一見問題なさそうでも、湿度の高い環境や結露、雨水の侵入などで、数ヶ月~数年でアノード側金属に激しい腐食が発生し、機能不全や安全性の低下につながります。

なぜガルバニック腐食は今もトラブルの温床なのか?

昭和時代から続く日本の製造現場では、「これまで通り大丈夫だった」「規格でOKだから問題なし」といった前例主義が根付いています。

しかし、近年では材料や設計思想の多様化、グローバル展開による環境条件の変化、コストダウン対策による材料変更などが進み、その“思い込み”が大きな落とし穴になっています。

設計・調達現場でありがちなガルバニック腐食の盲点

– 社内標準部品の材質を変更した際に、異種金属間の組み合わせを未確認
– サプライヤー変更時に、ナットやワッシャー等の細かい付属部品の材質が異なっていた
– 海外現地調達品の防錆処理や表面仕上げが、日本規格とは微妙に異なる
– 環境認証やRoHS指令対応でコーティング材料を変更した結果、耐食性が低下
– 一時的な応急対応で取引先が指定とは違う材料を自社判断で用いた

こうした細かな変化や見落としが積み重なり、大量生産開始後しばらくしてから“突然”大トラブルにつながることも珍しくありません。

ガルバニック腐食を科学的に予測するポイント

1. 電位差(ガルバニックシリーズ)を把握する

まず、最も重要なのは異種金属の「標準電極電位差」(いわゆるガルバニックシリーズ)を意識することです。

アルミ⇒亜鉛⇒鉄⇒鉛⇒銅⇒銀⇒金の順に、貴(腐食しにくい)→卑(腐食しやすい)となります。

コンビネーションを選ぶ際、電位差が大きいほど、アノード(金属の左側)がより激しく腐食します。

特にアルミニウム合金は、電位差が大きい組み合わせだと数か月~数年で穴が空いてしまうこともあります。

2. 接触面積と電流分布の法則

カソード(貴金属)の面積がアノード(卑金属)に比べて極端に大きい場合、小さなアノード(たとえば小さなボルトやリベット)が集中的に腐食する傾向があります。

逆に、卑金属の面積が大きく、貴金属が小さい場合、腐食スピードは相対的に遅くなります。

現場では「大型のアルミパネルにステンレスねじをぱらぱらと使ったら、ボルト穴から腐食が発生した」という事例がしばしば報告されます。

3. 環境条件の把握

海沿いの工場、気温差の激しい場所、多湿・結露しやすいライン、アルカリ・酸性雰囲気、塩害が想定される現場では、ガルバニック腐食が加速します。

これらの条件下では、通常設計よりワンランク上の材料・防食対策が必須となります。

実践的なガルバニック腐食防止技術・ノウハウ

現場で役立つ“すぐできる”異種金属接触トラブル対策を紹介します。

物理的絶縁化(インシュレーション)

もっとも有効なのは、「直接の金属接触を絶つ」ことです。

絶縁ワッシャーや絶縁ブッシュ(樹脂やセラミック製)、絶縁テープの挿入、あるいは塗装やコーティング、ゴムパッキンの使用。

小さなコストで大きな効果が得られる、現場一押しのノウハウです。

腐食速度をコントロールする材質選定

可能なら同種金属同士でまとめる、もしくは、ガルバニックシリーズで電位差の小さい組み合わせを採用します。

また、アノードとなる側の金属(腐食しやすい側)をあえて厚く、余裕をもって設計するなど、腐食寿命を勘案した設計配慮も重要です。

表面処理とコーティングの最適化

塗装、メッキ(亜鉛メッキ、ニッケルメッキなど)、耐食性のある被膜処理(アルマイトなど)を適宜組み合わせます。

ただし、被膜が部分的に破壊されると、かえって塗装下のアノードが激しく局部腐食する場合があるため、貫通穴や端部、損傷リスク箇所の追加対策が重要です。

設計段階からの具体的な注意点

– 異種金属接触部を設計値・部品表(BOM)で徹底明記し、材料変更時には必ず専門部署・サプライヤーに確認を取る
– 組立要領や保全マニュアルに、「異種金属禁止」または「必ず絶縁を入れる」などピクトグラムを明記
– 購買・調達部門では、材質ミスマッチのリスクを理解し、全納入部品の材質を見える化
– 品質管理や出荷検査項目として、見逃しやすい接合部の確認工程を追加
– 顧客や現場からのフィードバック・クレーム事例をナレッジ化し、次設計への情報還元を強化

リアルな現場事例:サプライヤーとの連携強化が鍵

ある工場で、海外サプライヤー調達のアルミケースと、日本製ステンレスねじを組み合わせた新製品で、出荷後数ヶ月でアルミケースの座面にびっしりと腐食孔が発生しました。

原因は、マレーシア現地の多湿環境でのパック保管+組立時に絶縁パッキンの有無が管理不徹底だったため。

現場は、「従来通り組み立てた」「図面指示通り」と主張しましたが、実際は部材変更の細かい情報伝達ロスや現地スタッフの教育不備が重なっていました。

この場合、「全社で材料情報の一元管理」「現地スタッフ教育の強化」「サプライヤー共通仕様化」の三つを徹底し、徹底した現場ヒアリングと対策マニュアル強化が品質を大きく改善しました。

バイヤー・サプライヤーの立場で考察する重要ポイント

バイヤー視点のポイント

調達コストや納期だけでなく、「仕様どおりの材質か」「表面処理・ロット差異がないか」を現地確認・図面レビューで徹底することが不可欠です。

また、グローバル調達時は現地法規(環境規制等)により社内標準外の処理が採用されていないかも要チェックです。

サプライヤー視点のポイント

バイヤーが材料や防食仕様の根拠をきちんと理解しているかどうか、実際の使用環境(屋外か屋内か、結露・水浸の頻度など)を積極的にヒアリングする姿勢が大切です。

製品単体の図面通り納入で「事故が起きたら先方責任」ではなく、現場目線で“おせっかいかもしれませんが…”というスタンスが高評価につながります。

両者共通の現場密着型マインド

定例会議の形式主義から脱し、「現場現物現実(3現主義)」の徹底、トラブル発生時は立場を超えて共に現場で原因追及・解決策を練り上げる協業体制がガルバニック腐食の未然防止とノウハウ蓄積につながります。

まとめ:金属材料のガルバニック腐食は“知っているつもり”が一番危険

異種金属の接触腐食トラブルは、製造業の“百年の伝統”があるといっても過言ではないほどありふれた現象ですが、環境・材料の変化、グローバル化、工程の多様化によって日々そのリスク形態は変化しています。

「前例があるから大丈夫」ではなく、「現場の実情」「材料の違い」「未来のクレーム」を予測し、工程ごとに一つ一つ対策を強化することが安全・品質・コストの最適化につながります。

今、改めて「なぜ異種金属を組み合わせるのか」「どこにリスクがあるのか」「現場や調達サプライヤーとどんな連携が必要か」を見直すことが、未来志向の“強いものづくり現場”を築く一歩です。

本記事が、皆様の現場力向上・調達調和・より高品質ものづくりの一助となれば幸いです。

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